琥珀色の戯言

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ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 ☆☆☆☆☆

ヱヴァンゲリヲン新劇場版・破:公式サイト

いろんな意味で凄かった!
いくら僕が住む地方都市で『ヱヴァンゲリヲン』の公開館がひとつしかないといっても、「映画の日」でもない平日・月曜日のレイトショー、しかも大雨の夜に、こんなに映画館に人がたくさんいるのか!と驚いてしまいました。
150〜200人くらいの観客数。多くは10代後半から30代前半くらいまで。そのスジっぽい人たちもいましたが、大部分はどこにでもいるカップル。
いや、「序」を観に行ったときには、「この年で『エヴァンゲリヲン1枚』ってチケット売り場のお姉さんに言うの恥ずかしいな……」なんて緊張していたのですが、このくらい盛り上がっていると、逆に「俺のヱヴァンゲリヲンがお前らにわかってたまるか!」みたいなひねくれた気分にもちょっとなってしまいます。
いやあ、でも本当にこれ、超大ヒットしてるんじゃないかね。予告編が終わって、本編が始まるときの、みんなが一斉に息を呑む瞬間に感動した!

内容に関しては、書きたいけど、まだ観る前の人には、絶対読んでもらいたくない。
まず言えるのは、「もしあなたが迷っているんだったら、ムリしてでも時間をつくって、この映画を観たほうがいいよ」ということ。
そして、もうひとつ言えるのは、「事前になるべく情報を耳に入れずに観たほうがいい」ということです。テレビ版、前の映画版と新劇場版「序」の予習は必要というか、この映画版ではじめて『ヱヴァンンゲリヲン』に触れた人って、この作品にどんな感想を抱くのだろうか?という興味もあるのですが。
もちろん、作り手は、「はじめてヱヴァを観る人」など、最初から置いてけぼりにするつもり満々ですし、それが、この映画のリズムになっています。そもそも、「テレビ版との比較」そのものが、この映画を観る多くの人の楽しみでもあるわけで。

とにかく、絵がスゴイ、音がスゴイ、場面の緩急が見事、そして、「序」を観て、「ああ、ラミエルがパワーアップしただけのリメイクか」と納得してしまった人を絶句させるような、原作を置いてけぼりにする、驚くべきストーリーの変化!

いろいろ語りたいことは尽きないのですが、とりあえず、ぜひ多くの人に観てもらいたい。そして、どう感じたか聴きたい。
僕は同じ映画を2回観るのは時間のムダだというスタンスなのですが、この映画は、公開中にあと1回は必ず観ます。


以下は、「ネタバレ感想」のコーナーです。


本当にネタバレだから、作品を未見の人は、読まないでくださいね。






じゃあ、ここから先は、本当にネタバレですよ!


エヴァに乗るのは、自分のためよ!

人は、何かを育てることによってわかることが、たくさんあるんだ。

この映画、ある意味「頭の中での解釈」ばかりしたがるマニアたちへの挑戦状、だと思います。
作中では、しきりに「そこのあるものを実際に手で触れてみることの大切さ」が語られます。
内田樹先生が仰るところの「身体性」ですね。
シンジや綾波、アスカが、「土をいじること」「料理をして手を切ること」によって、何かを掴んでいくシーンが、これだけいろんなものを端折ってテンポを重視したストーリーにもかかわらず、繰り返し描かれるのです。
テレビ版で頻出していた「意味深なキーワード(死海文書とかリリスとか)」は、最低限に抑えられ、テレビ版が「謎解きの物語」とすれば、この映画版は、ストレートな、「14歳の若者たちの成長(と挫折)を描いた物語」であり、もっと突き詰めていくと、「愛が地球を救う物語」なのではないかと。
ラストの「綾波を助けるという個人的な目的のためだけにエヴァ初号機の力を引き出すシンジ」っていうのは、「いまの日本社会は……」「マスコミは……」と「ネットなどを通じて、世の中を俯瞰することに慣れてしまい、『自分が本当に何をしたいのか?」が見えなくなってしまっている若い世代」への挑戦状だと僕は感じました。
君たちは、本当に、「世界を良くしたい」のかい?
本当に必要なものは、もっと身近で、「ポカポカするもの」じゃないのかい?

ただ、キャラクターが全体的に「前向き」になっているのには、やっぱりちょっと違和感もあるわけで。
前の「どうみてもハッピーエンドにはなりそうもないエヴァンゲリオン」を観てきた人間としては、綾波が「シンジとゲンドウの仲を取り持つための食事会」を企画したり、「ポカポカする」なんて言って、アスカに「それは恋って言うのよ!」と突っ込まれているのは、とりあえず微笑ましいわけですよ。「今度は頑張れよ」って。
でもね、もし前作のダークな記憶がなければ、同じシーンを観て、「なんだよこのピュアラブストーリーは!『中学生日記』か?」と感じてもおかしくないと思う。不良少年が更生したから立派!みたいなもので、グレてなければタダの普通の人なんじゃないの?って。
「あのシンジが!」「あの綾波が!」「あのアスカが!」変わってきているからこそ許せる、という面は絶対にあると思うんですよ。
僕は「何もない汚部屋で、ポツンと佇む綾波」が好きだったし、「僕もああいう14歳だった」と思っていたんです。ああいう綾波の存在が、制作側から「望ましくないもの」として否定されてしまった今回の新劇場版は、ちょっと淋しくも感じます。

率直に言うと、どっちかというと、いまの時代にとっては、新劇場版のほうが、「おかしい」のではないかなあ。
テレビ版では、ダミープラグ発動でトウジに重傷を負わせたあと、初号機に「乗りたくない」と言っていたシンジ。そりゃそうだろうな、と僕も思いました。
しかしながら、「破」では、アスカを食っちゃったあとでも、(逡巡の末にですが)「僕は初号機パイロット、碇シンジです!」。
それ、そんなに簡単に割り切れるものなのか?
綾波が大好き、なのはわかるんだけど、だからといって、自分が乗っていたときにアスカを食ったエヴァに、また乗れるって、すごくない?
「トウジ重傷」なら、まだ生きてるのだから、割り切れなくはないとは思う。でも、アスカは……
シンジとレイの「絆」の深さは伝わってきたし、僕も観ていて感動したんだけれど、「こんな濃厚な人間関係は『エヴァ』らしくない」という気持ちもあったんですよね。
「目の前の誰かが大事なら、世界に対して何をしてもいいのか?」
エヴァ』は、そこで考え込んでしまい、「大義」と「個人的な欲望」の間でがんじがらめになってしまう人々の物語、だったはずなのに。

新劇場版は、まぎれもない「大傑作」です。
しかしながら、この物語を味わうには、前作の記憶が不可欠です。
そして、観客は、この14年間、自分が生きてきたことによる自分自身の変化を向き合うことにもなるはずです。
14年前の僕は、こんな前向きな『エヴァンゲリオン』には納得できなかったと思う。
でも、いまは、「それでも泥だらけ、血まみれになって、生きていくしかないんだ」という「決意」を感じずにはいられない。
前向きになったのではなくて、前向きにならずにはいられなくなった自分。
絶望の淵からの、再起動。
キャラクターたちも、絵は同じだし、設定上も同じ14歳だけれども、「少しでも良い方へ向かいたい」という意志が垣間見えます。
「繰り返される世界」の記憶を確実に持っているのは、いまのところ、渚カヲルだけのようなのですが……

これ、何かに似ているな、と感じたのですけど、「無限ループのなかで、少しでも何かを変えようとしてもがく人々の物語」という点において、『ヱヴァンゲリヲン』は、映画版の『スカイ・クロラ』を思いださせてくれます。まあ、『スカイ・クロラ』のほうが、『エヴァ』の影響を受けているのかもしれませんが(……で、最初の『エヴァ』は、『ビューティフル・ドリーマー』の遺伝子を受け継いでいる、と)。

個人的には、続きが観たい一方で、あまりにこの「破」の完成度が高すぎて、「もうこれで完結でもいいんじゃない?」という気分にもなりました。
ロード・オブ・ザ・リング』の「二つの塔」を見終えて、「もうガンダルフよみがえったし、これで終わりでいいや」と感じたのを思い出します。
これをうまくまとめようとすると、かえってゴチャゴチャになってしまうのではないかという不安もあるし。
「シンジくん、今度こそ君を幸せにしてあげるよ」
「破」のラストシーンって、ある意味すごく「幸せ」に見えるんだけどなあ。

そうそう、マリを完全スルーしてしまったけど、正直、「破」に関しては、「いままでとは違う世界の象徴」という以上の印象はあまりなかったです。

いや、僕、明日から新しい職場なんですよ。かなりキツイことで定評のあるところ。
なんかね、ずっと転勤するのがイヤで、先のことは考えないようにしたり、急に変更になったりしないかなあ、とか、ずっと考えてた。
自分の時間も、かなり少なくなるはずです。昨日引継ぎをして、そのあまりのハードな環境にすごく憂鬱になって、ひとりで考え込むのがイヤで、この映画を観に行きました。転勤後は、これまで以上に「いつ呼び出されるかわからない」と聞いたこともあって。
そんな気分で、この『ヱヴァンゲリヲン新劇場版・破』を観たら、なんかとっても染みるものがあったのです。
「変わる」ことを怖れてばかりじゃ、どうしようもないよな、って。
少なくとも、僕はまだ生きているし、まだ、成長できる可能性もある。

……っていうのは、ええかっこしいの言葉で、本音としては、とりあえず、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版・Q』を観るまでは、なんとか生き抜いてみよう、と思っています。続きがあるのなら、観ず死ぬのは悔しいので。
碇指令にも使ったことのないことばを、この映画のスタッフに捧げます。


ありがとう。


さあ、僕も明日からは、サービス、サービスぅ!

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