琥珀色の戯言

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ジェネラル・ルージュの伝説 ☆☆☆☆


ジェネラル・ルージュの伝説 海堂尊ワールドのすべて

ジェネラル・ルージュの伝説 海堂尊ワールドのすべて

内容紹介
映画化&ドラマ化もされた320万部突破のベストセラー『チーム・バチスタの栄光』の、大人気「田口・白鳥」シリーズ最新刊が登場です。本作は、シリーズ第3弾『ジェネラル・ルージュの凱旋』のスピンオフ小説。救命救急医・速水が「将軍」と呼ばれるきっかけとなった事件が描かれます。また、海堂尊の日々を綴ったエッセイや、創作の秘密を惜しみなく明かした自作解説も収録。すべてこの本のための書き下ろしです。さらに広がり続ける「海堂尊ワールド」を徹底解剖した、登場人物一覧&関係図&年表&用語解説&医療事典付き。ファン必読です。

たしかにこれは、海堂尊先生の「ファン必読」の本だと思います。
逆に、「ファンじゃない人には、ちょっとついていけない本」でもありますが。
この本の目玉であろう中篇『ジェネラル・ルージュの伝説』は、正直、そんなに面白くありません。海堂先生の作品の魅力は、「いかにも実際にいそうな程度に異常なキャラクターの造形」と「組織というものの滑稽さを冷徹かつ誠実に描いていること」なのですが、このくらいの長さの作品だと、どうしても「遊び」の部分が削られてしまうんですよね。
これを読んで感じたのは、「速水の『伝説』の中身って、あんまりたいしたことなかったんだなあ」ということでしたし。
まあ、そういう「伝説」っていうのは尾ひれがついて話が大きくなるもの、ではあるのですが、「伝説は伝説のままにしておいたほうが……」と、『ジェネラル・ルージュの凱旋』に感動した僕は思ったのです。

この本で僕が面白かったのは、後半の海堂先生自身による「自作解説」や「海堂尊の歴史」のコーナーでした。
作家って、もっと「作家的な自分史」を書きたがるものだと思うのですが、海堂先生はかなり率直に「自分史」を書かれていて、留年したり病理認定医試験に落ちたり(先生の名誉のために言及しておきますが、病理認定医試験はかなり難しい試験です。受かれば「病理医」として御飯が食べられます)した話も出てきます。あと、Aiを普及させるための苦労や学会の偉い人たちとの軋轢なども。考えてみれば、どんなに学会発表をしても世間に認知されなかった「Ai(オートプシー・イメージング:死因を調べるために遺体に対して行う画像診断)」が、『チーム・バチスタの栄光』という1作のミステリで、一気に世の中に知られるようになったというのは、「学会」に身を置く人たちにとっては、けっして愉快なことではなかったでしょう。「裏技」使いやがって!みたいな感じで。その「学会側」の気持ちも僕にはわかります。
 海堂先生のすごいところは、これだけ「人気作家」になっても、自分だけよければいい、というのではなく、その立場をAiの普及や現在の医療問題の啓蒙のために役立てよう、とされているところなんですよね。

この「自作解説」や「歴史」のコーナーを読んでいると、作家にとって「愛着のある作品」と「売れる、世間で評価される作品」というのは、必ずしも一致するものではない、ということがよくわかります。

2007年11月
『死因不明社会』(ブルーバックス)と『夢見る黄金地球儀』(ミステリ・フロンティア)を刊行。『死因不明社会』は直後に重版したが、『夢見る黄金地球儀』は残念ながらまだ重版していない。一番気楽で楽しい作品だと思っているが、世の中なかなかうまくいかないものだ。

2008年8月
『ひかりの剣』刊行。重版はかかっていない。医療物以外は難しいのか。ちなみに本作は自作の中では一番好きな作品である。どうやら私の趣味は一般の人とは少し違うらしい。

チーム・バチスタの栄光』と比べると……という酷評も多かった(僕もそんなニュアンスのことを書きました)『ナイチンゲールの憂鬱』への愛着を切々と語っておられたり、いまや「東野圭吾の次くらいに勢いのある人気作家(書くの速いですしねえ)」である海堂先生ですら、作品への自己評価と世間の評価(売れ行き)とのギャップに、「自分は『医療モノ』しか求められていないのだろうか?」と悩んでおられるのです。大部分の売れない作家からすれば、「贅沢な悩み」なのでしょうけど。

とにかく、「海堂尊ファン」にはオススメ。『ジェネラル・ルージュの凱旋』(+『チーム・バチスタの栄光』)だけのファンにとっては、やや物足りない本かもしれません。

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