琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

激流 ☆☆☆


激流〈上〉 (徳間文庫)

激流〈上〉 (徳間文庫)

激流〈下〉 (徳間文庫)

激流〈下〉 (徳間文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
京都。修学旅行でグループ行動をしていた七人の中学三年生。知恩院に向かうバスで、その中の一人の女生徒・小野寺冬葉が忽然と消息を絶った―。二十年後。三十五歳となった六人に、突然、失踪した冬葉からメールが送られてくる。「わたしを憶えていますか?」運命に導かれて再会した同級生たちに、次々と不可解な事件が襲いかかる…。

行きつけの書店で、「傑作! 900ページ一気読み間違いなし!」というPOPで紹介されていたのと、「その女子中学生はどうなったのだろう?」ということが気になったため上下巻を購入。
たしかに、文庫で900ページ近くある本を平日に3日間で読み終えたので、つまらない小説ではないと思うのですよ。
でも、率直に言うと、読み終えた僕の心に残ったのは、「あー長かったな、ようやく読み終えた……」という疲労感だけでした。
そもそもこれ、900ページも必要な内容なのかな……

読んでいる途中は、すごく面白いとは思わなかったけど、投げ出したいほどつまらなくはなかったんですよ。
やっぱり、「なぜ、どんなふうにして、修学旅行中に女子中学生は消えたのか?」気になったし、登場する30代半ばの人々の行き詰まり感に共感できるところもあったし。
ただ、「作者は変わった人たちを描いているつもりなんだろうけど、みんな平板な善人」みたいにしか感じられず、「キャラクターの性格が書き分けられないから、人気作家とか編集者とか超美人とか、わかりやすく記号化せざるをえなかったのかな」とも考えてしまったんですよね。

この『激流』って、ミステリとしては、非常に中途半端な印象を受けました。
僕がミステリに求めているのは「意外な犯人やトリックに驚かされること」あるいは、「プロセスをたどっていくことによって、パズルのピースが埋まっていって、最終的に納得させられること」、あるいは「物語の面白さ」です。
しかしながら、この『激流』って、作者が思いついた「修学旅行で消息を絶った女生徒から、20年後に当時の同級生たちにメールが送られてきた」という「魅力的な設定」を、「そういう理由なら、こんな不思議なことが起こっても納得!」と、読者に思わせるか、ということばかりを追求した結果、「まあ、それなりに起こりそうな話ではあるけど、かなり御都合主義的で、意外性も驚きも感動もない、つまらない謎解き」で、しかも、「読者は置き去りにされていて、作中で次から次へと『新事実』が浮かび上がってくるため、推理する余地もない」という作品になってしまっています。
読者には参加する余地もなければ、驚かされるほど意外な結末でもない、そして、「感動」しているのは小説内の登場人物だけで、僕は「ああ、なんでいまさら『友達』って思えるのかな……」と引いてしまいました。
作者は、「犯人はアメリカが極秘に開発した生物兵器だった!」みたいな「トンデモミステリ」は許せない真面目な人で、だからこそ、こういう「実際に起こっても、そんなにおかしくないプロセス」を考えたのでしょう。
その志は立派なものだと、僕も思う。
それでも、こういう設定なら、もっと驚ける結末を期待していたし、ミステリっていうのは、「筋が通っている」「合理的である」だけでは、面白くならないものだなあ、と痛感させられました。

ものすごくつまらないわけじゃないんだけど、この長さと『激流』ってタイトルほどの力がある作品とは言い難い。

アクセスカウンター