琥珀色の戯言

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あ〜ぁ、楽天イーグルス ☆☆☆


内容(「BOOK」データベースより)
最下位から歓喜のCS進出、驚きの解雇通告まで―楽天野球とは何だったのか?楽天監督1500日の真相。

今年の「楽天フィーバー」で、あらためてその手腕を見せつけた野村克也監督。
この『あ〜ぁ、楽天イーグルス』は、その野村監督が楽天時代を振り返った新書です。

この時期に出るということは、企画から出版まで非常に短い期間でつくられた本なのでしょうが、正直、過去の野村監督の著作を何冊か読んでいる僕にとっては、「野村監督と楽天フロントとのやりとりや個々の選手への監督の想いを除けば、あまり新しい内容はありませんでした。
まあ、そんなにしょっちゅう「新しい思いつき」があるようでは、かえって指揮官としては問題があるのかもしれませんが……

野村イーグルスを振り返り、「総括」したい人には必読の新書だと思います。
でも、「野村克也の戦略」について知りたい人は、これを読むより『野村ノート』を読んだほうがいいですよ。

野村監督というのは、頭はいいし指揮官としての能力は高いけれど、マスコミに向かってボヤいて選手にイヤミばっかり言っている冷徹な人のようなイメージを僕は持っていたのですが、楽天の選手たちへのコメントを読んでいると、結果ではなく、「プロセス」をすごくしっかりと見ているのだということがわかります。
この本のなかでも、ここの選手の「通算成績」にではなく、中心選手の山崎の「足を怪我しているにもかかわらず、ダブルプレーにならないための全力疾走」、鉄平の「同点でサヨナラがかかったノーアウト2塁の場面でのランナーをすすめるファーストゴロ」に言及していますし。

そして、「ID野球」と呼ばれる「データ重視」の野村野球についても、僕はちょっと甘くみていたな、と痛感させられました。

 楽天の監督になったとき、スコアラーたちが作成したデータやビデオを見せてもらったことがあった。が、それらははっきり言えばただ集めただけだった。膨大ではあったけれど、「そんなもの、誰が見るか!」という内容だった。本は読まない、字も書かないような選手たちの処理能力を超えていた。
 詳細なデータを集めることはもちろん大切である。が、それは第一歩であり、ほんとうに重要なのは、そのなかから必要なものを、どれだけ具体的かつ簡潔にわかりやすく選手に提供できるか、なのだ。編集能力と表現力がスコアラーには問われるのである。要するに、楽天はデータの必要性には気づいていたものの、その活用法を理解していなかったのだ。これでは選手に「考えろ」といっても無理な話だった。
 私は楽天のスコアラーたちにいった。
「”統計”は必要ない。ほしいのは、状況ごとのバッテリーの配球パターンやバッターの特徴だ」
 具体的にいえば、「12種類あるボールカウントそれぞれで、そのピッチャーはどういう球種を投げてくることが多いか」「ストレート、カーブといった同じボールを何球まで続けて投げるか」「キャッチャーのサインに首を振ったのはどういう状況だったか」「牽制球は何球まで投げるか」「このバッテリーはピッチャーがモーションを起こしてからキャッチャーが2塁に送球するまで何秒かかるか」「といったことだ。バッターについていえば、「甘いストレートを見逃したあとの次のボールに対する反応」「大ファールを打ったあと、あるいは空振りをしたあと、どういうバッティングをしたか」という情報である。いわば心理に関することであり、それは具体的かつ細かいほど役に立つのである。

漫然と相手の前の試合のビデオを眺める、あるいは、「このピッチャーはカーブが多い」というような「知識」を仕入れるだけで、「データ重視」とか「相手を研究している」つもりになっている人は、けっこう多いのではないかと思います。
僕自身も「統計」をみて、わかったような気になっていることばかりなんですよね。
本当に「役に立つデータ」というのは、ここまで「それぞれの状況に応じて、整理されている」ものでなくてはなりません。
これはもちろん、野球だけの話ではないはず。

 そして、9回表、渡辺直人の打球が日本ハムのショート・金子誠を経て、ファースト高橋のミットに収まった瞬間、私の24年間におよんだ監督生活、そして55年間にわたるプロ野球生活がひとまず終わった。
 敗軍の将は消え去るのみと思っていたところ、その後予想外の出来事が起きた。山崎が音頭をとり、私の胴上げがはじまったのである。楽天の選手たちだけでなく、しかも、ヤクルト時代の教え子である吉井や稲葉、武田勝をはじめとする日本ハムの選手たち、さらには監督の梨田までが加わって……。
 私の身体は五度宙に舞った。「長嶋と王とうらやましい」と思っていた私だが、そのふたりでさえ、敵軍から胴上げされたことはなかった。まして敵地で、しかも負けたチームの監督の胴上げなど前代未聞だろう。

僕もこの場面を見ていて、涙が出そうになりました。楽天の選手たちはもちろん、「敵」であるはずの日本ハムの選手も胴上げに参加していたのが、すごく印象的で。
でも、あれは逆に、楽天が負けてしまったからこそ、日本ハムの選手たちも「参加」できたという面もあるんですよね。あの「両チーム胴上げ」が許される状況というのは、すごく稀有だったはず。
そういう意味では、野村監督というのは、不思議な運というか縁を持っている人なのかもしれません。

もう一年「野村・楽天」を観てみたかったのですが、その一方で、この新書のなかに「どうせブラウンは、すぐ首にして、次に古田を監督に据えるつもりなんだろう」というような「想像」(というか、「妄想」。少なくとも今の時点では「ブラウンの次」への具体的なプランなんて無いと思います。ブラウン監督だって、けっこう行き当たりばったりで招聘したように見えるフロントだし)が書かれているのを読むと、「周りはやりづらかっただろうな」とも感じずにはいられないんですけどね。

できれば、一度カープの監督をお願いしたい人なんだけど、カープのフロントは、絶対招聘しないだろうなあ……


野村ノート (小学館文庫)

野村ノート (小学館文庫)

↑野村監督の「戦略」に興味があるかたには、こちらがオススメです。ちょうど最近文庫になりましたし。

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