琥珀色の戯言

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新・人間コク宝 ☆☆☆☆


新・人間コク宝

新・人間コク宝

出版社/著者からの内容紹介
肉食系!!男気溢れるインタビュー集。
真木日佐夫氏寄稿『豪ちゃんと俺』、長門裕之特別編『洋子婦人を亡くした長門裕之にエールを送ろう』収録!

梅宮辰夫/木村一八K DUB SHINE月亭可朝ジェリー藤尾蛭子能収長門裕之ミッキー安川生島ヒロシ三遊亭楽太郎赤井英和吉川銀二新沼謙治大和武士ビートきよし/金山一彦


内容(「BOOK」データベースより)
最新版 最大限の情報量で本人をさらに抉る!濃い芸能人たちの深すぎる人生録!男気溢れるインタビュー集。
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「プロインタビュアー」吉田豪さんが、芸能界の「濃い人たち」にインタビューするという『BREAK Max』の連載記事をまとめたものです。
僕は吉田さんのインタビューはけっこう好きで、この『元アイドル!』なんて昔のことをいろいろ思い出しながら感慨深く読んでいたのですけど(あまりの内容に「お蔵入り」しているという噂の、南野陽子インタビューをぜひ読んでみたい1)、この『人間コク宝』シリーズは、出ているのは知っていたのですが、あんまり興味がわかなかったんですよね。

僕は基本的に小心者でルールに従ってしまいがちな人間なので、このインタビューに登場しているような「悪さ自慢」の人たちって、すごく苦手なんですよ。
女遊びの話とか、飲み屋で豪遊した話とかには、ふーん、って感じだし、暴力関係の話も、殴られる側の立場をむしろ想像してしまいます。
「そういう世界」なのだろうし、「やんちゃな男」が好きな人も多いのかもしれないけれど、なんか素直に笑えないんですよね、彼らの「豪快なエピソード」には。


というわけで、「やんちゃ自慢」みたいなのを延々を聞かされるこの本は、肌に合わないし、けっこうボリュームもあるので疲れ果てながら読んでいたのですが、長門裕之さんのインタビューには考えさせられました。
僕はこれまで、長門さんが妻である、故・南田洋子さんの「認知症とその介護」をテーマにしたドキュメンタリーに出たことについて、「女優だった妻の老いた姿を本人の了承もとれないような状況で世間に晒すなんて、酷い話だ」と思っていたんですよ。
そんなふうにして「売名」する長門さんはろくでもない人間だ、と。

でも、この本での長門さんのインタビューを読んで、「夫婦のかたち」について、ものすごく考えさせられました。
介護というのはそんなに甘いものではないし、ああいうふうにして世間に出ていくことも、少なくとも本人長門さん自身にとっては、「妻への愛情表現」だったのだろうな、と。
「美談」としてツッコミを許さないような採り上げかたではなく、長門さんに「喋りたいように喋ってもらった」吉田豪さんのインタビューは、僕にとって、これまで自分が凝り固まっていた「先入観」を一変させるくらいの力があったのです。

吉田豪ただ、今回も一部に長門さんへの批判的な報道とかもあったじゃないですか。


長門裕之ああ。それはマイノリティの中での意見だろうけど、批判は批判だし、正論は正論ですよ。ただ、自分の女房の恥部をさらけ出すって言うけど、洋子の可愛さをあの中で読み取れねえヤツはね……。洋子、可愛いでしょ? やっぱり僕が洋子を引っ張り出してよかったなと思うのは、医学界が動いてくれた。それは、まずマスコミが動いたからでしょ。認知症は治せる病気なんだから、まだ時間は掛かるだろうけど少しずつ動き出した。……まあ、洋子を亡くした後じゃないもかもべつにどうでもいいやって感じなんだけど(笑)。


吉田:ボクみたいに長門さんがオムツ片手に「いま、やっと洋子がうんちしたんだよ!」とか喜んでいる姿を見ていないせいなのか、長門さんが介護を全然していないっていうような誤解もけっこうあったみたいですよね。


長門ああ。そりゃそうですよ。僕は仕事に行ってるから。ただ、この4年間に限っては仕事以外では完璧にやってましたよ。だから自分の身内のお葬式も行かなかった。そういう意味では、友達にもいろんな意味で不義理をしてますよね。だけど僕は、洋子に関しては絶対の自信を持ってるから。仕事してるときに面倒見ないのは当たり前だって。僕の体はひとつなんだから、これはしょうがない。その代わり、どこに行ってもすぐに帰ってきますからね。

そして、長門さんと南田さんの「高齢者の性」についてのこんな話を引き出すことができるのも、吉田さんの力だと思います。

吉田:晩年の洋子さんとの関係がセックスだったって思うと、いろんなことが納得できますね。


長門……こんなことしゃべっていうのかわからないけど、前に俺がちょっとお酒を飲んでいい気持ちになったとき、「久しぶりだからな」って洋子のお尻を触ったりなんかして、「洋子のお尻は変わらないなあ」なんてみんなと大笑いしていたことがあったの。そのとき洋子はもう初期の認知症だったんだけど、「あなた、したいの?」って言われて。「したいのって、お前は認知症だろ?したいことは別にやってるよ。だから、洋子とどうのこうのってことじゃないよ」って言ったら、「そう?」ってスッと寂しそうな顔してたの。「あれ? この状態はなんなんだろう?」って一瞬思って、そっと洋子をちょっと抱いてやったりなんかしてたら、「あ、どうぞ」って言うんだよ(笑)。「どうぞ」って言われても「いただきます」とは言えないよね。もう年も年だし。でもまあ、それ相当のことをしてやってね。で、あとチューして抱きしめてやって。それは2日間ぐらい続きました。


吉田:それは確かに恋愛ですねえ(笑)。

これは、お互いに70歳を過ぎてのエピソードなのだそうですが、「愛情」とか「愛着」とか、「いくつになっても枯れ果てることができない人間の業」みたいなものとか、いろんなことを考えさせられました。
あたりまえのことなんだけど、「夫婦」という関係には、他人からみたら理解不能な要素が、たくさんあるのです。

正直、この本に収録されているインタビューの多くは、「やんちゃ自慢」で、それを狙っての企画でもあり、僕はあまり好きになれませんでした。
でも、この長門裕之さんのインタビューは、多くの人に読んでみていただきたいし、こういう「美談として崇拝するわけでも、相手を批判するために詰問するわけでもなく、当事者の素の言葉をそのまま引き出して、読者の判断に任せる」吉田さんの仕事の凄さをあらためて感じました。


元アイドル! (新潮文庫)

元アイドル! (新潮文庫)

↑こちらは文庫になっていますので、興味のあるかたはぜひ。面白いです。

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