琥珀色の戯言

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GOSICK ―ゴシック― ☆☆☆☆☆


GOSICK  ―ゴシック― (角川文庫)

GOSICK ―ゴシック― (角川文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
前世紀初頭、ヨーロッパの小国ソヴュール。極東の島国から留学した久城一弥は、聖マルグリット学園の図書館塔で奇妙な美少女・ヴィクトリカと出会った。彼女の頭脳は学園の難事件を次々解決してゆくが、ある日ヴィクトリカと一弥は豪華客船に招待され、そこで本物の殺人事件に遭遇してしまう。やがて彼ら自身に危機が迫ったとき、ヴィクトリカは―!?直木賞作家が贈る、キュートでダークなミステリ・シリーズ。

直木賞作家・桜庭一樹さんの出世作GOSICK』、僕はこれまで、「所詮、ライトノベルだろ?そんなの中高生が読む本!」という偏見を持っていたのです。
しかしながら、今回、角川文庫から「大人が電車で読んでいても恥ずかしくない装丁の文庫」が発売されているのを見つけ、話の種にと購入してみました。
「ま、いくら桜庭さんといっても、ラノベだからねえ……」と思っていたのですが、読み始めると見事にハマっちゃったんですよねこれが。
主人公・久城一弥や探偵役の美少女・ヴィクトリカの極端なキャラクターは、いかにもライトノベルだなあ、という感じなのですが、読んでみると僕も「ラノベ的なもの」はキライじゃないのだなあ、ということがわかりました。

この『GOSICK』の最大の魅力は、僕が中高生だったとき、図書館で一生懸命読んでいた「古典ミステリ」のエッセンスが詰まっていることなんですよ。
作品のモチーフが「航海史上最大の謎」などと称されることもある「マリー・セレスト号事件」ですし、登場人物がわざとらしく持ち歩くテニスボールなどは、子供の頃「推理クイズ大百科」を熟読した人間にとっては、「ああ、アレか!」とニヤニヤしてしまうこと請け合いです。
「舞台設定の説明に200ページを費やす本格ミステリ」を読む気力がなくなっている僕にとっては、読みやすくて、昔読んだ本のトリックを思い出すことができて、適切な長さで、そして「ライトノベルらしい大風呂敷を広げまくった殺人者たちの動機」と「幸福な読後感」を併せ持つこの作品は、とても心地よいものでした。
「このミステリはスゴイ!」というより驚きよりは、「桜庭さんはやっぱりミステリマニアだよなあ」という共感のほうが先に立ってしまうのですが、ミステリがどんどん「ディテールの描写」を突き詰める方向に行っているなかで、こういう「世界をなるべくシンプルにして、謎解きの面白さを追及した作品」は、かえって新鮮なんだよねえ。

 そう、もともとこの旅行にヴィクトリカを連れ出したのは、自分なのだ。彼女は、一弥が知る限りいつも、あの大図書館の植物園にいた。国王が愛人との逢い引き用に造ったという、最上階の天窓つきの快適な部屋。書物を読み飛ばし、たまに下界の事件を聞いては即座に解決するヴィクトリカは、聖マルグリット学園にとりついた精霊のような、小さな神のような、不思議な存在だった。
 きっと彼女の一日一日は、不思議と謎に取り囲まれ、平和に過ぎていったのだと思う。
 それを、よりによって自分が週末旅行に誘いだし、こんな危険な場所に連れてきてしまった。もしヴィクトリカの身になにかあったら、自分の責任だ。
 彼女にあるのは、頭脳だけ。
 体はこんなに小さく、か弱いのだ。自分だって無力な子供の一人に過ぎないけれど、せめてヴィクトリカのことは守らなくては。
 一弥はそう思っていた。……こういうところが生真面目な型物と称される所以なのだが。

「彼女にあるのは、頭脳だけ」か……
なんだか僕は、こういう存在に憧れてしまうみたいです。

そうそう、僕がこの作品に惹かれたのは、高校のとき、西村京太郎さんが、この「マリー・セレスト号事件」をモチーフにして書かれた『消えた乗組員』という作品が印象に残っていたということもありました。
「面白くて肩が凝らないミステリ」あるいは、「中学生の頃、学校の図書館で読んでいた推理小説」にあらためて触れてみたい人には、ぜひオススメ。
所詮ライトノベルというけれど(というか、僕もそう思っていたけれど)、むしろ、「重厚になりすぎているいまのミステリ」に疲れた大人に読んでもらいたい作品です。


参考リンク:メアリー・セレスト号事件(Wikipedia)


消えた乗組員(クルー) (講談社文庫)

消えた乗組員(クルー) (講談社文庫)

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