琥珀色の戯言

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なぜ三ツ矢サイダーは生き残れたのか ☆☆☆☆


なぜ三ツ矢サイダーは生き残れたのか-夏目漱石、宮沢賢治が愛した「命の水」の125年

なぜ三ツ矢サイダーは生き残れたのか-夏目漱石、宮沢賢治が愛した「命の水」の125年

内容(「BOOK」データベースより)
「浪漫・感動・動乱・苦闘・奇跡」文豪も戦艦大和の兵士も「心と喉を潤した」。知られざる「風雲録」発掘!三ツ矢サイダーが愛されてきた秘密。


第1章 夏目漱石宮沢賢治
第2章 サイダーを生んだ大航海時代
第3章 サイダー日本上陸
第4章 三ツ矢誕生伝説
第5章 ビール会社興亡記
第6章 戦艦大和とサイダー
第7章 三ツ矢、ゼロからの再起
第8章コーラの来襲と荒波を越えて
第9章 炭酸飲料異聞
第10章 三ツ矢サイダーが愛される理由

このタイトルに惹かれて、書店で購入。
冒頭に書いてあるのですが、清涼飲料水の世界というのは、本当に「新規参入が難しい世界」みたいなのです。
比較的最近発展してきた市場である「お茶系」はともかく、「甘い清涼飲料水(ジュースも含めて)」に関してはとくにその傾向が強く、

「千三つ」
 年間売上高、約4兆円の市場をめぐって、約500社・4200工場がひしめき合う清涼飲料業界は関係者から、そう呼ばれている。
 一年間に登場する新商品は、1000点前後に及ぶ。しかし、その年に生き残れるのは、3つくらいしかないからだという。

そう言われてみると、僕が記憶しているこの30年くらいで、新たに「定番」になった甘い清涼飲料水って、「アクエリアス」「ポカリスエット」「カルピスウォーター」「なっちゃんオレンジ」くらいではないでしょうか。
三ツ矢サイダー」は、ずっと愛されているサイダーだけど、その一方で、「なんでこんな何の変哲もないサイダーが、ずっと生き残っているのだろう?」「一体誰が、三ツ矢サイダーを買い支えているのだろう?」って疑問ではあったのです。いや、僕も時々飲みますけどね、三ツ矢サイダー

この本では、夏目漱石宮沢賢治もサイダーを愛飲していたというエピソードからはじまって、大航海時代に「炭酸の殺菌効果」で水を腐らせないために炭酸水を携行したことや太平洋戦争中、兵士たちの娯楽・士気高揚のために「サイダー」や「ラムネ」が支給(あるいは安く販売)されていたことなどが語られています。
ラムネはビンさえあれば簡単に作れたため、大きな軍艦には「ラムネ製造室」もつくられていて、ラムネを艦内でつくることができたのだとか。あの戦艦大和にも「ラムネ製造室」があったとのことです。
そして、軍隊でサイダーやラムネの味を知った人たちが、戦後、サイダーを全国に広めていきました。

僕のイメージでは、「サイダー」というのは、戦後、日本が経済的に豊かになってから飲まれるようになったものだったのですが(子供の頃は、「砂糖のとりすぎは体に悪い」ということで、あんまり飲ませてもらえなかった、ということもあるのですけど)「三ツ矢サイダー」は、むしろ、「過去の記憶とともにある飲み物」として、ずっと日本人に愛されてきたのです。コーラと同じ炭酸飲料ではあるのだけれど、「戦後日本に流入してきたアメリカ文化の象徴」であるコカ・コーラとは、全く違う歴史的な背景を持っているのだ、ということを、この本で初めて知りました。
戦艦大和の乗組員たちは、どんな思いで、「最後のサイダー」を飲んだのかと思うと、なんともいえない気分にもなりますが。

正直、この本のタイトルを見たときには、それこそ『プロジェクトX』ばりの「三ツ矢サイダーを生き残らせた職人たち」のエピソードなのだろうな、と思ったのですが、実際は、「サイダーの歴史」に割かれているページがかなり多いです。
三ツ矢サイダーが生き残った理由は、「誰かひとりの英雄の活躍によって」ではなく、「安全・安心を貫いたこと」と「多くの日本人にとって、まさに『記憶とともにある』飲み物だったこと」ではないかと思われますが、それに関しては、僕自身はちょっと消化不良な印象はあったんですけどね。

でも、「なんとなくみんなが飲み続けている清涼飲料水」というポジションは、ある意味、「すごく三ツ矢サイダーらしい」気もしますね。「何か炭酸飲料が飲みたい」と思ったときに、手にとってしまう、まさに「定番」。

最後に、豆知識など。
「サイダー」と「ラムネ」の違いについて、この本ではこんなふうに説明されています。

 明治時代、サイダーはリンゴ風味で、ラムネはレモン味だった。リンゴ風味のフレーバーのほうが値段が高かったので、サイダーは高級品、ラムネは庶民派と住み分けた。
 実は、サイダーのリンゴ風味にはパイナップル・フレーバーの隠し味があり、これが日本人の好みに合った。「リンゴ+パイナップル」のサイダー・フレーバーは日本で生まれた香料で、サイダーは日本独特の味を持つ清涼飲料である。

(中略)

 明治末、大手ビール会社が胴長丸形瓶の王冠栓で、柑橘類風味の高級炭酸飲料を三ツ矢サイダーのライバル商品として販売。これが業界では「サイダー類」として扱われたため、サイダーとラムネの味の境界線はなくなった。唯一、残った境界線は、玉瓶に入れているかどうかで、それは、今も続いている。

現在は、「容器の違い」こそが「サイダー」と「ラムネ」の違いみたいです。


ちなみに、いま、いちばん売れている清涼飲料水って、何だか、ご存知でしょうか?
そりゃ、アレに決まっているだろ!と思った人も多そうですが、答えは一応、隠しておきますね。

(2008年のデータ)
1位:ジョージア缶コーヒー(コカ・コーラ社) 1億2900万ケース

2位は、「おーい、お茶」(伊藤園)の8600万ケース
コカ・コーラは、7650万ケースで、清涼飲料水全ブランドの第4位。
僕は「コカ・コーラがいちばんに決まってるだろ」と思っていました。
三ツ矢サイダーは、3300万ケースで、炭酸飲料の2位(清涼飲料水全体では14位)だそうですよ。

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