琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ ☆☆☆☆☆


だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ

だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ

内容(「BOOK」データベースより
東京では出会えない個性派書店を求めて、人口2200人の山村から奄美大島、はてはタイ・バンコクにまで足をのばす。台湾の知られざるビジュアル・ブックの美しさに息を呑み、「今やらなければ間に合わない」と語る出版社主のことばに深くうなづく。「スキャナーのように」表面を完璧に写しとる写真家・篠山紀信や、「希有なジャーナリスト」でもあったデザイナー・堀内誠一ら、その時々に出会った人たちの仕事に心打たれる。気になる本と本屋を追いかけた、15年間170冊の書志貫徹。

世の中には、いろんな「本」や「書店」や「本に関わっている人」がいるんだな、と感心しながら読了。
僕はたぶん日本人の平均以上には本を読んでいるし、出版されている本についても知っているはず、と思っていました。
そして、自費出版やマイナーな出版社の「本」には、割高で著者のひとりよがりな内容のものが多く、「地雷」なので、積極的に手にとることはありませんでした。
でも、そういう「誰も買わない本」にも、こんな魅力的なものがたくさんあるということを、この都築さん渾身の書評集で思い知らされたのです。
とくに、「写真集」に対する都築さんのこだわりと選んでいる本には驚かされました。
僕は写真集を積極的に見ることはなくて、それこそ、「話題のアイドル写真集」を書店でチラッと眺めるくらいが関の山だったのですが、世の中には、こんなに手間暇かけて、一枚の「写真」を世界に遺している人がいるんですねえ。
小説やドキュメンタリーであれば、まだ『ダ・ヴィンチ』や『本の雑誌』や年末に各紙で発表される「今年のベストテン」で紹介される機会があるけれど、「写真集」というのは、積極的に探そうとしなければ、まず「そういう本の存在そのものを、知る機会がない」のが現実です。
いま挙げた「書評」や「ランキング」のなかでも、『ダ・ヴィンチ』や「今年のベストテン」では「もともと売れそうな、大手出版社が推している本のなかからの紹介」が大部分ではありますし。


国道1号線の手向け花

国道1号線の手向け花

内容(「MARC」データベースより)
国道1号線に、いったい幾つの手向け花が置かれているのか。そして、それらの手向け花を通してどのような事実が見えてくるのか。それを自分の五感で確かめたいと思った著者。この写真集は、旅の過程で目にした、全「手向け花」の記録である。

地球家族―世界30か国のふつうの暮らし

地球家族―世界30か国のふつうの暮らし

内容紹介
「申し訳ありませんが、家の中のものを全部、家の前に出して写真を撮らせて下さい」
戦禍のサラエボからモノがあふれる日本まで、世界の平均的家族の持ち物と暮らしを写真で紹介します。

さまざまな問題をかかえながら、地球上には55億を超す人々が暮らしています。その暮らしぶりを地球規模で明らかにしょうというのが、この『地球家族世界30か国のふつうの暮らし』です。世界の統計的に平均的な家族がどんな物に囲まれ、どんな暮らしをしているかの報告です。この報告からは国ごとの部質的な事実と同時に家族の幸せ感など精神的な側面も読み取ることができます。物の溢れる日本に住むわたしたちが、地球の現実を知り、豊かさとは、家族とは、と改めて考えてみるための恰好のツールといえます。
ユニークな特徴として、家の中のもの(持ち物)を“すべて”家の前に出してもらい家族といっしょに撮った写真があります。さらにカメラマンは1週間、家族と生活を共にして暮らしの様子を取材しています。本書は2部構成になっていて、前半は写真を中心にして家族の持ち物と暮らしを紹介し、後半は各国の統計データ・家族のプロフィール(住居・労働時間、大切なもの・欲しいもの・家計など、家族にヒアリングした共通のアンケートをもとに構成)、カメラマンの所感で構成されています。


内容(「BOOK」データベースより)
世界の平均的家族の持ち物と暮らしレポート。高級車を4台もつクウェート。1頭のロバしかもたず毎日40分かけて水をくみに行くアルバニア。自家用飛行機2台と4頭の馬をもち今日を楽しむアイスランド。2週間も食べられなくてもすべて神様が決めることというインド、生きていることが成功の印というグアテマラは驚くほど物が少ない。テレビも飛行機も見たことがなくても仏に守られているかのように静かに暮らすブータン。物質文明の先端で信仰生活になぐさめを得ているアメリカ。環境や人口といった地球がかかえる問題を考えると子供の未来が不安だというドイツ。物が溢れる日本。

アインシュタインをトランクに乗せて (ヴィレッジブックス)

アインシュタインをトランクに乗せて (ヴィレッジブックス)

出版社/著者からの内容紹介
冗談だろう? トランクにアインシュタインの脳だって…
1955年4月18日、アルバート・アインシュタインが息を引き取った時、遺体の解剖を担当したプリンストン大学のトマス・ハーヴェイ博士は、あろうことかアインシュタインの脳みそをそっくり取り出して行方をくらました。
それから十数年後、僕はその風変わりな老博士の噂を耳にする。脳味噌をタッパーウエアに入れたまま持ち歩いているとか、石油王が買い取ってクローンをつくろうとしているとか。そんな話を聞いて、僕は変人ハーヴェイと天才の脳に会いたくなった。 アインシュタインの脳と白髪のイカれた老博士と僕が織りなす、心にしみる感動のノンフィクション。

↑「ノンフィクション」ですよこれ!



こんな本が次から次へと紹介されていると、「ああ、いままで僕が読んでいた本の世界は、狭かったんだなあ」と考え込まずにはいられません。

そして、都築さんは、基本的に、「売れなくても、自分で表現したい、本を出したい!」という人に寄り添っているのです。

財布の中身―inside of your secret life (ちくま文庫)

財布の中身―inside of your secret life (ちくま文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
いくら入ってる?何が入ってる?現金が入ってない財布、お守りがごそごそ出てくる財布、ポイントカードに化粧道具…持ち主の生活臭さがふんぷんと匂う財布たち。不況の嵐吹きすさぶ中、「あなたの財布の中身、見せてください!」という突撃取材に応えて、中身を見せてくれた、老若男女68人の赤裸々な生活実態。みんな貧乏で泣けてくる、赤面のオールカラー。

都築さんは、京都の大学で講演に招かれたとき、著者のこうざいきよさんにこの本を見せられたそうです。
講義が終わったあとの「学生たちが自分の作品を僕に見せる時間」に。

 大きなバッグから彼女が取り出した手作り本が、この『財布の中身』ともう一冊、新聞の折り込みチラシに描いたイラスト集だった。僕が見せてもらったのはプリントアウトを貼り合わせて、手縫いで綴じたオリジナルだったが、プリントアウトが印刷になって、サイズが文庫版に縮まったことを別にすれば、いま君が見ているものと、ほとんどかわるところがない。
『財布の中身』のおもしろさについて、説明する必要はないだろう。財布という、現代においてはもっともプライベートなものを白日のもとにさらす行為の楽しさは、やはりプライベートのかたまりみたいな狭い部屋の写真を撮っている僕にはよくわかる。見る側としては、「いい年してこんだけしか現金持ってないの!」とか、「これ、オレの財布の中身とそっくり!」とか、笑ったり納得したりしつつ読めたら、それでいいのだろう。
 でも僕には、もうひとつわかることがある。それはこうざいさんにとって、「すみませんがお財布の中身、見せてもらえませんか」と見ず知らずの人に道で声をかけるのが、どんなに大変だったかということだ。「身長145?手前」で「私自身がマイナスなものしか持っていないような気がする、コンプレックスのかたまり」である少女が、よりによって財布といういちばん他人に見せたくないものを写真に撮ると決めたとき、彼女は自分のアイデアに震え上がったことだろう。人生つねにポジティブで外向的という人には死ぬまでわからないだろうが、写真撮らせてくださいという最初のひと声が、彼女にとっては人生を揺るがすようなジャンプだったにちがいない。数をこなせば慣れるだろうと言う人もいるだろうが、そんなんじゃない、一回一回、一枚一枚が、彼女にとっては心臓がぎゅっと縮むような思いであっただろうことが、僕にはよくわかる。
 だから僕にはこの本が、すごく痛々しく見えてしまう。単純におもしろがればいいだけの本でありながら、これは内向的であることにしか自分が寄りかかる場所を見つけられないできた少女が、恥ずかしさに声もでないような体験を積み重ねながら積み上げた、スリリングな冒険の記録なのだ。
 建物だけはやたらに立派な美術館で、月給もボーナスももらいながら「アートの危機」を訴える学芸員や、大学にアトリエも道具も、教授という肩書まで用意してもらいながら制作に「苦悩」するアーティストが、世の中にはたくさんいる。そのいっぽうで、好きな人に声をかけることもできず、やりたいことをやりたいと言うことすらできないままに、ただカメラを抱えてあてもなく歩きまわったり、冷たい舗道にしゃがみこんでギターのネックを握りしめたりする、それだけが救いとなって生きのびている子供たちがたくさんいる。

都築さんの書評は、朝日新聞日曜日の読書面に6年近く連載されていたそうです。
それが、ある書評でのひとつの形容詞をめぐる朝日新聞側との見解の相違によって、連載を終えざるをえなくなってしまいました。

 朝日新聞の読書面ともなれば、すごい数の読者がいるわけだし、小出版社の良質な本を紹介してあげられたら、いい宣伝になるだろうし、それがまた新しい、いい本を出す原動力になるだろう。そう思って、なるべく小さな出版社の、世に知られにくい本を紹介してきたつもりだった。
 よく誤解されるが、書評に選ぶ本は新聞社が送ってくるのではなくて、全部こちらが本屋さんを回って見つけ、自費で買って、資料も自分で集めて原稿を書くのである。たった数百字の原稿を。だからたいへんだけど、楽しくもある。

あの朝日新聞で、「マイナーな本」を紹介することの意義はとても大きかったと思うし、それを考えると、「誰も買わない本の著者」のために、都築さんには妥協してほしかったという気もするのです。
都築さんに紹介してもらったおかげで、「救われた」本や著者もたくさんいただろうから。
その一方で、やっぱり、それはできない、やってはいけないことだっただったろうな、とも思う。

すごく刺激的な書評集ですので、「最近おんなじような本ばっかり読んでいる、あるいは、読まされているような気がする」本好きの皆様におすすめしておきます。
(……って、本好きの人たちは、みんなもう既読かも)

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