琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

あしたのジョー ☆☆☆


映画『あしたのジョー』公式サイト(注:音が出ます!)

あらすじ: 東京の下町で捨て鉢な生活を送る矢吹丈山下智久)は、元ボクサーの丹下段平香川照之)にボクサーとしてのセンスを見いだされるも、問題を起こして少年院へ入ることに。丈はそこでプロボクサーの力石(伊勢谷友介)と運命の出会いを果たし、やがて少年院を出た彼らは良きライバルとしてボクサーとしての実力を磨いていく。

2011年5作目の映画館での鑑賞作品。
3連休最後の13時半からの回でしたが、お客さんは老若男女100人以上の大盛況。
お父さんが『あしたのジョー』のファンだったとおぼしき家族連れもけっこうたくさん来ていました。

僕はマンガ(1967年-1973年)やアニメ『あしたのジョー』(1970年4月-1971年4月)には間に合わず、アニメ『あしたのジョー2』(1980年10月-1981年8月)は小学校の頃、リアルタイムで観ていた記憶があるので、それほど『あしたのジョー』というマンガに思い入れはないんです。
それでも、アニメや映画は再放送などで全部観ましたし、マンガは文庫版になったときに最初から最後まで通して読んでいます。
基本的に「殴り合い」はそんなに好きじゃないのですが、この『あしたのジョー』は、続きが気になって、大学生になってから、毎日のように文庫の続きを買いに行っていました。


この「実写映画版・『あしたのジョー』」、最初に耳にしたときには、「ああ、日本映画界のネタ切れもここまで来たか……」と内心苦笑していました。
主演はジャニーズの山Pなんて、『ジョー』をアイドル映画にする気か、と。


でも、今日この作品を観ると、なんというか、この映画に関わっている人たちの『あしたのジョー』という作品へのリスペクトが、すごく感じられたんですよね。
オープニングのドヤ街の描写のあと、「あのテーマ曲」の冒頭の部分とともにあらわれる『あしたのジョー』のタイトル。
「けっこうわかってるじゃないか!」と、嬉しくなってしまいました。

この映画、マンガやアニメの『あしたのジョー』を観て、感動した人たちが、「じゃあ、これを実写映画にするならば、何が残されているか?」について、真剣に考えたと思うんですよ。
マンガは「日本マンガ史に残る名作」で、社会に与えたインパクトも大きかったし、アニメの『あしたのジョー』も、素晴らしい作品なのですが、その一方で、『あしたのジョー』は「あの時代」が色濃く反映されていて、それを丁寧に描いて2011年に公開されるとなると、観客には伝わりにくいところもあるでしょう。
というか、もうすぐ40歳の僕にとっても、「実感できないところ」は、たくさんありますし。

そこで、この映画をつくった人たちは、マンガにも、アニメにもできなかった唯一のこと。
「本物の人間の肉体をスクリーンで見せる」ことにこだわったのです。
正直、登場人物はみんな「学芸会的」ではあるんですよ。
香川照之さんの丹下段平は名演ではあるけれど、実写で段平の格好をした人が出てくると、やっぱり、「ちょっといないよなこういう人は……」と思ってしまいます。
香里奈さんの白木葉子は、ちょっと設定を付け加えられ過ぎて、かえって中途半端な感じになってしまいましたが(「純粋なお嬢様の気まぐれ」だから良いんですよ白木葉子は!と僕がここで力説してもしょうがないんだけど)、絵的には合格点でしょう。
それにしても、この映画って、この2人の「脇役」を除けば、見事なまでに、「ジョーと力石」しか描いていないのです。
そして、その「潔さ」こそが、この映画を「合格ライン」に持ってきたのではないかな、と。

ジョー役の山下さんと、力石役の伊勢谷さんは、本当に素晴らしかった。
僕にとっては「不安要素」だった山下さんは、あまりに姿が綺麗すぎることもあって、さすがに「ジョーの狂気」までは演じ切れていなかったけれど、それでも、すごいトレーニングを積んで、あそこまでボクシングの試合をやってみせるとは思いませんでした。

しかし、この映画の白眉は、なんといっても、力石徹役の伊勢谷友介さんでしょう。
「ああ、力石って、実在していたら、たしかにこんなヤツだったんじゃないかな」と思いました。
あの有名な減量シーンでは、観ている僕もいたたまれない気持ちになりましたし、計量で、痩せてアバラが浮き出た力石の姿には、映画館のあちこちから、ため息が漏れていました。
そして、最後のあの表情……
この映画、完全に、伊勢谷さんが、山下さんを「食ってしまった」感じがします。
まあ、力石というキャラクターそのもののインパクトの強さもあるのでしょうが。

「俺と引き分けたヤツがこの世にいることが、許せないんですよ……」

こんなセリフに説得力を持たせられたのは、まさに「役者の力」だと思います。
伊勢谷さんMVP!


そうそう、この映画の終盤、僕は「どこでこの映画版は終わるのだろう?」と考えていたのです。
原作では、力石戦のあと、ジョーが行方知れずになってしまったところで、「第一部」が終わります。
でも、この実写映画としては、それだと、救いようがないのでは?と。
もちろん、観客の大部分は、「ジョーが戻ってくる」ことは知っているとしても。

しかし、『あしたのジョー』の場合、ジョーがリングに戻ってきてから、メンドーサ戦に向かっていき、そして……というストーリーを知っていると、何がハッピーエンドなのか、よくわかりません。というか、どう転んでも単純なハッピーエンドにはなりえない作品なわけです。


ジョーと力石は、それでも闘うべきだったのか?」
自分のプライドのために特定の相手にこだわったり、無謀なトレーニング(ですらないですよね、力石のアレは)をやったりするのは、愚かなことなのだろうか?
そもそも、彼らは何のために闘っていたのだろうか?
「夢」や「希望」のためなら、危険な相手は避けて、チャンピオンベルトを目指す道だってあったはずなのに……


結局、最初にこのマンガを読んだときからの僕の「疑問」は、いままで解決されないままなのです。
しかしながら、僕も年を取るにつれて、「日本人にずっと語り継がれるであろう、名勝負」をこの世界に残せた力石は、幸せだったのかもしれないな、と考えるようになってきました。

アニメの映画版を観れば十分じゃないか、と感じる一方で、これだけ『あしたのジョー』を演じるためにがんばった人たちが、報いられればいいな、とも思います。
あしたのジョー』をジャニーズ主演で映画化なんて、バカにしてるのか!という人にこそ、観ていただきたい映画です(DVDになってからでも良いので)。

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