琥珀色の戯言

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競馬の終わり ☆☆☆


競馬の終わり

競馬の終わり

内容(「BOOK」データベースより)
「馬を買いに来た。サラブレッドだ」北海道の新冠で小さな牧場を営む笹田伸人の許を、北海道を統括するロシア弁務官アレクセイ・イリッチが訪れた。小規模な牧場には珍しく、大活躍が期待される一歳馬だ。笹田は弁務官の高圧的な態度に拒絶反応を示すが、権力には勝てず、馬は買い取られていった。二十二世紀初頭、ロシアはその強大な軍事力により、経済力のみの日本に勝利し、支配下に置いていた。世界の競馬産業は衰退していたが、日本ではロシア侵攻中も馬産が続けられ、競馬人気は盛ん。しかし、「腹脳」という人口頭脳の業界団体である「腹推会」が、人間のサイボーグ化への足がかりとして、サラブレッドのサイボーグ化を競馬界に働きかけ、これが承認されてしまった。生身の馬体で行われる最後のダービーに向けて、男たちは、それぞれの戦いを始める。ポグロム―ロシア語で、虐殺、破壊―と名付けられたイリッチ弁務官の馬は、いかなる活躍を示すか!?第10回日本SF新人賞受賞作。

攻殻機動隊」+「風のシルフィード」(というより、「マルス」か?)という感じの「仮想伝奇競馬小説」で、押井守監督と競馬の両方が大好きな僕は、けっこう楽しめました。
 前半の「ロシアに支配された近未来の日本」の描写はなかなか面白いし、作者の競馬への愛情と血統へのこだわりも伝わってきます。
正攻法の競馬で王道を進むポグロムと「奇跡の末脚」を持つライバル馬との対決への盛り上がりも、ありがちではありますが、競馬ファンとしてはワクワクしますし。

でも、でも……終盤からラストにかけては、「競馬ロマン小説」としては、物足りないというか、尻切れトンボになってしまったというか……
せっかくここまで重厚なストーリーを描いてきたのにねえ。
もっとも、その「拍子抜けしたところ」が、妙に印象に残ってしまう小説でもあるのですけど。

結局、大風呂敷を広げられるだけ広げてしまった挙句、作者が回収しきれなくなって、強引な「終わり」にしてしまったように思えます。
けっこう細かい設定がいろいろあったのに、活かされていなかったしなあ。

単行本だと2000円もすることもあって、ちょっとオススメしがたいのですが、競馬ファン+押井守ファンは、将来文庫になったら読んでみてもらいたい作品です。

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