- 作者: 宮部みゆき
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/11/12
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出版社/著者からの内容紹介
「ぼくが君を守る。だから手を離さないで」
頭に角の生えた生贄の少年。鋼鉄の檻で眠る囚われの少女。2人が運命を変えることを、「霧の城」は許さない。構想3年。同名コンピュータゲームに触発されて、宮部みゆきがすべての情熱を注ぎ込んだ、渾身のエンタテインメント!
霧の城が呼んでいる。時は満ちた、生贄を捧げよと。
何十年かに1人生まれる、小さな角の生えた子。頭の角は、生贄であることの、まがうことなき「しるし」。13歳のある日、角は一夜にして伸び、水牛のように姿を現す。それこそが「生贄(ニエ)の刻(とき)」。なぜ霧の城は、角の生えた子を求めるのか。
あの宮部みゆきさんが、『ICO』というゲームを気に入って、自ら小説化を希望したということで、当時はちょっとした話題になりました。
実は、僕自身は『ICO』というゲームをやったことがなくて(日本では2001年の12月に発売されており、ちょうど僕がいちばんゲームから離れていた時期でもありました)、この小説も読んだことがなかったのですが、今回は文庫化とともに平積みされているのを書店でみかけて購入しました。
『ICO』公式サイトに掲載されている、ディレクター・上田文人さんとプロデューサー・海道賢仁さんへのインタビューより。
――そもそもあれってどういういきさつだったんですか!?
海道 ご存知の方も多いと思いますが、宮部さんって自他ともに認める大のゲーム好きなんですね。全ハードを所有されているという。それでたまたま「ICO」の体験版をプレイされたそうなんですけど、一目で気に入っていただけたそうで。
――ほー。
海道 それで「このゲームを小説化したい!」と思われたそうで、もともと決まりかけていた別のアイデアをキャンセルして、「ICO」をやりたいと週刊現代の編集部の方に直接かけあってくださったんですよ。それで僕らの元に話が来たときには、もうすっかり「ぜひ!」って感じで。
――光栄な話ですね…。で、打ち合わせとかはどんな感じでしたか?
海道 それがですね…、ほとんど打ち合わせってしてないんですよ。(笑) 最初に一回お会いして、ゲーム制作した時に使ったコンテやビデオをお渡しして、イメージとかコンセプトとかをお話したくらいで…。本当は細かい設定とかもあるんですけど、そのあたりはもう、自由にふくらませてくださいって、完全にお任せしました。
上田 小説のあとがきで宮部さんも書かれてるんですけど、一番気を使ったのが「それぞれのファンが持っている『ICO』を壊さないように」ってことなんだそうですね。なので途中からの展開はもちろん小説独自の内容ですけど、コンセプトなどはほぼゲームに沿ってくださってるんですよ。執筆中も「ICO」のサントラを聞いてゲーム画面を思い出しながら書かれたんだそうです。僕らとしてはもっと自由にやっていただいても全然よかったんですけど、苦労されたんだろうなーと思いますね。先日来社されたときも、しきりに心配されてましたね。
「原作」であるゲームを未体験で、その世界に思い入れのない僕にとっては、「まあ、それなりによくできたファンタジー小説。でも、長いけど斬新さには欠けていて、ちょっと時間がもったいないような気がする」というのが僕の率直な感想でした。
ただ、考えてみると、この『ICO』で宮部さんがやろうとしていたのは、「小説という枠組みのなかで、どうやって、ゲームのなかでの『霧の城』を読者にリアルに見せることができるか」という「言葉だけでゲーム画面の『霧の城』を読者の頭の中に構築しようという試み」だったようにも思われます。
この小説が、長さの割にストーリーが平板なように感じられるのは、「情景描写」がかなり精密に描かれており、そこに多くの文章が費やされているから、でもあるんですよね。
宮部さんが語りたかったのは、この「物語」ではなくて、「霧の城そのもの」だったのかもしれませんし、これは、ある意味「ゲームの表現力」に対する、作家の挑戦だったのではないかなあ。
結果的には、宮部さんが延々と描写しようとしているものを、ひと目でプレイヤーに伝えられる「ゲーム」というメディアの凄さを、あらためて思い知らされるところもありますけど。
それでも、この小説を読むと、やはり『ICO』をやってみたくなりますね。
あの宮部みゆきさんに、これだけの「仕事」をさせるだけのインパクトがあったゲームだと思うと。
たまには、「王道」の勧善懲悪ファンタジーを読んでみたい、という人には、ちょっとオススメしておきます。