琥珀色の戯言

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わしらは怪しい雑魚釣り隊―サバダバ サバダバ篇― ☆☆☆


わしらは怪しい雑魚釣り隊―サバダバサバダバ篇 (新潮文庫)

わしらは怪しい雑魚釣り隊―サバダバサバダバ篇 (新潮文庫)

「やっぱりわしらはバカだと思う」。椎名隊長自らつぶやく、あの「雑魚釣り隊」が帰ってきた! 大モノ釣りのメッカ、八丈島で最少釣果(赤ちゃんアジ一匹)を記録、したたかなカワハギには餌だけ取られ……。しかし、相模湾でカツオの大量大回遊に遭遇、ついに一世一代の大勝負を迎えたのだ! 日本一めげない男たちが繰り広げる抱腹絶倒の釣り紀行。『続 怪しい雑魚釣り隊』改題。

20歳くらいのころ、椎名さんや群ようこさんなど『本の雑誌』ファミリーの作品ばかり読んでいた時期がありました。
椎名さんの小説や旅行記も面白かったし、なんといっても、「椎名誠」という男は、ものすごくカッコよかったんですよね。
冒険心が旺盛で、仲間たちに愛され、逆境にもくじけず、いつも大きくて明るくて海と酒が似合う「男の中の男」シーナマコト。それでいて、たぐいまれなる読書家。
真似できるような人じゃないんですが、ずっと「憧れの男」ではあったわけです。

この「怪しい雑魚釣り隊」シリーズは、実質的には「怪しい探検隊」シリーズの続編になると思うのですが、椎名さんと仲間が集合し、釣り(あまり釣れないことが多い)、宴会という流れを、仲間たちのさまざまなエピソードを散りばめながら描いていくスタイルは、ずっと普遍です。
ただ、以前に比べると、よりいっそう「社会問題への言及」などは少なくなり、「仲間うちでの楽しい時間の描写」が増えてきた気はします。
これは、掲載されていたのが『つり丸』という釣りの専門誌であることが理由かもしれませんけど。

「読んでも毎回同じような話で、あまり自分を高めるのには役に立たないよなあ」という理由で、ここ10年くらい、僕は椎名さんのエッセイをあまり手に取らなくなっていました。
でも、最近になってまた、読みたくなってきたんですよね。

あらためて、椎名さんと仲間たちの「大人のはしゃぎっぷり」を読んでみて、ものすごく懐かしい感じがしたのと同時に、僕はこんなことも考えずにはいられませんでした。
「あたりまえのことなんだけど、椎名誠も、年を取るんだよなあ……」

この本のなかで、キャンプの夜に椎名さんが若い仲間たちと相撲をとっていて、古株の仲間から、「あんたももう63歳なんだから……」とたしなめられる場面があります。
椎名さんが「見知らぬ人にまだ日雇いの肉体労働ができると思われた」ことを誇る記述も。

椎名さんは、すごい! やっぱり、「いい男」だなあ!
そう思うのと同時に、そんなふうに「年齢を意識するときがあるんだな」と思うと、やっぱりせつない。
椎名さんはいま65歳。いくつまで今みたいなアウトドア生活を続けていけるのだろう?
いや、むしろ、いまの年齢でまだ「現役」でいることが、すでに「未練」ではないだろうか?
これが「仕事」じゃなかったら、みんな椎名さんについて来るかなあ……

こんなことを考えたのも、この本を読む直前に、↓のエントリを読んだからだったのかもしれません。
参考リンク:『孤独の原因』(続・鹿田内りな子さんの日記(2010/5/18))

私も毎回誘われるのだが、年に何度か集っては温泉に一泊したり、忘年会したりする、仲良しグループがある。そこでは、定番の遊び方があって、まずは、メンバー個人のお祝い事について必ずサプライズを用意するのだ。サプライズの内容は、大概は、メッセージDVDを作るか、寄せ書きをするか。内緒で、他のメンバーでメッセージを録画し合ったり、当事者の家族や関係者にこっそりコメントもらいに行ったり。そして、当日の宴会では、多くの場合、小道具やコスプレがあり、寸劇やゲームがある。

ということを、大人になってから知り合った男女混合の10人ぐらいで延々とやっているのだ。

僕も、こういうのは「なんか気持ち悪いなあ」と思います。
その一方で、こういうのを気持ち悪いとか、おとなげないと感じるのは、僕自身の内向的で、めんどくさがりな性格に起因するのではないか、と不安にもなるのです。

極インドア派の僕でも、椎名さんたちの「雑魚釣り隊」には憧れるのに、この「仲良しグループ」には、「身近にいたら、かかわりたくないなあ」と感じてしまう。
それはいったいなぜなのだろう?
本や雑誌に載ったり、有名人が一緒であればいいの?

この本のなかで最も印象的だったのは、ドレイ(キャンプなどで力仕事や雑用をこなす若手)・竹田総一郎さんが「あとがき」で書かれていたこんな話でした。

 いつだったか、雑誌の何かのインタビューで嫌いな人間のタイプについて質問したことがあった。
「理屈っぽいやつ。焚火ばかりしてそこから何を得るんですか? シーナさんにとってキャンプとはどんな位置づけなんですか?そういうくだらない質問ばっかする。オレ、そーゆーの嫌い。そんなことオレが考えてるわけねーだろ。早口でしつこく聞かれたら、きっと殴っちゃうなあ」
 野蛮なのだ。蛮勇なのだ。勇猛なのだ。猛悪なのだ。悪食なのだ。その繰り返しなのに食傷ぎみにならないのは、きっと座右の銘「真剣に遊ぶ」を誠実に愚直に実践し続けているからだろう。
「シーナさん、ビールぐいぐい飲みましょうよ」
「そうだなあ。よし飲もうぜ、今すぐ飲もうぜ」
「シーナさん、どかっーと遊び行きましょうよ」
「おおし、どこだ? いつだ? 明日、行こう」
 何を言っても(単純なことに限るが)打てば響く。見栄や噓は必要ない。まだまだシーナさんの全容を掌握することはできないけれど、今のところ僕が確信を持って言えることはこれくらいだ。

僕が参考リンクで書かれている「仲良しグループ」は「本当にそれをやりたいからやっている」のではなくて、「いいオトナなのに、そういう『子供のような遊び心』を忘れていない私たち」に陶酔したいだけのように思えます。
彼らに「若者のように仲間とつるんで遊ぶことから、何を得るんですか?」と訊ねたら、きっと、「ちゃんとした答え」が返ってくるんじゃないかなあ。

「少年の心を持っている人」は、「俺は少年の心を持っているんだ」と女性を口説いたりはしません。
椎名さんの「遊び」は、「本当にやりたいことを一生懸命にやっている」だけのような気がするんですよ。
たぶん、椎名さんは、キャンプで酔っ払って寝てしまい、そのまま死んでもしょうがない、と思っているはず。
でも、大人にとって、「他者の目を意識せずに、本当にやりたいことをやる」っていうのは、すごく難しい。

ああ、こんなふうにあれこれ考えてしまうのって、僕もやっぱり、椎名さんの嫌いなタイプの人間なんだろうなあ……

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