琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

希望難民ご一行様 ☆☆☆☆


希望難民ご一行様 ピースボートと「承認の共同体」幻想 (光文社新書)

希望難民ご一行様 ピースボートと「承認の共同体」幻想 (光文社新書)

内容(「BOOK」データベースより)
最近、「コミュニティ」や「居場所」は、若者や生きづらさを抱えた人を救う万能薬のように語られることが多い。しかし、それは本当なのか。本書は、「世界平和」や「夢」をかかげたクルーズ船・ピースボートに乗り込んだ東大の院生による、社会学的調査・分析の報告である。なんらかの夢や希望をもって乗り込んだはずの船内で、繰り広げられる驚きの光景。それは、日本社会のある部分を誇張した縮図であった。希望がないようでいて、実は「夢をあきらめさせてくれない」社会で、最後には「若者に夢をあきらめさせろ!」とまで言うようになった著者は、何を見、何を感じたのか。若者の「貧しさ」と「寂しさ」への処方箋としてもちあげられる「承認の共同体」の可能性と限界を探っていく。


◎ 本 文 より
「怒る老人、泣く若者......。」
ピースボートをただの観光クルーズ船だと思ったら大間違いだ。
僕が乗り合わせたクルーズはエンジンが壊れたり、
船体に穴が空きアメリカ湾岸警備隊に拿捕されたり、
それに怒った年配者たちが集会を開いたり、
それを見て若者たちが泣いたり、本当に色々なことがあった。
それをただ記述して最近流行の「ルポ」にしても、
それなりに面白い内容になったと思う。
しかし、それだけでは勿体ないと思った。
それは、ピースボートが日本社会のある部分を濃縮したような
空間だと感じたからだ。
ピースボートを通して見えてくるもの。
それは、今を生きる若者の問題、不安定雇用の問題、
組織の問題、旅の問題、自分探しの問題と様々だ。
僕は特に「コミュニティ」と「あきらめ」というキーワードと共に
ピースボートを考えてみたいと思った。(「はじめに」より)

ピースボート」を知っていますか?
街中や若者向けの飲食店などで、「世界一周、99万円」というようなキャッチコピーと船の写真が載ったポスターを目にしたことがある人は、けっこう多いのではないでしょうか。
僕もあのポスターを見かけるたびに、なんとなく気にはなっていて、「99万円とは安いなあ、でも、これって何かの宗教とか政治団体の勧誘込みなんじゃないの、となると船の上で勧誘とかされたら、もう逃げようがないだろうなあ。そもそも、こんなポスターが貼っているということは、この店の人も、仲間……?」とか、いろいろ考えてしまうんですよね。
「ピース(≒平和)」という言葉に最初に感じてしまうのが「怪しさ」だというのは、淋しい話ではあるんですけどね。

この新書によると、「ピースボート」は1983年に、当時早稲田大学の学生だった、辻元清美さんらによって設立されたそうです。
おお、あの辻元さんか……ということは、ピースボートに乗ると、社民党的な思想にオルグされてしまうのか……という感じですよね。
まあ、いまはその辻元さんも離党するのしないのという話になってしまっているようですが。

2008年に実際にピースボートに自ら乗船したという著者によると、ピースボートのなかでは、「9条ダンス」や「お郷ことばで憲法9条」なんていう「いかにも」なイベントも数多く行われているそうです。

「9条ダンス」とは、憲法9条(平和主義についての条文)の理念をヒップホップのリズムにのせて表現したダンスだ。62回クルーズの前から準備され、クルーズには9条ダンスを教えるダンサーがスタッフとして乗船していた。練習はほぼ毎晩のように行われ、一番多いときでは100人ほどが9条ダンスに参加していた。この9条ダンスは機会があるごとに披露され、船内でのイベント時はもちろん、パレスチナ難民キャンプなど各寄港地でも披露され、ダンスと同時に憲法9条を守るための署名も呼びかけていた。

ちなみに、乗客は900人以上で、このようなイベントは強制参加ではありません。
100人というのは、多いのか少ないのか。
実際に船に乗っていると、身体を動かす機会が少ないので、イデオロギーとは無関係に参加する人も少なくないし、これがきっかけて政治的な運動にかかわっていく人がいる一方で、「割り切って」参加して、船を下りれば興味なし、という人のほうが多数派のようです。
少なくとも、乗船者の多くは、「政治活動が目的」ではありませんし、そういうことに興味がある人ばかりじゃない。

ピースボートには、「安価に世界一周の船旅ができる」という理由で乗船している人もけっこういるそうなのです。
著者によると、日本から乗船できる他の世界一周クルーズ船は、最低でも300万円台からだそうですし。

そして、ピースボートに乗っている人たちの多くは、船をおりれば「日常」に戻っていきます。
それでも、彼らの一部は日常に戻ったあとも、ときどき、「同じピースボートに乗っていた仲間」たちで集まり、パーティなどを開いているのだとか。
ほとんどは、「政治色」抜きで。
「日常から離れ、広い世界を観て、自分を見つめなおすためのピースボート」が、結果的には「いまのままで日常生活で付き合っていく、ゆるくつながるための仲間づくり」のツールとなっているのは、なんだか皮肉な話です。

 エリ(24歳、女性)はピースボートに乗ったことを周囲には隠すようにしているという。「観光。それ以外は何も期待してなかった」と乗船理由を語る彼女は、ピースボートの経験をあくまでも観光体験として受容していて、ピースボートの理念や価値観に対しても否定的だ。


ピースボートで変わったことは何もなかった。(ピースボートには)もう絶対に乗らないと思う。みんな無駄に熱い。気持ちがね。ひいてた。夢が経営者になりたいとか、海辺でバーを開きたいとか、何を熱く語ってるのみたいな。だけどそういう人ほど結局ニートをしとるけん、早く行動しろよって(思う)」

 地方で看護師をしているリカコ(26歳、女性)は、「変わることを期待して乗ったけど、やっぱり何も変わらなかった」と帰国後5ヶ月目のインタビューで答える。「大きなイベントに参加したら自分も変われると思ったの。世界をまわって、日本から離れたら。確かに色々な価値観に触れられたことはいいと思うけど、でも何も変わらなかった」
「変わらなかった」と語る彼女は「変わりたい」と願うモラトリアムの日々に、ピースボートを通じて終止符を打つことができた。帰国間際には「日本に帰ったらこの船のことは、夢だったみたいに、何もかもなくなりそう」と言っていたが、事実乗船前と変わらずに彼女は看護師として忙しい日々を送っている。

結局のところ、「ピースボートに乗っても、何も変わらない(よっぽどの真っ直ぐ人間じゃないと「洗脳」すらされない)」というのが現実なのです。
いやまあ、『カイジ』のエスポワール号みたいなのでは困りますが……


最後に、あちこちの飲食店に「ピースボート」のポスターが貼ってある理由について。

 ボラスタ(ボランティアスタッフ)にはポスター貼りと内勤の二種類がある。ポスター貼りは街でポスターを3枚貼るごとに、乗船賃1000円分が割り引かれる仕組みになっている。内勤は時給800円換算で、ピースボートセンターでポスターにテープを貼る、葉書を付けるなどの仕事をする。ポスターを30枚貼れば1万円、300枚で10万円の割引だ。
 そう、乗船賃を99万円と考えた場合、単純計算でポスターを3000枚貼ればピースボートに乗れてしまうのである。ポスター貼りのみだけで、乗船運賃を稼いでしまうことを「全クリ」というが、62回クルーズでも筆者が確認している限り3人存在した(全て男性)。

別にあのポスターが貼ってある店は辻元さんのまわし者というわけではなくて、学生たちが知っている店などに頼みこんで貼ってもらっているだけみたいです。
店側としても、よく来てくれる学生さんに頼まれれば、イヤとも言い難いでしょうし、お金を徴収されるわけでもないですし。


「学生サークルの雰囲気」についていけて、世界一周のためなら多少「旅の快適さ」に乏しくても耐えられる人には、ピースボートもひとつの「選択肢」にしかすぎないのかもしれません。
僕はこの「熱さ」に耐えられそうもないので、乗る気にはなれませんでしたけど。

アクセスカウンター