琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

先を読む頭脳 ☆☆☆☆


先を読む頭脳 (新潮文庫)

先を読む頭脳 (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
天才は何がすごいのか?そんな素朴な疑問を、誰もが認める天才棋士羽生善治をモデルに徹底解明。将棋との出会い、勉強法、対局で大切にしていることなど、本人が明かす驚愕思考を最新科学がすっきり整理し、ついに能力の秘密が明らかになる。多くの決断を迫られる将棋だからこそ、その極意は人生の様々な局面に生きてくるはず。向上心ある日本人のための画期的な一冊。

「最新科学」については、正直ついていけないところもあったのですが、羽生さんのインタビューの部分は、ものすごく興味深く読めました。というか、科学者たちが「解説」している部分を読まなくても、羽生さんが言葉にすると、スッと頭に入ってくるんですよね。
この人ほど自分の思考を「言葉」にできる天才というのは、そんなにいないような気がします。

最近はコンピュータ将棋もかなり力をつけてきており、「プロ棋士vsコンピュータ」の真剣勝負が話題になったりもしたのですが(参考:ボナンザ VS 勝負脳(琥珀色の戯言))、この本によると、「ゲームの探索空間」(それぞれのゲームで起こりうる分岐の数)は、

三目並べ   10の3乗未満

オセロ     10の60乗

チェス     10の120乗

将棋      10の220乗

囲碁      10の360乗

なのだそうです。チェスについては、「人間のチャンピオンと互角以上」になってきているのですが、将棋ではまだ最強のコンピュータ将棋でもプロ棋士に平手で勝つことは難しいようです。
ただし、「コンピュータ将棋ソフト」の出始めのころには、「ルールどおりに駒が動けば御の字」だったことを考えれば、かなり強くなってきているのは間違いありません。というか、僕レベルでは、もう全然かなわなくなってるものなあ。

ちなみに、「現在のコンピュータ将棋は、終盤の寄せ(相手の王を詰ませにいくプロセス)はかなり進歩していて、『答えがみえてくる状態』では、高速かつ的確な手を打てるようになっている」そうです。人間側としては、「まだ漠然とした序盤〜中盤にいかにアドバンテージを得ていくか」がポイントなのだとか。

 現状で最も長手数の詰将棋は、1525手詰めの「ミクロコスモス」です。おそらくプロ棋士でも解いた人はほとんどいないであろうこの作品を、今のソフトはノートパソコンでも1時間あれば解いてしまいます。

この「1525手」というのを聞くと、「本当かよ、もっと早く詰められるんじゃないの?」とか言いたくなってしまいますが、こんなふうに「常に王手をかけ続けなければならない」というような答えが必ずある、限定された条件下では、コンピュータはものすごく強いんですよね。

「コンピュータと人間の頭脳の違い」というテーマも興味深いのですが、僕にとってはやはり、羽生さんのいろいろな言葉がいちばん面白かったです。

 もう一つ、将棋の指し手を考える上で重要だと思うのは、一つの局面である手を指すことは、自分にとってマイナスになる可能性が高いということです。つまり、将棋というゲームはお互いが一手ずつ指すことで進行していくわけですが、私の考えでは、一手指すことがプラスに働くことはむしろ非常に少ないのです。このように言うと驚かれるかもしれませんが、指さないですむなら指さない方が良かったというマイナスの手の方が、実際には圧倒的に多いのです。
 だからこそ、将棋では形勢逆転が頻繁に起こるのだということも言えると思います。たとえそれまで圧倒的に優勢であっても、自分がマイナスの手を指して相手がプラスの手を指したら、あっという間にその差が詰まってしまいます。そして、そのマイナスの手を指す可能性というのが、実は非常に高いのです。
 ですから将棋の思考法として、「この手を指すくらいだったら、むしろ指さない方がいい」という手を見極めることがとても大切なのです。それを理解するだけでも、かなり多くの選択肢を消去することができると思います。
 将棋では必ず交互に何か手を指さなくてはなりません。基本的には相手に何か動いてもらって、それに対してこちらが最もいい手をやり返すというのが望ましい形です。そうやって進んでいけば、負けることはありません。
 しかし、両者が共にそう考えながら最善の手順で駒組みを進めていくと、最終的にお互いにベストの陣形になる瞬間があります。そうなった時には、手番を持っているほうが困ることになるのです。
 つまり、その局面では、どんな手を指してもベストな状態が崩れてしまうわけです。例えば、矢倉囲いという陣形を完成させてしまったら、あとはその囲いの中のどの駒を動かしても、それはマイナスになります。従って、指す手に困ることになります。
 将棋の場合、実はそのような局面が頻繁に現れます。ゲームが進むにつれて、ルール上は動かすことができる駒はたくさんあるけれど、動かすとマイナスになるので動かさない方がいいという駒が段々と多くなってくるのです。
 ですから、いい形を作り上げることを目指すのは無論、重要なことですが、それと同時に、有効に動かすことができる駒をいかに数多く残しておくかということにも、かなりの神経を遣わなくてはならないのです。

こういう「動かない方がいいときを見極める」っていうのは、実生活上も役に立つ考えかたではないかと思うのです。
「とにかく動くこと」ばかりが推奨されがちではあるのだけれど、「マイナスの手」を打ってもしょうがないのだから。
人生において、「ベストの陣形」にはなかなかならないのだとしても。

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