琥珀色の戯言

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カイジ 人生逆転ゲーム(再掲) ☆☆☆


カイジ 人生逆転ゲーム 通常版 [DVD]

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映画「カイジ 人生逆転ゲーム」公式サイト(注:音が出ます!)

あらすじ: 自堕落な日々を送る26歳のフリーター伊藤カイジ藤原竜也)は、友人の借金の保証人になったために多額の負債を抱えてしまう。そんな彼に金融会社社長の遠藤(天海祐希)は、一夜にして大金を手にできる船に乗ることを勧める。その船で奇想天外なゲームをするはめになったカイジは、人生を逆転するための命懸けの戦いに挑む。(シネマトゥデイ

11月3日の祝日の10時50分からの回で鑑賞。地元の映画館が1000円キャンペーンを行っていたこともあり、チケット売り場は大賑わいでしたが、この作品の観客は40人くらいでした。まあ、公開からけっこう日が経ってもいますしね。

僕は原作漫画『カイジ』は「限定ジャンケン」の回を漫画喫茶で読んだことがる程度なので、原作に比べてどうか、というのはよくわかりません。まあ、カイジ藤原竜也なら、ギャンブル船になんか乗らなくても、稼ぐ方法はたくさんあるんじゃないか?と非イケメンの僕などは思ってしまうし、「限定ジャンケン」の話も、原作ではもっと緻密な駆け引きが繰り広げられていた記憶があります。あれだけで2時間終わっちゃうわけにはいかないだろうから、娯楽映画としては、致し方ないのでしょうけど。

つまんないかというと、藤原竜也香川照之ら主要キャストの好演もあり、2時間飽きずに楽しめる映画ではありました。ドキドキするシーンもけっこうありますし。
「ざわざわ」をあんなふうに使っていたのは意外。
それこそ、「こいつらバカだなあ」と「セーフティー」の快楽を貪るには、ちょうどいい作品なのかも。

ただ、僕はこの『カイジ』という映画、心の奥底からは愉しめなかったんですよ。
だってこれ、まさに「貧困ビジネス」の映画だよね……
この作品では、カイジの「敵」は利根川とはじめとする社会の「勝ち組」のように見せかけているけれど、実際は、カイジは「勝ち組の皆様」にとっては、「ゲームの駒」にしか過ぎません。限定ジャンケンで☆をいくつ集めようが、ブレイブロードを渡り切ろうが、カイジは、「利根川たちの掌の上で踊って、搾取されながら、『負け組』内でお互いに傷つけ、奪い合ってあっているだけ」あるいは、「勝ち組のルールに従って、富のおこぼれを頂戴しているだけ」なんですよ。
カイジたちは命を張っているけれど、それで手にできるのは、相手にとっては「懐が痛まない金額」の1000万とか5億とか。どうみても、対等な「勝負」じゃない。
「所詮見世物である『剣闘士』のなかで、ナンバーワンになる」というのは、本当に「人生の逆転」なのか?
「負け組」どうして競わせて、「あいつよりマシ」と軽い優越感に浸らせながら搾取するというのは、まさに現代社会そのもの。カイジは、体制の破壊者じゃなくて、あくまでもその枠組のなかでの「負け組のなかではマシな人間」でしかありません。
カイジは、勝ってなんかいない。いや、この闘いかたをしている限り、勝負の前からすでに負けている。

カイジよ、ブレイブロードに行って「自由」を勝ち取ろうとするくらいなら、仲間を集めて、地下で暴動起こせよ!
そのほうが、どうみても「正解」じゃないのか?

ああ、なんかちょっとマルクスを読み直してみたい気分だ……

こういうところがものすごく気になるのは僕くらいで、ほとんどの観客は、藤原竜也が旨そうにビールを飲むところとか、夜神月とL(松山ケンイチ)の久々の共演とかを愉しんで観ていたのだと思います。
ワーキングプアたちよ、立ち上がれ!」みたいな映画なんて、誰も観たくないだろうしねえ……

この映画のなかで、いちばん僕の心に残った利根川の言葉。

質問すれば答えが返ってくるのが当たり前か…?
バカがっ!
とんでもない誤解だっ!
世間というものは、とどのつまり……
肝心なことは何一つ答えたりしない…………!

この言葉、ものすごく身につまされます。
僕自身も、「質問すれば、相手には答える義務がある」と誤解していた人間だから。
子供の頃とか若い頃って、「相手が答えられないような質問をして、自分を大きく見せたい」っていうこと、ありますよね。
でも、子供であれば、相手は「参った、参った」って譲ってくれる(そして、質問した側は、自分が勝ったような気分になれる)けど、大人になると、そうはいかない。
実は、今の世の中というのは、表面上はどんどん「幼児退行」していて、「自分は常に質問する側で、相手には『説明責任』がある」と考えている大人がたくさんいます。ネット上でもそう。
そのくせ、自分が「質問される側」になると、まともに答える準備も覚悟もない。

いや、「質問してみること」は、けっして悪いことじゃないですよ。でもね、「自分で何も考えずに、相手にばかり責任を押し付けるような『質問』は、誰も相手にしてくれない」のは事実です。
企業や政治家が「説明責任」を果たそうとするのは、それが彼らの評判ひいては利益にかかわってくるからやっているだけのことで、普通の大人は、どうでもいい相手からの質問になんてまともに答えようとはしません。
どうでもいい人間に、「肝心なこと」なんて教えない。
カイジ』の魅力は、敵があまりにも「正直」なところなのかな、とも思います。

ああ、また脱線してしまった……
この言葉を聞いて、↓の話をついつい思い出してしまったので。

参考リンク:「どうして人を殺してはいけないのですか?」という問いかけへの「もっとも有効な答え」(活字中毒R。)

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