琥珀色の戯言

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行きずりの街 ☆☆☆


行きずりの街 (新潮文庫)

行きずりの街 (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
女生徒との恋愛がスキャンダルとなり、都内の名門校を追放された元教師。退職後、郷里で塾講師をしていた彼は、失踪した教え子を捜しに、再び東京へ足を踏み入れた。そこで彼は失踪に自分を追放した学園が関係しているという、意外な事実を知った。十数年前の悪夢が蘇る。過去を清算すべき時が来たことを悟った男は、孤独な闘いに挑んでいった…。日本冒険小説協会大賞受賞作。

来週末に仲村トオルさんと小西真奈美さん主演で映画が公開されるということで話題の作品。
とりあえず流行りものなので読んでみたのですが、うーん、僕にはちょっとこれは厳しかった、というか、どこが面白いのかよくわかりませんでした。
ミステリには、「謎解き」や「ストーリー展開」を主にした「骨格重視」のものと、登場人物のキャラクターや社会問題を描くことに重きを置いた「肉付け重視」のもの、そしてそれを両立させているものがあると僕は思うのですが(もちろん、「全然ダメ」なものもあります)、この『行きずりの街』は、「肉付け重視」の作品でした。
開発が進む東京の風景や、当時の人々の心象を想像しながら読めば(って言っても、これが出たときには、僕ももう20歳過ぎてましたし、当時は「大学生カップルが、クリスマスにはバイトしたお金で高級ホテルにお泊まり」って時代)、「ああ、あの頃の若い女の子は、こんなふうな「夢」と「堕落」を抱えていたな」なんてことを思い出したりもするのです。
ただ、この2010年に読むと、「古いなあ、主人公の塾講師、カッコつけてるだけだよなあ」としか思えなくて。
だいたい、「女生徒との恋愛」というのは、そんなに珍しくもない話で、「生徒を妊娠させて捨てた」なんて話ならスキャンダルにもなるかもしれませんが、「学生の頃から、周囲には内緒で付き合っていて、卒業後にちゃんと結婚した」なんて話は、「もう、あの先生、しょうがないなあ」なんて御近所や卒業生に苦笑交じりで語られることはあっても、こんな大きな問題にならないんじゃないかなあ。1990年代前半、だとしても。
僕の周囲にも何組かそういうカップル(あるいは、そういうカップルを知人に持つ人)がいますが、それを道徳的に責める人は見たことがありません。
「お互いに『大人』になってみたら、『先生』もタダの男だということがわかって幻滅した」と離婚してしまう例も、何組かありましたが。

主人公の周囲には、なぜか「主人公にだけ秘密を語りたがる人」が集まってくるし、ちょうどいいタイミングで、協力者はあらわれるし、邪魔者は消える。
はいからさんが通る』かっ!と、ちょっとツッコミを入れてしまいました。

うーん、この作品、1992年度版の『このミステリーがすごい!』の第1位なのだそうですが、正直、なんでこれが1位になったのか、よくわかりません。
それは、僕が細かい描写をじっくり読み込む読書をするタイプではなく、サラッとストーリーを追うタイプだからなのかもしれませんが、「骨格」が面白くないと、あんまり好きにはなれないんだよなあ。

『このミス1位』のオビに期待しすぎてしまったのでしょうが、「20年前の空気感」を思い出したい人以外には、積極的にはオススメしがたい作品でした。

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