琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

悪魔と若き名医


昔一度テレビアニメで観て以来、忘れられない童話を再現してみます。

中世のある国での話。
医者になるための勉強をしていた若者がいたが、なかなか成績が上がらずに悩んでいた。

ああ、このままじゃダメだ、でも、いまの自分の力では、医者になるのは無理かも……

そんなある日、彼の枕元に小さな悪魔があらわれた。
「若者よ、お前が私に魂を売るのなら、お前を腕利きの医者にしてやるぞ。なあに、魂を売るといっても、お前が死んだときの話さ」
若者は、悩んだ末に、その提案を受け入れることにした。どうせこのまま生きていたって、落ちこぼれの負け犬として生きるしかないのだから。
契約を済ませた悪魔は言う、
「それでは、お前に特別な力を与えよう。お前は病人の前に立ち、ポンポンと2回手を叩くのだ。そうすると、病人の枕元か足元に私の姿が見える。
もし私が足元にいたら、お前は「病よ去れ」と言って、もう一度2回手を叩け。そうすれば、病人はたちどころに快癒するだろう」
「では、もしお前が枕元にいたら?」
「そのときは、『手遅れ』ということだ。どんな名医でも、寿命には勝てないさ」

その「力」を得てから、若者は「名医」として国中に知られるようになった。
なにしろ、彼が病人の前で手を叩くだけで、たちどころに重病人が目を覚まし、元気になったのだから。
もちろん、すべての病人を助けられたわけではなかったが、「他の医者たちが匙を投げた病人」にも、彼の「治療」によって救われたものは多かった。


そんなある日、彼はある大きな屋敷に招かれた。寝室には、衰弱しきった若く美しい女性が横たわっていた。
「先生、ぜひうちのひとり娘を助けてください。まだ若いのに、こんなに弱ってしまって、ずっとベッドに寝たままで不憫でなりません。もし娘の命が助かれば、なんでもお望みのものを差し上げます」
娘も、荒い息をつきながら、若者に懇願した。
「先生、わたし、まだ死にたくない……」

若者はさっそくいつもの「儀式」を開始した。
手を叩くと、悪魔は口元をゆがめて、枕元にあらわれた。
「あきらめな、この娘はもう、手遅れだ」

若者は絶望にうちひしがれたが、彼はあきらめきれなかった。
そして、あることを思いついたのだ。

ポンポン、もう一度悪魔を呼び出す。
「おいおい、何度やっても、結果は同じだぜ」

ところが、若者はニヤリと笑って、家の者たちに合図をした。
「それではみなさん、ベッドを持ち上げて、頭と足の位置が逆になるように回転させてください」

悪魔がいる位置は、娘の「足元」になった。
「おい、お前、なんてことをするんだ!」慌てる悪魔。
若者は、厳粛に告げた。
「病よ、去れ!」
そして、悪魔は消えた。

その後、すっかり元気になった娘は、若者と愛し合うようになった。
娘の両親も、若者をすっかり気に入った様子で、若者は幸福の絶頂だった。


ある夜のこと、若者は、聞き慣れた声で目を覚ました。
「よう、悪魔じゃないか。このあいだのことで機嫌を悪くしたのかもしれないけど、あの子も助かってよかったじゃないか。また仲良くやろうぜ」
悪魔は、無言で彼の前に異世界への扉を開き、彼に言った。
「そうできればいいんだが、あいにく、もう時間がないんだよ。ついてきな」
悪魔の後から扉をくぐった若者が見たのは、巨大な祭壇に、たくさんのロウソクが揺らめいている光景だった。
「なんだ、ここは?」
「ここは、人間の『寿命』を司る部屋なんだ。おっと、気をつけろよ、そのロウソクの火を消すと、持ち主は死んでしまうからな」
異様な光景に押し黙っている若者を、悪魔は1本の大きなロウソクの前に案内した。
「ああ、立派なロウソクだな。持ち主は長生きするだろうなあ」
若者がそうつぶやくと、悪魔は淡々と「そうだな」と答えた。
「これは、誰の命のロウソクなんだ?」
「あの娘のものだよ。もっとも、ついこの間までは、お前のものだったがね。いまのお前のロウソクは、あれだ」

そこには、いまにも炎が消えそうな、か細く、短いロウソクが立っていた。
「お前はあのとき、自分の命とあの娘の命を交換したのさ。まあ、あの娘が助かって、よかったじゃないか……」

……次の瞬間、悪魔が持っていた白刃が振り下ろされ、若者の意識は遠のいていった。

こんな童話(?)なのですが、たしかこれ、幼稚園くらいのときに夕方の「世界名作劇場」のような「世界の童話を15分くらいのアニメにしたもの」で観て以来、怖くてずっと忘れられない話なんですよね
思い出せる範囲で書いてみたのですが、いまから考えると、童話っていうのはけっこう残酷で、「教訓」にもできないものが多いような気がします。
幸福の王子』とか『フランダースの犬』なんて、「神」を持たない日本人にとっては、「善人は不幸になる」という解釈しかできそうもないし……

オチのない話ですみませんが、とりあえず、僕にとって「いまでも忘れられない童話」を御紹介してみました。
題名も作者もわからないのですが、この話、どなたかご存知でしょうか?

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