琥珀色の戯言

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イノセント・ゲリラの祝祭 ☆☆☆


イノセント・ゲリラの祝祭 (上) (宝島社文庫 C か 1-7)

イノセント・ゲリラの祝祭 (上) (宝島社文庫 C か 1-7)

イノセント・ゲリラの祝祭 (下) (宝島社文庫 C か 1-8)

イノセント・ゲリラの祝祭 (下) (宝島社文庫 C か 1-8)

内容紹介
『このミス』大賞を受賞した『チーム・バチスタの栄光』が、300万部を記録。
瞬く間にシリーズ累計780万部を突破し、人気シリーズとなった田口・白鳥コンビ最新作の文庫版が登場!
『このミステリーがすごい! 2008年版』に掲載された短編「東京都二十三区内外殺人事件」をプラスした全面改稿版。

医療行政の本丸・厚生労働省で行なわれた会議に、不定愁訴外来担当の田口を招聘した厚労省の変人役人・白鳥。迷コンビ、田口・白鳥が霞ヶ関に乗り込み大暴れ!?
現代医療のさまざまな問題点を鋭く描きだすエンターテインメント。

単行本のときには、なんとなく手を出しかねていたのですが(当時の評判があまり芳しくなかったこともあり)、今回ようやく文庫で読了。
田口・白鳥コンビが登場するのですが、この作品では、ふたりの存在感はかなり希薄で、まさに「狂言回し」的な存在です。
むしろ、官僚組織や法医学・病理学学会のお偉方を揶揄することが主眼となっているみたい。
期待の女性キャラも、「何のために出てきたんだこの人……」という印象でした。
全体的としては、ポイントとなる登場人物が多すぎて、それぞれ中途半端な描きかたになってしまった感じ。

海堂尊さんの「オートプシー・イメージング(Autopsy imaging、Ai)」普及への願いは、読んでいて伝わってくるし、それはたしかに「正論」だと僕も思います。
解剖に必要なマンパワーを考えると、「解剖できない場合だけでも、Ai導入を」というのは現実的な提案だし、地域医療の現場では、Aiが行われる機会は確実に増えています。
今後、解剖が劇的に増えるとは、考えにくいですしね。
(ちなみに、不景気で「献体」は増えているそうです。ありがたい話であり、その一方で、せつない話でもあり)

しかしながら、この作品を読みながら感じたのは、「正論」を振りかざす人というのは、なかなか受け入れがたいものだな、ということでもあったんですよね。
僕は海堂先生の作品のなかで、『ジェネラル・ルージュの凱旋』が一番好きで、二番が『チーム・バチスタ』なのですが、『ジェネラル・ルージュ』の速水先生って、実際にやっているのは倫理的に正しいことばかりではないし、周囲の人にもけっこう厳しくあたっているんですよね。
でも、いまの厳しすぎる情勢のなか、ボロボロになりながら「救急医療」にあたっている人たちの姿は、同業者でありながら、僕もけっこうウルウルしてしまいました。
というか、「同業者」って言っちゃいかんよな。

たぶん、海堂先生の作品を読む、多くの「非医療関係者」に伝わるのは、彦根先生の「正しい演説」ではなくて、「正しいことばっかりじゃないけど、ボロボロになりながら働いている救命救急のスタッフの姿」のはずです。
「正しいこと」だけでは、人の心は動かない。
海堂先生は、そんなことは知悉している人のはずなのに、この『イノセント・ゲリラの祝祭』では、なぜか、「正しい大演説」をやってしまっています。
まあ、どうしてもこれを「ミステリ」で粉飾せずに言いたかったのかもしれないけど……

個人的には、「海堂先生の著作オールクリア」を目指すのでなければ、スル―して良い作品ではないかと。
(医療関係者としては、「もっとも一般の人たちに読んで、理解してもらいたい作品」でもあるのですが)

 歴史を紐解けば、古来多くの国家が興り、滅びている。しかし医療は国境を越え、時代を超え進化し続ける。栄枯盛衰を繰り返す国家体制などと、同列に論じられるものではありません。

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