琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 ☆☆☆☆


ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 上

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 上

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 下

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 下

内容(「BOOK」データベースより)
月刊誌『ミレニアム』の発行責任者ミカエルは、大物実業家ヴェンネルストレムの違法行為を暴露する記事を発表した。だが、名誉毀損で有罪になり、彼は『ミレニアム』から離れることになる。そんな彼の身元を大企業グループの前会長ヘンリック・ヴァンゲルが密かに調べていた。背中にドラゴンのタトゥーを入れ、特異な風貌をした女性調査員リスベットの働きで、ヘンリックはミカエルが信頼に足る人物だと確信し、兄の孫娘ハリエットがおよそ40年前に失踪した事件の調査を彼に依頼する。ハリエットはヘンリックの一族が住む孤島で忽然と姿を消していた。ヘンリックは一族の誰かが殺したものと考えており、事件を解決すれば、ヴェンネルストレムを破滅させる証拠資料を渡すという。ミカエルは信頼を受諾し、困難な調査を開始する。全世界で2100万部を突破、2008年度世界書籍売り上げランキング第2位!世界中に旋風を巻き起こした驚異のミステリ3部作の第1部。映画化され、ヨーロッパを中心に各国でナンバー1の大ヒット。

今年の各種ミステリランキングで軒並み上位にランクインしているこの作品。翻訳ミステリはちょっと苦手なんだけど……と思いつつ、手にとってみました。
上下巻で800ページを超える作品ということもあり、読み終えるのに1週間くらいかかったのですが、北欧系の名前に親しみがないこともあり、慣れるまではけっこう大変でした。
登場人物がかなり多いこともあり、最初は付録の「登場人物リスト」に頼りっぱなし。
率直に言うと、上巻の最後のほうくらいまでは、どうも盛り上がる場面がないまま状況説明が続き、「何がそんなに面白いんだ?」と思いながら読んでいたんですよね。
でも、主人公のミカエル・ブルムクヴィストとリスベット・サランデルが出会ったあとから(「下巻」くらいから)話は一気に動き、盛り上がってきます。
あとはもう、ページをめくる時間がもったいないくらいの一気読み。

この作品には、けっこう過激な性的描写が含まれています。
ただ、それは「読者サービス的なお色気シーン」ではなく、読み飛ばしたくなるくらい痛々しいのですが、この作品のテーマにも深くかかわってくるものです。
この『ドラゴン・タトゥーの女』の原題は、『女を憎む男たち』だそうなのですが、これを読んでいると、作者は「ミステリ」という形式を借りて、スウェーデン、あるいはこの世界中に存在している「弱い立場の女性への性的虐待」を告発しているのだということがわかってきます。
そして、「そんなの警察に届け出ればいいじゃないか」と言う「常識人」たちに、「弱い女性たち」の思考法をリスベット・サランデルに語らせているのです。
「そもそも、公的権力にそれまで蔑視され、相手にされてこなかった(あるいは抑圧されてきた)彼女たちには、警察に頼るなんていう選択肢そのものが存在しない」

この作品のなかで、僕にとってもっとも気にかかった人物は、なんといっても、「対人コミュニケーション不全だけれど、すごいコンピューターの知識を持ち、並はずれた記憶力を持つ、15、6歳の外見とドラゴンのタトゥーを持つ女」リスベット・サランデルでした。
僕はいままでの人生で、何人もの「リスベット的な人」とかかわってきましたが、この作品では、「ツンデレ」なんて言葉が幼稚に感じられてしまうほどの、もっと病的なコミュニケーション不全を抱えて生きている人間(=リスベット)が精緻に描かれています。
彼女はある意味「万能の神」であり、その一方で「きわめて弱い存在」でもあります。


おそらく、この作品を十分に理解するには、キリスト教の知識やスウェーデン社会への理解が必要でしょう。
そして、この作品を読んだときのスウェーデンの人たちの衝撃は、日本人である僕には想像もつかないものだったのではないかなあ。「世界有数の福祉国家」のはずの母国の「暗部」を眼前につきつけられたのだから。
それでも、この作品は世界中でベストセラーになっているというのは、「こういうことが、自分たちの周りでも起こっているのではないか、起こっていてもおかしくないのではないか?」と感じる人が世界中に大勢いることの裏返しなのだろうと思います。

ただ、僕の感覚からすると、40代、50代の男女がいきなりセックスしまくる展開というのは、頭のなかに浮かんでくるイメージとしては、ちょっと厳しいんだよねえ。
そういう場面になるたびに、冷水を浴びせられたような気分になったのも事実。こういう「文化の違い」は、なかなか埋めがたいもの。
ミステリとしての完成度もサスペンスとしての魅力も登場人物の個性も素晴らしい作品なのだけれど、「アンタもスキねえ……」という加藤茶のコントを何度も思い出してしまいました。

この『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』たしかに素晴らしい作品です。年末年始に骨太のミステリが読みたい!という皆様にはぜひオススメ。
でも、正直ちょっと長いよなあ。とりあえず、読まれる際には、上巻はなんとか耐えてください。後半は面白くなりますので。

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