琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

ジェネラル・ルージュの凱旋 ☆☆☆☆


ジェネラル・ルージュの凱旋(上) (宝島社文庫)

ジェネラル・ルージュの凱旋(上) (宝島社文庫)

ジェネラル・ルージュの凱旋(下) (宝島社文庫)

ジェネラル・ルージュの凱旋(下) (宝島社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
桜宮市にある東城大学医学部付属病院に、伝説の歌姫が大量吐血で緊急入院した頃、不定愁訴外来の万年講師・田口公平の元には、一枚の怪文書が届いていた。それは救命救急センター部長の速水晃一が特定業者と癒着しているという、匿名の内部告発文書だった。病院長・高階から依頼を受けた田口は事実の調査に乗り出すが、倫理問題審査会(エシックス・コミティ)委員長・沼田による嫌味な介入や、ドジな新人看護師・姫宮と厚生労働省の“火喰い鳥”白鳥の登場で、さらに複雑な事態に突入していく。将軍(ジェネラル・ルージュ)の異名をとる速水の悲願、桜宮市へのドクター・ヘリ導入を目前にして速水は病院を追われてしまうのか…。そして、さらなる大惨事が桜宮市と病院を直撃する。

チーム・バチスタの栄光』は確かに面白かったのですが、続く『ナイチンゲールの沈黙』を読んで、そのあまりの「トンデモSF」っぷりに、僕は「海堂尊さんは、エンターテインメント作家としては『一発屋』だったのか?」と思ってしまいました。相次いで新作が投下されたこともあり、なんとなく、粗製乱造のイメージを持ってしいましたし。

この『ジェネラル・ルージュの凱旋』、単行本が発売されたときには「3匹目のドジョウ?」という感じで全く食指が動かなかった作品でした。
今回文庫化され、映画にもなるということで読んでみたのですが……

ああ、僕は海堂先生に申し訳ないことをしてしまった。
面白いです、この『ジェネラル・ルージュの凱旋』。
いや、ここで描かれている「救急医療とコストの問題」や「スーパードクターの存在によってなんとか成り立っている医療現場」なんていうのは、全くもって「面白い」なんて言っていられるようなものじゃないんです。でも、そういう「現代医療への警鐘」や海堂先生の病理医としてのライフワークであるAi(エーアイ)ことオートプシー・イメージング(死因検索のための画像検査)をちゃんと書きつつも、エンターテインメントとして読者をグイグイと引っ張っていくこの作品は、『チーム・バチスタの栄光』よりも素晴らしいのではないかと。

文庫の巻末の「解説」で、大森望さんはこんなふうに書かれています。

『バチスタ』は、(『このミステリーがすごい!』大賞応募作なんだから当然といえば当然ですが)医療ミステリーとして書かれていたし、実際、異色のフーニダット(犯人捜し)小説としても成功していた。しかし、続く『ナイチンゲールの沈黙』と『螺鈿迷宮』に関しては、やや無理をしてミステリーに仕立てている感がなきにしもあらずだった。もう新人賞に応募するわけじゃないんだから、べつだんミステリーにこだわる必要はないんじゃないの……と勝手に思っていたところに登場したのが本書『ジェネラル・ルージュの凱旋』。一読して、これこそまさに海堂尊にしか書けないエンターテインメントだと快哉を叫んだ記憶がある。

これを読んで、僕も大きく頷いてしまいました。
『バチスタ』の時点で、「ミステリとしては、読者に与えられた情報が少なすぎる」と思っていましたし、海堂さんの最大の魅力は、プロフェッショナルの世界をカッコよく書けることと、「偉い人のズルさを厭味や嫉妬になりすぎないように描ける」ことだと僕は感じていたのです。
でも、いまの出版情勢下と『バチスタ』という看板作品でのイメージから離れて、「ミステリじゃない作品」を書くのは、けっこう勇気が必要だったのではないかなあ。

いまどきそこでS-Bチューブは使わないのでは……とか、この大学、スタッフが全体的に若すぎじゃないの?とか、多少引っかかるところはあるのですが、「医者って、救急医ってカッコいいなあ!」って思いましたよ僕も。
まあ、現実で速水先生のような「スーパードクター」の下で働くのはごめんこうむりたいですが……QOL低そうだものねえ……

しかし、学会側からの働きかけだけではほとんどスルーされていたさまざまな社会問題を、こうしてエンターテインメントとして描くことによって社会にアピールし続けている海堂先生は本当にすごいよなあ。
チーム・バチスタの栄光』しか読んでいなかった、あるいは『ナイチンゲールの沈黙』で挫折したという皆様にもぜひおすすめしたい作品です。
あと、『死因不明社会』もおすすめですよ(こちらは読みやすいですが「ブルーバックス」ですのでちょっとだけ「堅い」です)。

死因不明社会―Aiが拓く新しい医療 (ブルーバックス)

死因不明社会―Aiが拓く新しい医療 (ブルーバックス)

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