琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

2010年度「ひとり本屋大賞」発表!


本屋大賞(公式サイト)

 いよいよ今夜、「本屋大賞」発表ですね。
 僕が「本屋大賞」のノミネート作を独断と偏見でランク付けするというこの企画。今年もなんとか間に合いました。
 というわけで、とりいそぎ、id:fujiponによる「2010年度ひとり本屋大賞」の発表です。こいつセンスないなあ、と苦笑されるなり、実際の結果とのギャップを比較するなりしてお楽しみいただければ幸いです。

 昨年の「2009年ひとり本屋大賞」はこちら。



第10位 植物図鑑(感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20100213#p1

植物図鑑

植物図鑑

甘い、甘い、とにかく甘い!!
女子向きの小説だとは聞いていたのですが、なんというか、生クリームたっぷりのケーキに蜂蜜とジャムを塗りたくり、砂糖をかけてシロップを垂らしたような、ひたすら甘い恋愛小説!
おまけに、身近な自然や植物の再発見と「誰かがつくってくれるおいしいご飯」というスローライフ満載のテーマに、正直僕は辟易してしまいました。こういうの苦手なんだよなあ。
やたらと植物に詳しくて料理上手で優しくて、オクテに見せかけていざとなったら強引……
そんな男、いねえよ!!

ファンも多そうな作品ですが、僕にはちょっと甘ったるすぎて読むのが苦痛でした。


第9位 神様のカルテ(感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20100227#p1

神様のカルテ

神様のカルテ

モ、モリミー!!(森見登見彦さんの愛称) 
今年の「本屋大賞」には珍しくノミネートされていないと思ったら、別ペンネームで書いた『神様のカルテ』が入っていたのか……
(本当は夏川さんは森見さんとは別人です。念のため)

文体、世界観があまりに似ていて、「これは『アリ』なのか?」と驚きましたよ僕は。
いやまあ、森見さんの本を読んだことがない、という読者(もちろん、日本中では、そういう人のほうが「多数派」なのでしょう)にとっては、「新鮮」な作風なのかもしれないけど、これを「全国の書店員が選んだ」のか……

でも、こういう「短めで泣ける話」って、本屋大賞ではけっこう上位に来ることが多いんですよね。大賞はないだろうけど。


第8位 神去なあなあ日常 (感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20100419#p1

神去なあなあ日常

神去なあなあ日常

 読んでいて、とくに中盤までは、なんとなく盛り上がりに欠けるような気がしますし(「林業」と自然のなかで生活する人々の日常を描くのが目的の作品だと思うので、いたしかたないのでしょうが)、後半のストーリー展開もとくに意外性があったり、ドキドキさせられるようなものではないのですが、安心して読めて、読み終えて心が少し温まる佳作です。

三浦しをんさんは、本当に「きちんと仕事をしている」作家さんだと思います。まだ若いのになあ。



第7位 新参者 (感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20091012#p1

新参者

新参者

良質な「連作」にみられる、「最後に謎が解けたときにすべてがつながるような快感」は、この作品にはほとんどないです。

でもまあ、「人間ドラマ」としてはそれなりによくできていると思うし、これまでの「ミステリ」では、「物語を論理的にするために」ある意味無視され続けていた「人情」というファクターをここまで前面に押し出しながら、違和感のない、読後感が爽やかな作品にしているのは、やっぱり東野さんの腕だと感心してしまいます。

僕の趣味からすると、「もっと唖然とするようなトリックが見たいなあ」という気分には、なってしまうんですけどね。

ある意味「斬新なミステリ」ではあると思うのですが、僕はなんかこうスッキリしなかったんですよねこれ。


第6位 天地明察 (感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20100406#p1

天地明察

天地明察

「改暦」の経済的な側面なんて、僕はいままで、考えたこともありませんでした。
生活の不便を改善するための事業として「暦」というのはつくられるものだと思っていたのですが、この『天地明察』を読むと、「改暦」が「経済的な効果をもたらす大事業」であったということがよくわかります。だからこそ、幕府もこれを援助し、すすめようとしたのか……

「いま、あるいはこれから何かを成そうとしている人」には、勇気を与えてくれる作品として、オススメできると思います。
「面白くて読後感が爽やかな、説教くさくない歴史小説」です。

これが6番目なんだから、今年の「本屋大賞」は、けっこうレベルが高かったんじゃないかな。
ここから上は、僕もオススメです。


第5位 ヘヴン(感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20100224#p1

ヘヴン

ヘヴン

この小説に登場してくる、やたらと饒舌で自分の言葉を持っている中学生というのは、けっして「現実的」なものではありません。
「こんなヤツ、いないだろ……」と感じる人も多いだろうし、僕だってそう思う。
でもね、川上さんがこの小説で描きたかったのは、単なる「苛めの現実」ではなくて、もっと大きくて、禍々しいものなのではないかなあ。

「他人を傷つけること」=「悪いこと」だと感じる機能が欠落してしまった人間に対して、「正義」とか「優しさ」というのは、通用するのだろうか?
「やりたいことをやって、何が悪い?」と心の底から思っている人間に攻撃されたとき、「力による防衛あるいは報復」以外に、自分を守るための良い方法はあるのだろうか?

「罪の意識すらない加害者」には、「道徳」って、本当に無力なのだと思う。

心がヒリヒリするような「痛み」を味あわせてくれる作品。唯一の難点は、読んでいるとひたすら気持ちが沈んでいくことですね……


第4位 船に乗れ!(感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20100418#p1

船に乗れ!〈1〉合奏と協奏

船に乗れ!〈1〉合奏と協奏

船に乗れ!(2) 独奏

船に乗れ!(2) 独奏

船に乗れ! (3)

船に乗れ! (3)

この『船に乗れ!』には、高校時代のことが書いてあるけれど、この作品の「苦味」も含めて味わえるようになるには、年輪が必要なのではないかと思います。
哲学の話も、最初のほうは「脱線せずにさっさと先に話を進めろよ!」とか言いたくなるのですが、最後まで読むと、その「お説教」が存在する意味がよくわかります。

ほんと「青臭い小説」なんだけど、僕はこの作品、好きです。
純粋に「面白さ」だけで言えば、今回の『本屋大賞』ノミネート作品のなかでも、一番かもしれません。

「年齢・性別・読書歴を問わない」という点では、この本がいちばん「読みやすくて面白い」ような気がします。
 

第3位 横道世之介(感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20100313#p1

横道世之介

横道世之介

偉人や有名人じゃなくても、人というのは、どこかで誰かとつながっていて、何かを与え(あるいは奪い)あっている。
僕たちにも、それぞれの「横道世之介」は存在していて、あるいは、僕たちも誰かにとっての「世之介」なのかもしれません。

読むと、「いままでの自分の人生ですれ違った人たちのことを、振り返ってみたくなる本」です。
僕と同じくらいの年齢、40歳前後の人には、とくにおすすめ。


第2位 1Q84(感想(ネタバレが含まれていますのでご注意ください):http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20090607#p1

1Q84 BOOK 1

1Q84 BOOK 1

1Q84 BOOK 2

1Q84 BOOK 2

僕は、『1Q84』を読みながら、この村上さんの言葉を何度も思い出しました。

「ぼくらは間違った世界の中で生きている。でも、その間違った世界で生きていかざるを得ない」

1Q84』で描かれている世界が、いびつで不快なのは、考えてみれば、当然のことなのかもしれません。
村上さんは、「間違った世界」を描いているのだから。
そして、その「間違った世界」は、僕たちが生きている世界とよく似ています。

正直、Book3を未読なので、この作品全体への感想というのは、いまの時点では書きようがないし、「続きものは最終巻が出た年が対象」という「本屋大賞」のノミネート基準から外れてしまっているような気もするのですが、やはり素晴らしい作品ではあるし、「小説を読む喜びを多くの人に再確認させてくれた」という意味で、「特別賞」でもあげてくれないかな、とは思います。
とりあえずいまは、早く『Book3』を読みたい。



第1位 猫を抱いて象と泳ぐ(感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20090402#p1

猫を抱いて象と泳ぐ

猫を抱いて象と泳ぐ

まあ、名人というのは、ある種の「正規分布から外れた人」なのですから、そこにわれわれからみた「常識人」の枠組みをあてはめることそのものが間違いなのかもしれません。

ところが、この『猫を抱いて象と泳ぐ』の主人公は、そういう「自分が奇人であることにすら気づかないレベルの超越者」ではなく、むしろ、「社会で推奨されている『役に立つこと』に人生の意義を見いだせない引きこもり」であるようにすら思われます。彼はチェスに魅せられたけれど、それは、ある種の「現実逃避」のようにも感じられるのです。
ただ、僕は彼のそういう「弱さ」が、読んでいてとても愛しくてしょうがなかった。
だって、そこにいたのは、現実や学校や勉強が嫌で、本とゲームの世界にだけしか生きがいを感じられなかった、あの頃の僕そのものだったから。
リトル・アリョーヒンほどの才能も集中力もなかった僕は、こうして世界の「普通」の端っこになんとかすがりついて生きているけれど、僕はこういう人生を望んでいたのだろうか?といまでもときどき思うのです。
正直、ここで小川さんが語られている、リトル・アリョーヒンの人生は、起こった事実だけを年表みたいに並べてみれば、本当に「せつなくて、いたたまれなくて、周りの大きな力にもてあそばれてばかり」のものでしかありません。
にもかかわらず、彼の人生は、すごく静謐で、優しくて、美しい。
小川洋子さんは、読者からすると「登場人物をそんな目にあわせるなんて」というような話を、とても温かい目線で見つめていながらも、「でも、人生はそういうものだから」と冷静に書き切ってしまう「残酷な作家」だと思います。
外見も話しぶりがものすごく穏やかな印象があるだけに、「人の心のなかに秘められたもの」について、考えさせられることが多い人なんですよね。

小川さんはすでに『本屋大賞』を受賞されていますし、この物語は題材的にも「万人受け」しづらいとは思いますが、僕はこの作品がとにかく好きなのです。
ぜひ、多くの人に読んでいただきたいなあ。


【2010年度「ひとり本屋大賞」の総括】
今年は「なんでこれが?」と思ったり、「作家人気だけでノミネートされたんじゃない?」と言いたくなるような作品がほとんどなく、非常に楽しめるラインナップでした。
とくに、1位〜6位の作品は、どれも素晴らしくて、甲乙つけがたかった!

しかし、『本屋大賞』そのものは、ひとつの転換期にさしかかっているというのは、今回の『1Q84』のノミネートが象徴しています。
村上春樹ファンとしては、あんなに「小説再興」に貢献した作品が、すべての文学賞から「黙殺」されていることに対して(諦めながらも)疑問ではあるのですが、だからといって、「本屋大賞」をこの作品が受賞するべきなのかどうか?
『東京タワー』のときも話題になった「『本屋大賞』とは、本読みのプロたちが、世に知られていない作家を『発掘』するための賞」ではなかったのか?

これらの疑問に対して、審査員たちは、どんな結果を出したのか、僕も今夜の結果発表を楽しみに待ちたいと思います。

ちなみに、作品の好みを別にした、僕の順位予想。

1位:1Q84
2位:新参者
3位:天地明察

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