フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)
- 作者: デビッド・カークパトリック,小林弘人解説,滑川海彦,高橋信夫
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2011/01/13
- メディア: ペーパーバック
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内容紹介
■26歳の天才、マーク・ザッカーバーグの実像
フェイスブックの若き天才CEO(最高経営責任者)、マーク・ザッカーバーグ。彼が掲げる
「フェイスブックで世界をもっとオープンな場所にする!」という揺るぎないビジョ
ンと魅力に、ハーバード大の仲間やシリコンバレーの起業家、ベンチャーキャピタル、
大企業の経営者たちが次々と吸い寄せられる。プログラマーはザッカーバーグととも
に徹夜でサービスをつくり、ナップスター創業者のション・パーカーは入社し、マイ
クロソフトのスティーブ・バルマーCEOやヤフーはどうにかして買収しようと、躍起に
なる。提示される買収金額は8億ドル、10億ドル、20億ドル、150億ドル…と飛躍的
に増えたが、それでもザッカーバーグはフェイスブックを売らなかった。本書では、
26歳の天才CEOの成功と苦悩、そして野望を生き生きと描き出す。
■グーグルを脅かす巨大サービス「facebook」の威力
フェイスブックのユーザー数は5億人を超え、毎月5%と驚異的なスピードで成長している。
すでに世界中で、個人や企業、政治家のコミュニケーションツールとして、企業のプ
ロモーションツールとして、駆使されている。ユーザーはフェイスブックに夢中にな
り、平均で毎日1時間弱も利用している。世界各国の事例とともに、ソーシャルネッ
トワークの雄、ネットの巨人グーグルを脅かす存在と言われるフェイスブックの威力
を紹介する。
■ベテランジャーナリストの徹底取材による至極のノンフィクション
著者は、フォーチュン誌 のIT分野を専門とするベテラン記者だったが、本書執筆のためにフ
リーに転身。マスコミ嫌いであるマーク・ザッカーバーグから絶対的な信頼を得て、
独占取材から得たザッカーバーグ生の声を紹介する。ザッカーバーグやフェイスブッ
ク社員のほか、大学時代の友人やベンチャーキャピタリスト、有名経営者など広い範
囲にも綿密に取材して記した至極のノンフィクション。
映画『ソーシャル・ネットワーク』を観て、もう少し『フェイスブック』とマーク・ザッカーバーグについて知りたくなったので購入。
あの映画には、フィクションの部分が多いと聞いたので、どこまでが真実で、どこからが創作だったのだろうな、と思いながら読みました。
「参考文献」まで入れると、500ページを超え、各ページにはぎっしりと文章が詰まり、耳慣れない外国人の名前が並んでいるこの本を読み終えるのは、正直、けっこう大変でした。
でも、読んでいるうちに、この本は、単なる「マーク・ザッカーバーグの伝記」「フェイスブックという急速に発展した企業史」ではない、ということがわかってきたのです。
この本は、マーク・ザッカーバーグと彼の周囲の人々、そして、「フェイスブック」というサービスの歴史を追っていくことによって、「インターネットに人々は何を求めているのか、そして、インターネットは、人々をどこに連れていこうとしているのか」を描こうとしています。
この本の邦題は『フェイスブック 若き天才の野望』なのですが、原題は"The facebook Effect"です。
2004年に、ハーバード大学の学生専用のコミュニケーション・ツールとして生まれた『フェイスブック』は、なぜ、『フレンドスター』や『マイスペース』など、他のソーシャル・ネットワークに打ち勝つことができたのか?(「マイスペース」は、いまでもそれなりの勢力は保っているようですが)
映画『ソーシャル・ネットワーク』でも描かれていたのですが、マーク・ザッカーバーグは、フェイスブックがある程度大きくなっても、「広告はクールじゃない」と、『フェイスブック』のシンプルなデザインにこだわり、外部の投資家からの資金援助も極力避け、「金を稼ぐこと」よりも「使いやすいサービスであること」「ひとりでも多くの人が『フェイスブック』に登録してくれること』を優先しました。
現在フェイスブックは企業としてすでにグーグルを脅かすほどのインターネットの巨人になっている。シリコンバレーでは、今後5年以内にフェイスブックの売上がグーグルを抜くだろうという観測も出ている。株式を公開していないので、あくまで相対取引での評価だが、会社の時価総額は350億ドル(3兆円)とも500億ドル(4兆2000億円)とも言われている。ザッカーバーグ自身の個人資産も6000億円を下らない。ところがザッカーバーグは身辺をかまわないだけでなく、金儲けにも興味がないことが本書で克明に描写されている。フェイスブックが急成長を始めてからも広告営業にまったく関心を持たず周囲をやきもきさせている。まだ小さなスタートアップ企業だった時代に清涼飲料のスプライトのプロモーションで、「1日だけページの主要な色をブルーから緑に代えてくれたら100万ドル払う」と持ちかけられたが、まったく取り合わなかった、「ユーザー体験を損なうような広告は一切認めない」というのだ。
どんどんユーザー数が増えていき、設備投資により資金繰りが苦しかった時代でも、マーク・ザッカーバーグの「信念」は揺らぎませんでした。
社内では反対もあったようですが、この彼の「信念」こそが、『フェイスブック』を他のソーシャル・ネットワークと差別化したものだったのです。
もちろん、現在は『中国、インド、フェイスブック』(世界で「人口」が多い国の順番、なのだそうです)とまで言われる、5億人を超えるユーザーにサービスを提供するために、『フェイスブック』にも広告が入っています。
『フェイスブック』には、登録している人たちの「趣味」や「住んでいる場所」などの情報が詰まっていて、それを利用し、その人向けにカスタマイズされた「ターゲッティング広告」という手法が多く利用されているのです。画面を乱すようなバナー広告ではなくて、「エンゲージメント広告」という、企業からのメッセージ(「この商品について言及してくれたら無料でコーヒー1杯提供」というような)が多くを占めているそうです。
いまでも、マーク・ザッカーバーグは、『フェイスブック』のトップとして、「ユーザー体験を損なうような広告」を極力排除しようとしつづけているのです。
この本のなかで、いちばん印象的だったのは、マーク・ザッカーバーグの「インターネットと人間への信頼」、そして、「彼らがインターネットを通じて、人間と社会を変えようとしていること」でした。
「本当の自分にならない限りフェイスブックにはいられない」
フェイスブックの透明性急進派のメンバーたちは、ザッカーバーグを含め、可視性を高くすればするほど良い人間になれる、と信じていた。たとえば、フェイスブックのおかげで、最近の若者たちは彼氏や彼女をだますのが難しくなったという人もいる。さらには、透明性が高いほど寛容な社会が生まれ、誰もが時に悪いことや見苦しいこともする、ということをやがて受け入れるようになるとも言う。透明性が不可避であるという前提は、2006年9月にニュースフィードを開始した時にも真剣に検討された。透明性は人の行動をすべて同一に扱い、その結果個人のアイデンティティーのすべてを、どんな状況からでも同じ情報のストリームへと伸縮させる。
『フェイスブック』では、基本的に「実名登録」が求められており、「荒らし」が目的でないかぎり、「匿名」では、このサービスで受けられるメリットが少なくなってしまいます。
その一方で、実名登録で、自分の行動が「可視化」されてしまうというのは、大きなリスクも伴っています。
日本の「ネット社会」に親しんでいる僕は「実名のリスク」ばかり考えてしまいますし、mixiでも匿名(ハンドルネーム)登録をしているのですが、『フェイスブック』の世界的な隆盛をみていると、インターネットは「個人情報の可視化によって、人と人をより効率的に繋ぐこと」に向かっているように感じられます。
どんなに「顔出し」したくなくても、運転免許証に顔写真が必要であるように、『フェイスブック』に実名+写真入り登録することが当たり前の時代がやってくるのかもしれません。
「みんなが実名の世界」であれば、たしかに「悪いこと」はやりにくくはなるでしょう。
日本でも「実名での登録制インターネット」を提案した政治家がいましたが、彼は「なんて寝言いっているんだ?」と多くのネットユーザーから嘲笑されました。
でも、世界の潮流としては、「ユーザーが自発的に、実名インターネットのほうに向かっている」ように思われます。
僕個人としては、「仕事の愚痴もこぼせないネット社会」は、寂しくてしょうがないのだけれども。
『フェイスブック』でも「何を、どこまで公開するか?」という「プライバシー問題」は常に火種になっていて、「可視性を高くすればするほど良い人間になれる」「透明性が高いほど寛容な社会が生まれる」という「理想主義」が、今後も追究されていくかどうかはわかりません。
そんなにうまくいくものだろうか?と僕は思うし、「可視化」されていけばいくほど、「見えない部分」の闇は深くなっていくのでないか、とも感じます。
ただ、現在『フェイスブック』は、中国、ブラジル、そして日本を除く世界の主要な国々で、もっとも優勢なソーシャル・ネットワークとなっており、もしかしたら、「ネットでの閉鎖性」において、日本の「ガラパゴス化」は、携帯電話のハード以上に進行しているのかもしれません。
これから、インターネットは、そして、人間はどこへ向かっていくのか?
日本人は、『フェイスブック』を無視し続けられるのか?
かなり情報量が多くて、読むのが大変な本ではあります。
しかしながら、マーク・ザッカーバーグや『フェイスブック』のことを知りたい人だけでなく、「これからの世界」について興味がある人には、ぜひ読んでみていただきたい一冊です。