琥珀色の戯言

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かのこちゃんとマドレーヌ夫人 ☆☆☆


かのこちゃんとマドレーヌ夫人 (ちくまプリマー新書)

かのこちゃんとマドレーヌ夫人 (ちくまプリマー新書)

内容(「BOOK」データベースより)
かのこちゃんは小学一年生の元気な女の子。マドレーヌ夫人は外国語を話す優雅な猫。その毎日は、思いがけない出来事の連続で、不思議や驚きに充ち満ちている。

この作品、書店で最初に見かけたときには、「万城目さんの新作がいきなり新書で?」と驚きました。
直木賞候補作にもなり、なかなか評判も良かったのですが、僕はどうも冒頭の「猫たちのおしゃべり」の場面から、なんとなくとっつきにくくて、けっこう長い間積んでいたんですよね。
直木賞発表前夜に「もしかして、この作品が受賞するのでは……」と一念発起して読み始めたら、けっこうすらすらと読めてしまったのですけど。

この作品を読んでいてあらためて思い知らされるのは、万城目さんが「子どものときの自分の感情や見ていた光景を、ものすごく克明に記憶していること」でした。
自分が小学一年生だったときのことって、あらためて思い出そうとしても、いつのまにか、「あの頃は子どもだったよなあ」というような、「大人の解釈」から逃れられなくなってしまうのです。
ところが、この『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』を読むと、「ああ、たしかに僕も小学校低学年のときは、こんな感じだった!」って、当時の自分に戻ったような気分になれる。
「ホルモー」や「鹿がしゃべる」といった「飛び道具」が使われていないだけに(って言っても、猫がしゃべるといえばしゃべるんですが)、万城目さんの文章のうまさ、観察力の鋭さが際立っている印象です。

 未だスモークボールの煙がたゆたうなか、二人は屈んで線香花火に火を点した。忙しく火花が散ったあとにやってくる、筆で短く引いたような線が、芯から雨のように降り注ぐ終盤が、かのこちゃんは特に好きだった。そのことをすずちゃんに告げると、
「わたしはいちばん最後に溶岩みたいな赤い玉が、じっと震えているところが好き」
 とすぐさま自身のこだわりを返してきた。

この件なんて、読んでいるだけで、夏の夜に線香花火をしたときの光景が、鮮やかに浮かんできませんか?

ただ、「飛び道具」が使われていないため、万城目さんが描く「物語」としてはそんなに面白くないというか、刺激に乏しく感じたのも事実です。
なんかこう、「お約束のイイ話」にまとまってしまったような。

240ページと読みやすい長さで、自分が小学生だったころのことを思い出さずにはいられない佳作です。
個人的には、この小説の最後の一文は必要だったのだろうか? と考えさせられました。

悪くない作品だけど、長い目でみれば、万城目さんは、この「らしくない作品」で直木賞を獲らなくてよかったんじゃないかな、と僕は思います。

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