
- 作者: 益田ミリ
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2009/05/22
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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出版社/著者からの内容紹介
○なんでもお母さんを経由して言う○二人っきりになると話すことがない○好きなレストランはバーミヤン○チャンネル権を握っている○誉められたいと思っている......
身近なはずなのに、なんとなく距離がある。好かれたい気持ちが空回りで、なんだか見ていて気の毒になる。娘の目から見ると、わかりやすいようでわかりにくい、「オトーさん」の生態を優しく鋭く観察? するコミック&エッセイ。
益田ミリさんのエッセイって、「そんなに絵がうまいわけじゃないんだけど……」「内容も特別なことが書いてあるわけじゃないんだけど……」「ちょっと割高な気がするのだけど……」ついつい手にとってしまいます。なんのかんの言っても、僕は益田さんが描いているものが好きなんだろうな、と最近つくづく感じるようになりました。
この「オトーさんという男」、娘からみた父親、というテーマなのですが、「厳しいお父さんを敬遠する気持ち」と「いざというときには頼れる存在だという信頼感」が混じり合っていて、「ああ、娘ってこんなふうに父親をみているのかな」と興味深かったです。
小学生のとき、父に連れられてはじめて海釣りに行ったことがある。
船ではなく、どこか防波堤のような場所から並んで釣りをした。
エサをつけた糸を海に垂らし、魚が食いつくのを待つ。その糸の先をのぞきこんでも、なんにも見えなかった。海は真っ黒だった。海水浴で知っている海とはまったく違う顔をしていた。わたしは、海をとても怖いと思った。黒くて、底が見えなくて、そんな水の中に魚がウヨウヨ泳いでいると思うと薄気味悪かったのだ。
この海にあやまって落ちてしまったらどうなるんだろう? わたしは死んでしまうのだろうか。
恐ろしくなって、隣で釣りをしていた父にそう告げると、
「お前が落ちたら、お父さんが飛びこんだるから大丈夫や」
と言われた。
そうか、わたしのことはお父さんが助けてくれるんだった。
その当たり前のようなもの言いに、幼いわたしはとても安心したのだった。
僕も子供の頃、自分の父親に不満がいろいろあったのだけれども、こんなことがあったのは、いまでもよく覚えています。
以下の引用部は、僕が何年か前に書いたものです。
もう、20年くらい前の話。僕たちは、家族旅行で雲仙に出かけたのだった。
しかし、当時中学生になりたての僕は、家族旅行なんてイヤになりはじめる年頃。
まあ、要するに「なんでせっかくの休みに、親と一緒に旅行なんか行ってられるかよ」
というのが本音であった。張り切って、父親が写真なんて撮ろうなんてするのだが、「もう、早く、次!次!まったく、親と一緒なんて、恥ずかしいなあ」と内心思っているんだから、ファインダーの前で笑えるわけなんてないではないか。
その旅行中の話。雲仙は温泉地だからして、例のごとく「地獄めぐり」というのが、観光地になっているのだ。「地獄」とはいっても、要するに温泉の湯煙がいろんなところから噴出していて、温泉タマゴを売っているだけのようなところなのだが。
まあ、そういった噴煙だらけの景色を地獄の光景に見立てているわけだ。確かに、熱湯が湧き出ているから、落ちたら地獄のような目には遭いそうだけれど。そんな観光スポットの中に「賽の河原」というアトラクション(?)があった。
賽の河原というのは、地獄の名所のひとつで、何らかの原因で子供を失った親たちが、寂寥とした荒野に石を積み上げていくというスポットなのだ。「これ何?」とまだ幼稚園の弟が、積み上げてある石を指さした。
母親は、おもむろに足元の石を手に取り、「これはね、子供を亡くしたお母さんが、こうやって石を積んでいくんだよ」
と手に持った石を積み上げる真似をしてみせた。
その瞬間のことだった
ちょっと離れたところで、その様子をみていた父親が、「おいっ!バカ!やめろ!子供が死ぬぞ!何するんだ!!」
と周りに響きまくるような大声で、叫んだのだった。
「置く真似しただけじゃない、そんなに大声出さなくてもいいのに、恥ずかしい」
と、母親は言い返し、ふたりはケンカになってしまった。
そして、ただでさえユウウツな家族旅行は、さらに悲惨なものになったのだが。もう、父親が亡くなってから、5年が経つ。
大酒呑みで遊び好き。生前、あまり良い印象がなかった父親なのに、なぜか、あのときの大声は、今も耳に残っているのだ。
僕たち兄弟が、今でもそれなりに元気にやっているのは、ひょっとしたら、あのとき、父親が石を置くのを止めてくれたからなのかもしれない。そのときは、そんな大声出して、みっともないと思ったけれど、
今は、あの父親の声を思い出すたびに、ありがとう、と心の中で呟いている。
「オトーさんという男」という本の内容からはちょっと脱線してしまいましたが、この本、益田さんの作品のなかで、僕はけっこう気に入っています。
親っていうのは、なにかと理不尽で、めんどくさい存在だけど、いつも少しあたたかい。
これを読んだお父さんは、どんな気分だったのかな。