琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

成金 ☆☆☆


成金

成金

内容紹介
「世界に風穴をあけるぞ。僕らがいま生きているのはそのためでしかないんだ」
PCオタク、元カリスマ青年実業家、女子大生……個性的な面々が揃う“チーム・AKKA”。彼らは天才プログラマー・堀井健史のもと、新興IT企業を巧みにまるめ込み、資産の一部を中抜きしていた。最終目標はITベンチャーの雄、株式会社LIGTH通信の乗っ取り。携帯電話の販売代理店事業を全国展開し、創業10年あまりで時価総額5兆円の大企業へと登りつめた、ITバブルの象徴的存在だ。史上最大の下克上。チーム・AKKAは勝利を手にできるか。

前作『拝金』から遡り、物語の舞台は1999年、渋谷へ――。
IT勃興期を駆け抜けた男たちの野心を圧倒的リアリティで描く、まばゆくも壮絶な青春経済小説

前作『拝金』が、けっこう面白かったので購入。
前作の続編かと思いきや、今回は『拝金』の登場人物たちのそれ以前の姿、20世紀最後の『ITバブル黎明期』が描かれています。
まさに時代の当事者だった堀江元社長によって書かれている「実録風小説」ですから、今回もつまらないはずがありません。
けっして、「文学的な装飾に優れている作品」ではありませんし、週刊誌の暴力団ルポのような過剰な人物描写も、「サービス精神が旺盛すぎて、かえって読んでいる僕のほうが恥ずかしくなってしまう」くらいなのですが、全体としては引っ掛かりもなくスムースに読めます。
この小説、モデルがいると思われる人物の描写は詳細で過激、堀江さんの創作と思われる人物は薄っぺらくて類型的になってしまっているのですが、それが、あの時代を生きた作者が「自分の知っている人」を書いたという、妙なリアリティを感じさせてくれるのです。


この小説の最大の魅力は、やはり、あの時代の「主役」たちの生々しい姿が、「内輪」から描かれている(と思われる)ことでしょう。
「オン・ザ・エイジ」の創業者・堀井、「LIGHT通信」の景山社長、「ハードバンク」の朴一誠社長、「アスナロ」の東和之社長……

アスナロ」の東社長(って、「仮名」にしてもベタすぎ!)のこんなエピソードも紹介されています。

 1980年代、アスナロは店頭公開し、東は一夜にして80億円の資産を得た。だが、彼の両親や親族は「たった、それだけ? コンピューターは儲からないんだな」と言い放ったという。
 明治維新後、貿易商として財をなした東一族は、神戸や大阪の中心地に20棟の貸しビルやマンションを構え、丹波などのいくつも山野を所有していた。そんな環境で育った東は店頭公開で得た80億円を、公私の別なく平然と浪費し続けた。
 その結果、アスナロは90年代半ば経営難におちいり、日本のコンピューター黎明期に登場した異能・東和之は第一線を退くことになる。

ちょっとGoogleで検索したかぎりでは、このエピソードの東社長の前半生の部分が事実かどうかはわからないのですが(もともと資産家であったことは間違いないようです)、当時はこんなことが業界内で言われていたのだな、というのが伝わってきます。
しかし、こんなにはっきりとモデルがわかるように書いていいのかな、と心配になってしまいますが、たぶん、抗議されたら「小説ですから」っていうことにするんだろうなあ。


小説の大筋としては、「企業買収に絡む、ひとつの復讐劇」が中心に描かれているだけに、前作の「ひとりの若者の成りあがりの物語」と比較すると、話のスケールの大きさ(話のなかで動いている金額は大きいんですけどね)やドラマ性は落ちる印象です。
それでも、最後まで一気に読める、なかなか興味深い作品ではあります。
『拝金』が「成り上がり小説」であるとすれば、『成金』は「暴露本」的な面白さ。


ただ、この作品には、そういう「スキャンダラスな面」だけではなくて、堀江さんが求めていた「パソコンがつくる、新しい世界への希望」みたいなものも込められています。

 中学生のときMSXを買ってもらい、パソコン通信にはまった。そこでは大人も子どもも関係なく、誰もが自由に話題を交換できた。学校の先生でも知らないような政治の裏事情や、日本経済に関する意外な観測、さらには外国語のユニークな学習法まで、胸躍るトピックがいくらでもあった。
 この小さな箱には無限の世界が拡がっている。その拡がりを感じれば感じるほど、自分が実際にいる学校という世界の狭さにうんざりした。
 でも、それをわかってくれる大人はいなかった。
 部屋から出てこず1日中パソコンの前にいる息子に対して、親は何度も「外に出ろ」「広い世界に目を向けろ」と言い募った。
 いま僕はとても広い世界にいるんだ――。そう言いたかったが、うまく説明することができなかった。できたのは、口を閉ざし、登校を拒むことだけだった。

ITバブル」の当事者たちは、多かれ少なかれ、こういう「パソコンで、あたらしい世界をひらく」ことを希求していたのではないかと僕には思われます。
にもかかわらず、ライブドアは、なぜ、「IT企業」ではなくなってしまい、破綻への道を歩んでしまったのか?
僕は、堀江さんが、いつか、その経緯を小説にしてくれるのではないかと期待しています。

僕も「ホリエモンになれなかった、マイコン少年」だったから。


拝金

拝金

↑前作『拝金』の感想はこちらです。

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