琥珀色の戯言

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インドなんて二度と行くか!ボケ!!―…でもまた行きたいかも ☆☆☆☆☆


インドなんて二度と行くか!ボケ!!―…でもまた行きたいかも

インドなんて二度と行くか!ボケ!!―…でもまた行きたいかも

↑が文庫版です。

内容(「MARC」データベースより)
引きこもりの著者が、ニートの現状を憂い一念発起してインドへ出発。1ヶ月の間に出会った人々や騙された思い出など、トラブルだらけの道中を、笑いを誘う文章とたくさんの写真で振り返る、新感覚旅行記。

インド旅行記といえば、妹尾河童さんや椎名誠さんが書かれたものが有名です。最近では中谷美紀さんの『インド旅行記』もありました。
これまでの「インド旅行記」といえば、「物乞いがワラワラと寄ってくるし、ひどい下痢に悩まされるけれど、そこには悠久の人間の暮らしがあり、人生観が変わる体験ができる」というような内容のものがほとんどだったと思うのですが、このさくら剛さんの『インドなんて二度と…』は、それらの「旅行記」とは一線を隔しています。まさに、「新感覚旅行記」。
ふつう、「旅行記」というのは、読むと、まがりなりにも「この国に行ってみたいなあ」という気分になるものですが、この本は違います。
僕は正直、「さくらさんの体験談はネタとしては面白いけど、自分でこんな目に遭うのはまっぴらごめんだな……」としか思えませんでした。
どこに行くにも、リクシャの運転手との丁々発止のやりとりがあり、目的地にはまっすぐ行ってもらえずに、旅行代理店(というか、観光プローカー?)や土産物屋に無理やり連れ込まれる。
親しげに寄ってくるインド人たちは、みんな観光客を食い物にすることしか考えていない。トイレは汚く、乗り物も狭くて危険。

いくらタージ・マハルが美しくても、何が楽しくてこんな緊張感あふれる国に「観光」に行く必要があるんだ……
最近のインドは、「IT大国」として話題になることも多く、昔のガイド本で語られていたような「バクシーシ(お恵みを!)」の国というイメージは、日本人がみんなチョンマゲで刀をさしている、というのと同じような偏見ではないかと思っていたのだけれど、これを読むと、少なくとも数年前のインドの観光地は、「急激な近代化」とは縁遠い場所のようです。

 着々と時は過ぎ、午後3時ごろ。ふと気づくと電車はどこかの駅に止まっていて、乗客はみな降りていた。ついに、いや多分バラナシ到着である。なにしろインドの駅には駅名を示すものがなにもない。今どの駅にいるかということを知るには、イチかバチか降りてみるしかないのである。だが、もしヘンな駅で降りてしまった日には文明から隔離された村にとり残されるため、間違えることは致命的である。尚、間違えたらどのくらい致命的かというと、できたてのカップとん汁と雑誌を持っていて、布団に向かって雑誌を投げようとしたら間違えてとん汁のほうを投げてしまったくらい間違えたら致命的である。ただ、おかげで僕の家には新しい布団がやって来たよ。

 さて。

「100ルピーでどうだ! この部屋でこの値段なら文句ないはずだ!」
「でもオレは別に来たくてきた訳じゃないから。他にもっと安い宿たくさん知ってるからね。オレちょっとバラナシには詳しいんだよねー。どーしよっかなー」
「おまえ今日バラナシに着いたのになんでそんなこと知ってるんだ? インドは初めてなんだろ? リクシャのオヤジに聞いたぞ」
「あのジジイ……。う、うるせーなっ!! そんなこと言うならもういい! 他のところに行くから(荷物を持つ)! ……行くっていったら行くぞ(入り口へ向かう)!! ……。本当に行くからなっ(ドアを開けて反応を待つ)!!!」

「わかった!! わかったよ!! 80ルピーでいいから!!」
「……勝った。よし、決まりね。確かにいい部屋だね。ここは」

 もともと120ルピーの部屋を天海祐希も真っ青の演技力、必殺技「帰るフリ」を出してなんとか80にまでまけさせる。40ルピー、たった100円を値切るためにこんなにも粘っている姿を実家の親が見たら、「お願いだからそんなみっともないことはやめてちょーだい!お母さんが1000円あげるから!」と泣いて頼むであろう。

このくらいお金の価値に差があると、「100円のためにそんなめんどくさいやりとりをするくらいなら、言い値を払ってしまったほうがラク」だと思うんですよ。でも、それはそれで癪に障るし、そういう外国人たちの反応の積み重ねが、「インドのぼったくり文化」の元凶ではあるわけで。

この本、インドの観光スポットの情報はほとんどありません。
大部分は、観光地のぼったくりオヤジたちとの殺伐とした交流。

それが、「インドにはめんどくさそうで行きたくない」僕のような人間にとって、ものすごく興味深いのですけどね。
いまさら、「タージ・マハルの美しさ」を語られても、「ああそうなんですね」って感じだし、それなら、「サイババの一番弟子と称する怪しげな占い師とのバトル」のほうが楽しいものなあ。

一昔前の「テキストサイト文体」に抵抗がなければ、「あきれかえるくらい生々しいインドの人々」と「素人だけどめげない旅行者」との激烈な闘いの記録として、非常に面白い本だと思います。
最近文庫版が出たのですが(僕が読んだのも文庫版)、400ページ以上もあるわりにはスイスイ読めて、税込み672円とリーズナブル。

同じ作者・さくら剛さんの『三国志男』も僕はすごく好きだったのですが、こちらはどうしても『三国志』についての予備知識が必要でしたが、この『インドなんて二度と行くか!ボケ!!―…でもまた行きたいかも』は、インドに興味がある人すべてにお薦めしてみたい作品です。
「実用的なインドのガイド本」を求めている人には、まったく向かない本なのですが……


三国志男 (SANCTUARYBOOKS)

三国志男 (SANCTUARYBOOKS)

↑『三国志男』の僕の感想はこちらです。

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