琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

拝金 ☆☆☆☆


拝金

拝金

内容(「BOOK」データベースより)
「藤田優作、君はどのくらいの金持ちになりたい?」「そうだな、金で買えないものはない、そう言えるくらいかな」「わかった。それでいこう」年収200万円のフリーター・優作はなぞのオッサン・堀井健史と握手を交わした。そこから彼の運命は大きく変わる。携帯ゲーム事業を成功させ、さらにあらゆる金融技術を駆使。瞬く間に会社は売上500億円の大手IT企業に変貌する。人はそれを「ヒルズの奇跡」と呼び、優作は一躍時代の寵児に。快進撃はさらに続くかに思われた―オッサンの無謀なミッションが下るまでは。金とは、勝者とは、絆とは?感動の青春経済小説。表紙カバーイラスト・佐藤秀峰

ホリエモンが書いた「小説」って、いかにも「実録」っぽい感じの内容で、文章とかグダグダなんだろうなあ……「地雷」っぽいなあ……
そんなことを考えながらも、「球団買収事件」や「フジテレビ乗っ取り」の舞台裏が描かれているというのも気になり、買って読んでみました。

読んでみると、けっこう面白いですよ、これ。
この小説のいちばん優れたところは、主人公の藤田社長(って、あのアメブロの人と同じ名字なのは、なにか理由があるのか?とか考えてしまうのですけど)が、高級ワインと混ぜて飲んだり、芸能人やモデルの女の子をとっかえひっかえして「遊ぶ」場面と、そこに生息する人々の姿が「そのまま」描かれている点です。
こういう小説って、「ああいう贅沢は虚しかった」とか、「心の隙間を埋めるために、あんなことをやっていた」なんていう「教訓」が加えられる場合が多いのだけれど、堀江さんは、そういう「バカバカしいくらいの贅沢や女遊び」を「やりたいからやっていた」とばかりに淡々と描き、読者に「お前らも『突き抜けて』みろよ!」と呼びかけます。
いや、すごいやこの人は。
たぶん、堀江さんの中には、「そんなふうに踊っている自分を冷静に見つめる、もうひとりの自分」というやつが、ずっといたのでしょうね。

僕はいわゆる「女の子がいる店」ってやつが苦手で、どうしても断りきれない状況で付き合わされて、「ねえ、なんか面白い話してよ〜」なんて20歳くらいの女の子に話しかけられると、「なんで客のオレが、お前にお面白い話をしてやらなきゃいかんのじゃ! あーかったるい、家で本読みたい……」と悲しくなるのです。
でも、こういう店が大好きな先輩や同僚は「客」であるにもかかわらず、嬉々として女の子を笑わせたり、楽しそうに口説いたりしています。

なんというか、「世の中には、バイタリティが枯れることなく溢れてきて、それを『処理』しないと生きていけない人」っていうのが、いるんですよね。
この小説に出てくる「拝金主義者」たちには、僕が理解できなかった、「クラブで楽しそうに女の子にサービスしていた先輩たち」の姿が重なってきます。

まあ、僕としては、「ああ、僕とは違う価値観で生きている人が世の中にはいるんだなあ」ということを実感させられる小説でしたし、そういう自分には関係ない世界の「ファンタジー」だと思って読むと、けっこう楽しい。

そして、この小説には、「ホリエモンが体験してきた、お金の世界で生きるための知恵」が、散りばめられています。

「金持ちになるっていうのは、キャッシュをどれだけ動かせるか。そして、キャッシュを動かすには、会社を経営するのが一番ってことだ」
「キャッシュっていうなら、株投資だっていいじゃないか。起業して成功するより、一発ドカンと株で当てるほうが確実だよ」
「キャッチボールを覚えた子供がメジャーリーガーと試合して勝てる、と思うか? 株の世界は、年10億稼ぐような世界中のプロが、何十億、何百億という資金をつぎ込んでしのぎを削っている。そこに素人のお前が入って、どうなるものでもない。最近、主婦が株投資で5億円儲けたとかなんとか騒がれているから、勘違いしている人もいるが、百戦錬磨の投資のプロと同じ土俵に立とうとするなんてバカげた発想だよ」
 とはいっても、フリーターの俺が会社を興して成功する、というのもかなり非現実的だ。
「商売やっても俺がうまくいくとは全然思えない。この200万、ドブに捨てることになるよ」
 オッサンは涼しい顔だ。
「ビジネスにビビりすぎだ。いいか、誰だってやり方さえ間違わなければ、年商1000万円の会社くらい簡単に作れるんだ。少なくとも会社勤めの給料分くらいの利益は出せる。でなければ、世の中にこんなに会社があるはずないじゃないか」
 納得できない。俺は目を伏せた。

 この文章の後半部分の「会社は簡単に作れる」という部分はかなり疑問(実際にこの小説のなかで主人公がつくった会社も、そんなにうまくいくようには思えなかったし)なのですが、前半の「素人が株をやったって、どうなるものでもない」という言葉の説得力!
 結果的には、ライブドアが、「素人投資家」たちに夢を見せた挙句に地獄に突き落としたことを考えると、まさに、僕たちは「踊らされていた」わけです。
 いやほんと、草野球の選手がいきなりメジャーリーグで通用するわけないのは、みんなわかっているはずなのに、株の世界では、そういうことが簡単に起こりうると思いこんでいる人が、なんと多いことか!
(……って、僕もリーマン・ショックで損したりしているんですけどね。やっぱり、「自分は大丈夫」って思っちゃうんだよなあ)

 業績が順調に伸びはじめてからというもの、しつこくオッサンに言われ続けたのは「収益は、すぐ投資に回せ」ということだった。
「いいか優作、株価というのは値札みたいなもんさ。株式市場は、会社を売っているスーパーマーケットと何ら変わらない」
 で、例のごとく問答がはじまる。
「バーゲンセールの商品(会社)を買って、次に高く売るにはどうするんだ? 優作」
 俺は答える。
「そうだな。高級デパートの包装紙に入れ替えて売ればいいんじゃない」
 オッサンは弟子の成長に目を細める。
「じゃあ、その包装紙は?」
 俺はうなずく、俺自身だ。
「買収した企業のブランドイメージを上げたところで転売すればいい。そのためには、俺にもっといい経営者になれってことだろ?」
 オッサンは唇の端を持ち上げる。
「いい経営者になるなんてことは必要ない。ただ、有名な、誰もが知っている会社の社長になればいいんだ。人はな、いい物を買うんじゃない。自分が知っているものを買いたがる。もっと言えば、買って、人に自慢できるものを欲しがる。いい物が売れるんじゃなく、有名なものが売れるんだ」
 オッサンは一拍置いて、真顔になる。
「ヒーローにでもなるか、仮面ライダーみたいに」
 俺は思わず、むせてしまった。

堀江さんは、自分の半生を後悔していないし、現在も、トリックスターとして生きることを自らに課し続けています。
僕は思うんですよ。
堀江さんって、すごく頭が良くて、「身も蓋も無い人」だけれども、その一方で、ものすごく純粋で、自分を曲げられない人なんじゃないかと。
堀江さんが単に「金持ち」でいたかったら、こんな小説を書いて小銭を稼ぐより(小説の印税なんて、「ビジネス」で動く金額に比べれば、微々たるものです)、黙って今まで貯めたお金を投資するなり、積み重ねたノウハウを活かして稼ぐなりしたほうが、はるかに効率的なはずだし、堀江さん自身も、そんなことは百も承知のはず。
口をつぐんでいれば、世間は忘れてしまうだろうし、裁判だって、「はいはい。すみませんでした」と頭を下げてみせれば、「実質的には無罪と変わらない」執行猶予の判決を得られやすいはず。

それでも、「言わずにいられない」「書かずにいられない」ホリエモンというのは、「拝金主義者」というより、「表現者」なのでしょうね。
なんのかんの言っても、「ホリエモンのおかげで、わかるようになった世の中のしくみ」って、けっこうたくさんありますし。
結局、本物の冷徹な「拝金主義者」にならなかったことが堀江さんの成功の理由であり、「拝金主義者」になれなかったことが失敗の理由だったのかもしれません。

荒削りな本だし、すばらしく文学的な表現がちりばめられているわけでもないのですが、だからこそ、この小説に描かれている「生々しさ」に僕は惹かれます。
書店に所狭しと並んでいる、説教臭い「ビジネス書」の大部分よりも、この『拝金』のほうが、はるかに「生きていくための役に立つ本」だと思います。

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