琥珀色の戯言

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カールじいさんの空飛ぶ家 ☆☆☆☆


カールじいさんの空飛ぶ家 [DVD]

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<ストーリー>
カール・フレドリクセンは78歳のおじいさん。風船売りの仕事も引退し、亡き妻エリーとの思い出が詰まった家で、一人きりで暮らしていた。
ある日、カールはトラブルを起こし、老人ホームに強制収容されることに。その時、彼はエリーとの「いつか南米を冒険しよう」という約束を果たすため、人生最初で最後の冒険の旅に出ることを決意する。そして、大切な我が家に無数の風船をつけて、家ごと旅立った。目指すは南米の秘境、伝説の場所、パラダイスの滝!
苦々しいこれまでの生活からようやく離れられ、久しぶりに穏やかな表情を取り戻したカールだったが、空を飛んでいる家の外からドアをノックする音が。空けてみるとそこには「お年寄りお手伝いバッジ」を手に入れて自然探検隊員のランクアップを目指す少年ラッセルがいた。やっかいなことになった、と思いながらも、カールはパラダイスの滝を目指す。思いもよらぬ運命が待ち続けているとも知らずに・・・。>

話題になった冒頭の10分余りの登場人物のセリフ無しの回想シーンは素晴らしかったのですが、僕はこの映画のいろんな評判を聞いたり読んだりしていて、ちょっと冷めた目で観てもいたのです。
「人間、年をとっても、いろんな可能性があるんだから、チャレンジしなきゃ!」
そういう「前向き」なメッセージが込められた映画だと思っていたんですよね。
この映画の前半部について僕が感じたのは、「ああ、こんなことにならないように、『やりたいこと』は、先延ばしにしないでやっておくべきだな」ということでした。
日常に埋もれて、大事なものを失ってから後悔した、カールじいさんみたいにならないように。
あとは、この映画、柳田理科雄先生がネタにしそうだな、「風船何個で家が浮かびますか?」って。きっと、あのくらいの数じゃダメだろうなあ。

でも、この映画の後半のエリーからのメッセージを観て、僕は不覚にも涙が止まらなくなりました。
これは、「老人の無謀な冒険を全肯定する物語」じゃなかったんだな、って。
カールとエリーは、「冒険好き」がきっかけで結ばれたけれど、その人生は、いくつかの不運を除けば、「平凡」そのものでした。
たぶん、そのことを、カールじいさんも後悔していたのだと思う。
エリーの夢をかなえてあげられなかった、と。
しかしながら、エリーは、そんなカールに語りかけるのです。
秘境を旅したり、危険なことに立ち向かうことだけが「冒険」じゃなくて、見知らぬ2人が出会って「平凡な結婚生活」を続けていくのもまた、ひとつの「冒険」であることを。

空を飛ぶ家も、不思議な鳥も、ちょっとかわいそうな悪役(僕はこの人の苦労を考えると、彼の目的のものをあげてもいいんじゃないか、とも少しだけ思うんですよ)といった、「わかりやすい冒険」がピクサーの美しいアニメーションで繰り広げられていくのを観ながら、僕は、カールとエリーの「日常の重さ」を考えずにはいられませんでした。
そういうのが「年を重ねる」ということなのかもしれないけれど、いわゆる「アラフォー」の年齢で、この作品を観ることができて、本当によかったと思います。
僕には、まだ「冒険」のための時間が残されているはずだから。

描かれているのは、荒唐無稽な「非日常」の世界なのに、観終えたあと、自分の「日常」を大事にしたくなる、そんな素晴らしい作品です。

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