琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

僕が苦手だった彼女


 彼女は仕事ができたし、周囲にもしっかり気配りができる人だった。
 絶世の美女、というわけではないけれど、学生時代は、「実はあの子、いいと思わない?」と誰かが口火を切れば、みんなが「俺もそう思ってた」と同調するくらいの「気になる子」だったのだろうと思う。
 彼氏がいるにもかかわらず、飲み会にはよく顔を出していたのだけれど、その場での立ち居振る舞い、料理の取りわけかたや、ほろ酔いの加減は、赤の他人の僕にとっても、こういう子が彼女だったら楽しいだろうな(不安だろうけど)、と感じるものだった。

 彼女はやたらとスタイルが良かったのだけれど、よくもわるくも、それを隠そうとはしなかった。
 飲み会のときには、いつも胸を強調するような服装。
 胸元を大きく開けた彼女が前にいると、その谷間を見るのも恥ずかしく、見ないのも失礼なんじゃないか、そんな居心地の悪い気分になった。
 彼女は僕たちに礼儀正しく接していたけれど、その言葉の端々に、ちょっとした「媚び」みたいなものが感じられた。ちょっと不満はあるんだけれど、あなたのことは責めませんから、わたしにも優しくしてくださいね。
 僕には彼女が「女であることを武器にしている女」に見えたし、「眼福眼福」とか同僚とささやきあいながらも、心のなかに「ああ、この子は苦手だな」という気持ちが澱んでいた。

 先週、彼女の披露宴の二次会で、彼女の友達から、こんな話を聞いた。
 彼女がまだ物心がつくかつかないかの頃に両親は離婚し、彼女は父親に引き取られた。
 父親はアルコールとギャンブルに溺れ、彼女は祖母の手で育てられた。
 そして、祖母の死後、まだ幼い弟を、彼女が育ててきたのだ。
 いまの仕事を選んだのは、「若いうちから働いて稼げる専門職」であることと、「女であってもずっと続けていけるから」だと彼女は話していたという。

 「父親」という存在への複雑な感情や早熟にならざるをえない環境、そんなふうに彼女が「僕の苦手なタイプの女性」になってしまった理由を勝手に想像するのは、失礼というものだろう。
 そもそも、そういう「背景」を知れば、苦手だったものが好きになるというものでもない。
 ただ、「何も知らずに『性に合わない』と感じていた自分が少し恥ずかしくなるだけのことだ。
 彼女だって、「そんな不幸を背負って……」なんて同情されるより、「男に媚びている女」として嫌われるほうを選ぶのではないか。

 「普通」に見える人も、いろんなものを背負って生きてきているのだし、誰かが「そういう人間」であるのには、それなりの理由がある。
 ただ、それだけの話なんだけどね。

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