琥珀色の戯言

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追想五断章 ☆☆☆☆


追想五断章

追想五断章

内容(「BOOK」データベースより)
古書店アルバイトの大学生・菅生芳光は、報酬に惹かれてある依頼を請け負う。依頼人・北里可南子は、亡くなった父が生前に書いた、結末の伏せられた五つの小説を探していた。調査を続けるうち芳光は、未解決のままに終わった事件“アントワープの銃声”の存在を知る。二十二年前のその夜何があったのか?幾重にも隠された真相は?米澤穂信が初めて「青春去りし後の人間」を描く最新長編。

インシテミル』を読んで以来、僕は米澤さんにすごく注目しているのです。
この最新長編「追想五断章」も、けっこう楽しみにしていたんですよね。

しかしながら、「確かに面白いけど……なんかいろんな要素が中途半端に置き去りにされたまま、終わってしまったな……」というのが、僕の率直な感想です。
いや、けっしてつまらない作品じゃないんですよ。ちょっと夜更かしして一晩で読んでしまったくらいには面白かったのだけれども。

主人公やその伯父さん、アルバイト先の同僚の女の子、そして、北里可南子などの登場人物は、思わせぶりに登場してきて、彼らは、この事件をきっかけに「何か」が変わっていくのではないか、と僕は思っていました。
ところが、この作品での登場人物たちは、「この小説内での役割が終わると、何の余韻も葛藤も遺さずに、スッと消えていく」だけなのです。
なんだか、幽霊たちが演じる舞台を見ているみたいでした。
トリックというか、仕掛けも、2章まで読んだら、だいたい見当ついてしまったし。

この「結末が伏せられた五つの小説内小説」は、少し芥川龍之介っぽい感じもあり、むしろ本編よりも印象に残りました。
こういうのを書ける米澤さんはすごいなあ、と感心したけど、やっぱり、こういう「人間が生きることの重さ」を描く小説であれば、もっと、個々の登場人物を大事にしてもらいたかったなあ。
インシテミル』は、「登場人物を記号のように動かす面白さ」が光ってたし、『氷菓』『愚者のエンドロール』は、いかにもライトノベル的ではあったけれど、キャラクターに勢いと魅力がありました。
いろんな意味で、「過渡期」なのかもしれないけれど、この『追想五断章』は、どっちつかずになってしまっていて、「物語の力に、人物の魅力が追いついていない」作品なのかな、と。

何度も言いますが、けっしてつまらない作品ではないです。
書店で文庫化されたこの本を偶然見かけてかったら、「なかなか良い作品だったな」と満足していたはずなんだけどねえ。

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