- 作者: 三谷幸喜
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2009/03/06
- メディア: 単行本
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内容紹介
朝日新聞連載の好評シリーズも第7弾に。いまもっとも多忙な脚本家の1年がつづられる。中井貴一、ユースケ・サンタマリア、佐藤浩市、堺正章、常盤貴子、故市川崑監督と登場人物もさらに豪華に。巻末付録には大ヒット映画『ザ・マジックアワー』の世界を収録。
僕は三谷幸喜さんの脚本も文章も好きなので、このシリーズはずっと愛読しているのですが、『ありふれた生活』って、三谷さんの本業(脚本とか映画の監督とか)が忙しいときにはあまり面白くなくて、本業に余裕ができるとこちらが面白くなる、というサイクルを繰り返しているような気がします。
今回の『ザ・マジックイヤー』は、ちょうど『ザ・マジックアワー』の制作時期と重なっているためなのか、これまでのシリーズに比べると、ちょっと「面白い話」は少なめかもしれません。
「本業」に全力投球していた年だった、ということなのでしょうね。
それでも、「映画」「舞台」「役者」「犬・猫」のいずれかの言葉に興味があって、「三谷幸喜」という人が嫌いでなければ、けっこう楽しめるエッセイ集ではあると思います。
「僕は犬になら何をされても怒りませんよ」という中井貴一さんの愛犬家っぷりとか、妻夫木聡さんが「歴史フリーク」であることとか、常盤貴子さんの「初々しさ」を、「身近な存在として」語れる人は、そんなにいないですしね。
佐藤浩市さんのこんなエピソードも興味深かったです。
最初は怖くて近寄りがたかった浩市さんだが、付き合いが長くなると、いろいろな面が見えてくる。甘いもの好きというのも意外だったし、お笑いにかなり造詣が深いというのも驚き。「この台詞は、井上マーのように言えばいいのかな」発言は、僕がたまたま井上マーを知っていたから良かったようなものの、相当なお笑い好きの間でしか通じない会話だと思う。
演出してみて分かったのは、浩市さんは「演じるプロ」だということ。現場で彼はよくこういう言い回しをする。「カメラがそこにあるということは、フレームはここまでと考えていいわけね。だったら俺はこっちの角度から画(え)の中に入って行くわ。OK、それで一度やらせて下さい」
どう演じるかで頭がいっぱいの俳優さんがほとんどの中、浩市さんは、僕らスタッフがどういう絵を撮りたいかを、まず考える。そういう意味では、これほどプロフェッショナルという言葉が相応しい俳優さんを僕は知らない。
『ザ・マジックアワー』のプロモーションでは、三谷幸喜さんとの「微妙な関係」が印象的だった佐藤浩市さんは、こんなふうに「スタッフ視点」で演じる人なんですね。
三谷さんが描く「役者たち」は、「こんなに凄い人たちなんです!」という絶賛調でも、「こんな人たちと知り合いなんだぞ」という自慢風でもなく、本当にフラットな「職場にいる面白い人たち」なんですよね。「芸能人」をこんなふうに描ける筆力と立場を併せ持つ人は、ほんとうに希少。
あと、この本を読んでいると、ものすごく舞台を観に行きたくなります。千秋楽で三谷さんが役者たちに仕掛ける「悪戯」(出てくる小道具を急に変えるとか、本来ならすぐにツッコミが入って次に移る場面で誰も止めないようにして反応を愉しむとか)に関しては(というか、これほどの「大家」になってもこういうことをやっている三谷さんは、根っからの「舞台好き」なんだな、と思う)、非難する人もいるそうなんですが、僕はそういうのを観ると、得したような気分になるんだよなあ。
子どもがある程度大きくなるまで、しばらく舞台を観には行けそうもないのが、ちょっと寂しくなりました。