琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

去年はいい年になるだろう ☆☆☆☆


去年はいい年になるだろう

去年はいい年になるだろう

内容紹介
米国同時多発テロも、あの大地震も、犠牲者はゼロ!?
2001年9月11日、24世紀から「ガーディアン」と名乗るアンドロイドたちがやってきた。
圧倒的な技術力を備えた彼らは、世界中の軍事基地を瞬く間に制圧し、歴史を変えていく。
しかし彼らの目的は、人類の征服ではなく、「人を不幸から守ること」だった――。
ガーディアンのもたらした情報によって、本来の歴史で起こった自然災害、テロ、戦争、大事故などが防げるようになった一方、
未来の自分からのメッセージに翻弄され、人生が大きく変わってしまう人も多くいた……。
主人公は、45歳のSF作家。10歳年下の妻と5歳の娘とともに幸せに暮らしていたが、
事件翌日、美少女アンドロイド「カイラ211」の訪問を受け、AQ(知り合い)に選ばれたことを知る。
未来の自分からのメッセージと作品データを、カイラから受け取る主人公。それは、彼の人生に大きな波紋を起こしていく。
衝撃と感動の歴史改変小説。

内容(「BOOK」データベースより)
24世紀からやってきた“彼ら”の目的は、「人を不幸から守ること」だった…。米国同時多発テロも、あの大地震も、犠牲者はゼロ。

『アイの物語』(大傑作!)の山本弘さんの長編。
あの「同時多発テロ」が起こらなかった(というか、ガーディアンたちが「起こさせなかった」)世界と、「絶対的な『善意の』力に護られ、運命を握られてしまった人間」の姿が精緻に描かれている作品です。
↑の「内容紹介」を読むだけでも、「これって、どういうふうに物語として収拾するのだろう?まさか普通にハッピー・エンドというわけにはいかないだろうし……」と続きが気になりますよね。
ガーディアンたちは、突然、「正体をあらわす」のか?なんて。

それにしても、この作品を読んでいると、「歴史において、本当に起こったこと」というのは、ある種のフィクションよりもさらに「冗談みたい」だなあ、と考えさせられます。

この小説のなかで、「未来からきた」という唐沢俊一さんへのメッセージ。

「最初は『来年から雑学ブームが来て、テレビに出演する機会が多くなって忙しくなる』って書いてあったから喜んだんだけど、その後がデタラメなんだよね。『岡田斗司夫が50キロの減量に成功して、ダイエット本を出してベストセラーになる」とか」
「ははは、そりゃありえない!」
「あと、なんだっけ? そうそう、『2007年の仮面ライダーはタイムトラベルもので、電車に乗って移動する』とか」
「電車!? バイクじゃなく!?」
「『デザインのモチーフが桃太郎で、顔面にでっかい桃がついてる』とか」
「ははは、ないないない!」「それは絶対ない!」「いくらなんでも顔に桃はない!」僕らは大笑いした。
 他にも未来の唐沢さんは、「浦沢直樹があの絵で『鉄腕アトム』をリメイクする」とか「『マッハGOGOGO』がハリウッドで実写映画化される。監督は『マトリックス』のウォシャウスキー兄弟」とか「三池崇史監督で『ヤッターマン』映画化」とか、いいかげんなことをいっぱい書いてきたらしい。僕らは笑い転げた。
「いいなあ、未来の唐沢さん。面白い嘘つくなあ」

全体的に、山本弘さんのことを全然知らない人にとっては、「身内ネタが多すぎる」と感じられるのではないかと思うのですが、僕はすごく楽しめました。
マイコンゲーム創生紀から見てきた僕にとっては、安田均さんや「グループSNE」に関するエピソードも、すごく興味深かったですし。

ただ、あの『アイの物語』を書いた山本さんの作品として考えると、この『昨日はいい年になるだろう』は、設定の壮大さ、面白さに比べて、後半からラストへの展開が、「当たり前すぎる」ようにも感じました。
『アイの物語』を読んだときのような「世界認識がひっくり返るような衝撃」が、この小説にはないんですよね。
前半で大風呂敷を広げすぎて収拾がつかなくなり、最後は無難にまとめなければならなくなったのではないかと邪推してしまうくらい。

それとも、『アイの物語』で、あまりに「われわれには理解できない『理性』を持った存在」を美しく書きすぎたため、この作品では、その反動が出ているのかな。
あるいは、「そんなに甘いもんじゃないですよ」という山本さんからのメッセージなのか。

「歴史を変えてくれと誰が頼んだ?」

いちばん痛感したのは、「歴史というのは、変えられないから良いのだろうな」ということでした。
だからこそ、人は努力もするし、「とりかえしのつかないこと」を避けようとする。
もし、僕や大切な人が「不運な事故」で命を落とすようなことがあれば、「こんな歴史は許せないし、変えられるものなら変えたい」と思うだろうけど……

僕は正直、この作品の「ガーディアン」や『銀河鉄道999』の「機械の体」が、本当に「人類全体にとってマイナス」なのか、よくわからないんですよ。
というか、「人類全体にとってプラス」でも「自分にとっては大きなマイナス」であった場合、人は、「人類」を優先するものなのだろうか?

主人公と妻、娘の関係は、なんだかとても身につまされました。
人はお互いに一生懸命やっているつもりでも、ちょっとしたすれ違いから、うまくいかなくなってしまう。

本の雑誌』でもかなりの高評価でしたし、僕も楽しく読むことができました。
ただ、山本弘さんの作品にまったく触れたことが無い人には、内輪ネタが多めなので、ちょっととっつきにくいかもしれません。
タイムトラベルものって、どうしても、「そのタイミングでそんなことをやるより、もっと良い方法があるんじゃないか?」って思う場面が多くなりますしね。

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