琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

いい日、旅打ち。 - 公営ギャンブル行脚の文化史 ☆☆☆☆


内容(「BOOK」データベースより)
地元民に交じって、名物を食べながら、予想紙を広げる。勝てば、夜はネオン街へ。これぞまさに、世のギャンブラーの夢。日本の全公営競技場を踏破した猛者が、あなたを至福の旅に誘う。

競馬ファンにはおなじみの須田鷹雄さんが、「旅打ち」の魅力について熱く語る本。
「ギャンブル」とくに競馬・競輪・競艇・オートの「公営ギャンブル」に興味が無い、あるいは、「ギャンブルなんて大嫌い」という人には、まったく縁のない新書ではありますが、「知らない土地で昭和の雰囲気にひたりながらギャンブルに興じる」ことにロマンを感じる人には、ぜひオススメしたい本です。
これを読んでいると、「ああ、僕ももっと若いころ、時間が自由に使えた時代に、『旅打ち』しに行けばよかったなあ……」なんて、考えずにはいられません。

僕は20年近くの競馬歴があるのですが、全国の競馬場のうち、実際に行ったことがあるのは、小倉競馬場佐賀競馬場福山競馬場阪神競馬場の4場しかありません。そのほかには、佐世保競輪に一度行ったことがあるくらいです。
競艇、オートは一度もなし。
僕の場合は、パチンコはさんざんやったことがあっても、パチスロは触ったこともないとか、娯楽に対しては保守的な人間である、という面はあるにせよ、もうちょっといろんな競馬場を見てみたいなあ、とは思います。
須田さんも書かれていますが、いまや公営ギャンブル場はJRAやごく一部の施設を除けば、「いつ廃止になってもおかしくないところばかり」ではありますし。

しかしながら、田舎の公営ギャンブル場への「旅打ち」で「地方競馬場」に「ロマン」とか「レトロな雰囲気」にひたれるかというと、よっぽどの「ギャンブルロマン派」じゃないと、それはけっこう難しいことなのかもしれません。
僕は以前、某地方競馬場の場外馬券売り場で、ガラの悪いオッサンたちが100円券を握りしめて、タバコを吸いまくり、さんざん騎手に罵声を浴びせている光景を見て、すごく嫌な気分になったことがあるんですよね。
それが「地元のギャンブルおやじたちの楽しみ」であることを否定はできないけれど、「そういうのも鉄火場の貴重な風景だ」と思えるくらいの懐の深さがないと、携帯電話やネットで日本中の馬券が買えるこの御時世に、「旅打ち」は愉しめない。
ある種の「文化遺産めぐり」のつもりじゃないと、やっぱり、「JRAのほうが綺麗だし、食べものも豊富だし、華やかだしいいや」ということになるんじゃないかなあ。

僕自身にも「忘れられない地方競馬場の風景」というのがあるんです。
福山競馬に子どもの頃毎週のように連れていかれていたのですが、競馬場で売られているジャンクフードの数々は、小学生だった僕にとっては、すごく魅力的だったんですよね。
とくに、ソースがたっぷりかかった、濃い味の焼きそばは、本当に美味しかった記憶があります。いまみたいに、焼きそばが簡単にコンビニで買える時代じゃなかったですし。
子供心には、競馬場って、毎週お祭りをやっていて、出店がたくさんある場所みたいに思えたものでした。
馬券が外れて不機嫌になる親の機嫌をうかがうのは嫌だったけど。

あと、この新書を読んでいて、自分がよく行く競馬場で「常識」だと思っていたものが、実は他所では「珍しいもの」なのだということに驚かされました。

・「なんでも焼く店」(佐賀競馬場
 基本的には売店である。しかし一般の売店にはない特徴として鉄板を設置しており、買った食べ物を加熱してくれる。この形態を地方競馬に精通する競馬ライター・井上オークス氏が「なんでも焼く店」と名付け、それが競馬ファンの間には浸透していっている。
 焼きイカや焼き鳥、さらにはカレーパンまで割り箸を刺して焼いてくれる(大福を焼いてくれる店もあるが、さすがに割り箸は刺さない)のだが、やはりこの店で焼きたいのは練り物の類。おでんに入れるゴボウ天・丸天。さらにイカ天。いわし天などがあって、これらは加熱しないとおいしくない。ちなみに、棒状のものよりも板状のアイテムのほうが、接地面積が広いぶんよく火が通っておいしく感じられる。私だけの好みかもしれないが。

いや、この店、僕にとっては、あまりに当たり前にそこに存在している店なので、「競馬場の売店って、こんなもんだよな」と、とくに印象に残るわけでもなく、たまにトウモロコシとかを焼いてもらっていたんですよ。
それが、全国を巡っている須田さんにとっては、「佐賀競馬独特の、面白い店」なのか……
あと、「ハウステンボス」に隣接している「ウインズ佐世保」にも

「金があった時代にムチャしちゃいました」としか言いようのない施設だが、スケールがズバ抜けているだけに一度見ておいて損はない。

というコメントがついていたのですが、僕はウインズって、佐世保と八幡くらいしか知らないので、その「バブリーな豪華施設」についても、「ウインズって、全国的にこんな感じなんだろうなあ。さすがにJRAは金持ちだねえ」と思いこんでいましたし。
ほんと、日本というのは、狭い国のようで、けっこう広いものです。
そして、自分にとっての「あたりまえ」は、けっして日本全体で通用するわけじゃない。

 そうでなくても公営競技場の食には後ろ向きな一面がある。
 ひとつは、おやじ達がグルメではないということだ。
 ある場の食堂で私が食事をとっていたときのこと。私は煮魚定食を食べていたのだが、来るおやじ来るおやじ、みんなラーメンを注文する。
「ひょっとしてここはラーメンが名物で旨いのか!?」
 と焦る私の横で、二人連れのおやじの片方が一言、
「ここのラーメン、スープ薄いんだよな」
 じゃあ頼むなよ! と心の中でツっこんだのはもちろんだが、公営競技おやじのグルメリテラシーというのはその程度のものである。

料理の味よりも、こういうディープギャンブルおやじたちの会話がいちばんの「御馳走」だと思える人は、「旅打ち」に向いているんじゃないかと思います。

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