琥珀色の戯言

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総員玉砕せよ! ☆☆☆☆☆


総員玉砕せよ! (講談社文庫)

総員玉砕せよ! (講談社文庫)

出版社/著者からの内容紹介
昭和20年3月3日、南太平洋・ニューブリテン島バイエンを死守する、日本軍将兵に残された道は何か。アメリカ軍の上陸を迎えて、500人の運命は玉砕しかないのか。聖ジョージ岬の悲劇を、自らの戦争体験に重ねて活写する。戦争の無意味さ、悲惨さを迫真のタッチで、生々しく訴える感動の長篇コミック。

水木しげるさんの戦争体験を漫画にした作品のなかでも、とくに評価が高いものだったので、僕はちょっと「覚悟」して読みました。
でも、僕は正直、「なんか、あんまり『感動』しないなあ」と思いながら、前半を読んでいたんですよね。
激しい戦闘シーンもないし、仲間の死は、ワニに食べられたり、魚をノドにつまらせたり、疫病だったり。
この作品では、本当に、あっけなく人が死んでいきます。

兵士たちも、日常的に考えているのは、食べ物のことや女のことばかり。
「お国のため」なんてことは全く意識していないようにすらみえるのです。

そんな「戦死すらできずに、死んでいく兵士たち」が、アメリカ軍の上陸にともなって、上官の美意識に引きずられるように「玉砕」を余儀なくされていきます。
この作品を読んでいて、僕が意外に感じたのは、最前線の兵士たち、とくに将官以外の一般の兵士たちは、ほとんどが「玉砕」なんて望んではいなかったし、「玉砕命令」に反駁していた、ということでした。
もちろん、水木さんが体験した戦場では、まだ「後方」に無傷の日本軍がたくさん残っていて、硫黄島のように「逃げ場がない戦場」ではなかったことも大きかったのではないかと思われますが、兵士たちが、人間くさく、「一度突撃して助かってしまったのに、もう一度玉砕なんてしたくない」と主張していたというのは、読んでいて本当につらかった。
そして、そんな「生き残り」たちに、司令部は、あらためて「死ぬこと」を命じます。
「玉砕したはずの人間が生き延びていては、他の将兵に示しがつかないから」という理由で。

この作品は「出てくる兵隊たちが、みんなあたりまえの欲望を持っていて、ダメなところがあって、往生際が悪くて、カッコ悪い」からこそ、「戦争とは、とくに、上官の命令に従うしかない一兵卒にとっての『戦争』とは何か」を描けているのではないかと思うのです。
「戦争」というのは、あまりに大きな悲劇でありすぎて、そこに居た人も、居なかった人も、みんな、戦争のことを「より悲劇的に、ドラマチックに」描こうとしてしまいます。
しかしながら、それが「ドラマ」になることによって、「戦争への漠然とした憧れ」みたいなものも、生まれてきてしまう。

水木さんは、「自分がみてきた、ありのままの戦場と兵隊たちの姿」を、このマンガで描いています。
ただ、それを描くことが許されるのは、たぶん、水木さんが実際にその戦場に居たから、なんですよね。
現実をタチの悪い悲喜劇として描くのは「当事者」にしかできないことなのでしょう。

水木さんが体験してきたことの「重さ」は、水木さんのこの言葉に集約されていると思います。

「私、戦後二十年くらいは他人に同情しなかったんですよ。戦争で死んだ人間が一番かわいそうだと思ってましたからね、ワハハ」

日本を「戦争ができる、普通の国」にしたがっている政治家は多いけれど、そんな「普通」に、意味があるのだろうか?
ひとりでも多くの「戦争を知ったつもりになっている日本人」に、読んでいただきたい作品です。

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