琥珀色の戯言

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見えない誰かと ☆☆☆☆


見えない誰かと (祥伝社文庫)

見えない誰かと (祥伝社文庫)

出版社/著者からの内容紹介
「以前の私は人見知りが激しく、他人と打ち解(と)けるのに とても時間がかかった。社会に出てからも、わざわざ親しくもない人と一緒に何かするくらいなら、一人でいたいというつまらない人間だった。でも、……」
誰かとつながる。それは幸せなことだ……
待望の初エッセイ!
「はじまりやきっかけはめちゃくちゃであっても、いくつかの時間を一緒に過ごすと、何らかの気持ちが芽生(めば)えるんだなあって思う。(中略)気持ちが形を変えていったんだって思う。いつもいい方向に動くとは限らないけど、接した分、やっぱり何かは変わっていく」
「私のそのときの毎日を 楽しくしてくれている人は、確実にいる」

 なんというか、すごく「感じのいいエッセイ」でした。
 ああ、こういう「瀬尾先生」が、あんな小説を書いているのだなあ、と、ものすごく腑に落ちます。
 瀬尾さんは、ものすごく良い大学を出ているわけでも、「熱血教師」でもないみたいなのですが、教師という仕事と生徒と触れ合うことが大好きな人だということが伝わってきます。そして、バランスがとれた人柄も。

 でも、そんな瀬尾さんでも、自分に行き詰まりを感じたこともあったみたいです。

 26歳のときの1年間、私は学校での講師の仕事をせずに、一年間自由に過ごしていた。
 それまで4年間、いろんな学校で講師をして、それなりに楽しく過ごしていたはずなのに、突然疲れてしまった。何より、不安になってしまった。人に物を教えるのって、こんなのでいいのだろうかとか、ちゃんと学校で働けているのだろうかとか……。不安になりだすと止まらない。そして、しばらく学校での仕事から離れてみようと思い立ったのだ。
 講師だったから、委員会に登録さえしなければ、仕事が入ってこない。好きなだけ離れていられる。しばらくは気楽に好きなことをして過ごしてみよう。そう思った。

 瀬尾さんにもこんなことがあったのですね。
 でも、こういうときに「休めない」「休む勇気がない」ために、後戻りできなくなった人もいるのかもしれないな、なんてことも僕は考えます。

 ある意味、「心温まるエッセイ」のお手本という内容で(とはいっても、過剰に「お涙頂戴」に走っているわけでもなく)、ごくふつうの学校の先生にも、こんなにいろいろな人がいて、葛藤を抱えながらがんばっているんだということが、じんわりと染みてくるんですよね。
 これを読んだ人の大部分は、瀬尾さんも、瀬尾さんの作品もちょっと好きになるんじゃないかと思います。
 「先生」という仕事も、少しだけ身近に感じられるはず。

 ただ、僕はこれを読み終えたあと、こんなふうにも感じました。
 もし世の中のエッセイが、こんな「優等生的なもの」「読んで安心できるもの」ばかりだったら、やっぱり寂しいだろう、って。
 作家が「共感できる常識人」ばっかりというのも、それはそれでつまらないですよね、きっと。

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