琥珀色の戯言

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「夜のオンナ」の経済白書 ☆☆☆☆


[日販MARCより]
夜のビジネスの世界市場規模は55兆円。世界同時不況後もたくましく生き抜く「夜のオンナ」たちの稼いだお金の行方を探り、経済や法律、医療などの観点から、まじめに世界の性風俗を分析する。

[BOOKデータベースより]
「夜のビジネス」の世界市場規模は55兆円。世界の「夜のオンナ」たちが稼いだお金の行方を探る。

第1章 搾取される開発途上国の「夜のオンナ」たち(開発途上国の男性優位社会が売春を促す;タイの「夜のビジネス」はベトナム戦争の遺産 ほか);
第2章 合法と規制の狭間で揺れる先進国の「夜のビジネス」(先進国の「夜のビジネス」の仕組み;米国デンバーで買春するとテレビで顔と名前が晒される ほか);
第3章 日本の「夜のオンナ」最新事情(締め出される「風俗案内所」;わいせつDVD販売に対する規制も強化 ほか);
第4章 世界同時不況と「夜のオンナ」(金融危機が「夜のビジネス」を直撃。エコ割引の登場;カジノの収入減がセックス関連産業にも影響 ほか);
第5章 「セックス税」導入のススメ(「タバコ税」「酒税」のように「セックス税」を;「セックス依存症」という恐ろしい病気 ほか)

この新書を書店でみかけたときには、「風俗店が儲かるカラクリ」とか、「夜の仕事をしている女性たちは、どのくらい稼いでいるのか?」ということが書いてあるんだろうな、と思ったのですが、実際に読んでみると、とても「まじめな本」でした。日本に住み、「夜のビジネス」にかかわるのは、二次会で「女の子のいる店」にごくたまに行くくらい、という僕がいままで想像もしていなかった、「世界の裏側」が、この新書のなかには書かれています。

 一方、私が『「夜のオンナ」はいくら稼ぐか?』(角川oneテーマ21)ではじき出した日本の「夜のオンナ」が稼ぎ出すおカネの総額は、2006年時点で約11兆3000億円である。これはポルノ関連の産業だけでなく、銀座の高級クラブやキャバクラ、主婦の夜間パートなど「夜のビジネス」で働く女性が動かす、すべてのおカネを含めた数字だ。
 そこで、大雑把ではあるが、「トップテンレビュー」(インターネットサイトの分析や各種ソフトのサービスの比較、レビューサイトの運営などを行う米国の企業)が推計した世界全体のポルノ関連産業売上高に占める日本の割合(=20.6%)と世界全体の「夜のビジネス」に占める日本の割合が同じものと仮定して、私が推計した日本の「夜のオンナ」が稼ぎ出す年間売上高から、世界全体の「夜のオンナ」が稼ぎ出す年間売上高を逆算してみると、約54兆8938億円という数字が出てくる。

 ちなみに、この親書で紹介されている、2006年の「ポルノ関連産業の売上高」では、日本は中国、韓国に次ぐ第3位にランクインしています。日本の売上高は199.8億ドルで、アメリカの133.3億ドルをはるかに上回っており、人口を考えれば、日本はかなりの「ポルノ大国」だと言えそうです。
 しかし、そういう日本の「性についてのおおらかさ」を、僕たちはあまり自覚しておらず、日本が「世界標準」みたいに考えてしまっているのではないでしょうか。
 僕が10年くらい前、韓国に旅行したときのこと。同じ船で釜山に行く日本人男性の団体が、待合室で、ビールを飲みながら朝っぱらから、「韓国のオンナはいいぞ〜」というような話をしてニヤニヤしているのに面食らった記憶があるのですが、釜山で韓国人女性のガイドさんが「女性の紹介は……要りませんよね?」と聞いてきたのには驚きました。そのときは、当時はまだ結婚してはいなかったものの、妻と一緒の旅行だったのに。
 そして、観光地に行くと、白昼堂々日本人中年男にしなだれかかる若い韓国人女性たちがあまりにたくさんいることに驚いたのです。
 こういう光景を日常的に見せられていたら、そりゃあ、日本や日本人に対して、好感を抱くのは難しいだろうな、と思わずにはいられませんでした。
 現在も、そういう「買春ツアー」は、続いているのだろうか……

 2004年6月には、世界の人身売買を監視する米国の国務省が、日本が外国人の人身売買を温床になっているとして「監視対象国」に指定した。これは人身売買の法整備が最低レベルにも達していないという判断によるものだ。主要国のなかで、「監視対象国」に指定されたのは、ロシアと日本だけである。

 2006年には、外国人の人身売買を防ぐことなどを目的として、改正風俗営業法が施行されました。

 2007年7月には、外国人女性の人身売買だけではなく、日本人女性の人身売買が摘発されている。この事件では、栃木県の風俗店で働いていた日本人女性が別の風俗店に売り渡されていた。風俗店経営者が、女性が無断欠勤したことに腹を立てて、別の店に売り飛ばしたということだ。
 さらに2008年には、17歳と18歳のマカオ出身の少女が人身売買の被害に遭い、千葉県内のスナックで強制売春させられていた事実が判明した。2人の少女は、マカオの新聞に掲載されていた「カラオケスナックのホステス募集」の広告を見てこれに応募。しかし、これは台湾の人身売買ブローカーが出した虚偽の広告であった。
 ブローカーは、何も知らずに応募してきた少女たちをだまして、2008年8月に来日させ、そのまま千葉県内のスナックに送り込んだのである。ブローカーは少女2人を売り渡すことで計148万円の報酬を得たという。そして、少女を買い受けたスナックの経営者は、少女たちに売春を強要した。売春によって得たおカネは、渡航費用の借金返済と称してすべてスナックの経営者が取り上げていたという。少女の1人が母親に携帯電話のメールで助けを求めたことから、恐ろしい人身売買の実態が明るみに出た。

 おそらく、こういうのは「氷山の一角」ではないでしょうか。
 そして、「買う側」には、まったく「罪の意識」なんて無かったと思います。
 貧しい国では、「売春で稼がないと食べていくことができない生活」をしている人たちがいて、他に生活の手立てを保証できないのに、「悪いことだから、全面的に禁止」するというのも不可能な状況にあるのです(マカオの少女たちがそこまで貧しかったかどうかはわかりませんが)。
 「向こうが売りたがっているものを買ってやって、何が悪い?」「買い手がいるから、あいつらだって生きていけるんだろ?」

 「格差」があり、そこに「ニーズ」があるかぎり、「貧しい人々に対する『性の搾取』」が終わることはない。
 そして、「途上国で買春をする先進国の男」というのは、なにも日本人だけではなく、世界中には、好んで18歳未満の子供を買う男が大勢います。

 この新書のなかで、僕がいちばん衝撃を受けたのは、この話でした。

 スリランカは、もともと人身売買の被害者が多く出る国として知られていたが、とくに2004年12月26日、マグニチュード9.3のスマトラ沖地震と大津波が発生した際には、子供を狙った人身売買事件が多発した。
 2005年以降、スリランカを含めてスマトラ沖地震津波で大きな被害を受けた地域では、両親とはぐれてしまったり、あるいは親を失って孤児となった子供たちが急増した。
 暗躍する国際的な人身売買の組織は、このような混乱に乗じてスリランカの子供を次々に誘拐し、売春目的で国外へと売り飛ばしていったのである。人身売買組織に連れ去られた子供たちは、10万円程度の値段で取引されたという。
 また、国際的な人身売買組織とは別に、スリランカ政府と対立する少数派タミル人組織タミル・イーラム解放のトラLTTE)が、スマトラ沖地震・大津波の後、被災地の少年や少女を多数誘拐していったことも確認されている。LTTEは、兵士として徴用するために、子供を誘拐したとみられる。
 ILO(国際労働機構)やユニセフは、スマトラ沖地震後に子供を狙った人身売買の事件が急増するようになったことを受けて、被災地のスリランカインドネシアスマトラ島アチェ州などに警戒と子供たちの保護を呼びかけた。
 人身売買組織は、救済組織や福祉団体など善意の組織を偽装して、避難キャンプを訪れ「養子縁組をしたい」「この子の親戚だ」などと言って、子供たちを誘拐していく。
 このためスリランカ政府は、孤児が人身売買の被害に遭うことのないよう、親を失った子供の養子縁組を一時的に禁止した。

 災害の被害を受けた地域で、「千載一遇のチャンス」と暗躍し、親を失った子供たちを売り飛ばす連中が、この世界には大勢存在しているのです。
 こういう話を読むと、人間の残酷さ、そして、「命の軽さ」を感じずにはいられません。
 世界には、アメリカが名指しする「テロリスト」よりもはるかに悪質な「戦わなければならない相手」が存在するのではないだろうか?

 「性におおらか」であることは、悪いことではないのかもしれないけれど、「売る側の事情」にあまりに無頓着(あるいは、知らんぷり)でありながら、「自由」や「権利」ばかりを主張するのは、あまりに独善的ではないかと思いますし、この新書は、いままで隠されていた「世界の裏側」を知る、よいきっかけになるのではないかと思います。

 21世紀になっても、「奴隷」がいる世界があるのです。それも、僕たちのすぐそばに。

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