琥珀色の戯言

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パチンコがなくなる日 ☆☆☆


パチンコがなくなる日―警察、民族、犯罪、業界が抱える闇と未来 (主婦の友新書)

パチンコがなくなる日―警察、民族、犯罪、業界が抱える闇と未来 (主婦の友新書)

内容紹介
国民的娯楽、パチンコが消滅の危機に!?パチンコ業界が抱える構造的問題を明らかにしつつ「警察とパチンコ」「メディアとパチンコ」……など暗部にも迫る1冊。


参加人口1500万人、市場規模22兆円を誇る巨大パチンコ産業が、今過渡期に差し掛かっている。このままでは「国民的娯楽」が消滅の危機に!?パチンコ業界が抱える最大の問題は、パチンコを支える「庶民」がいなくなったこと。社会構造の二極化による、パチンコヘビーユーザーであった中流層の空洞化や改正化資金業法で消えるヘビーユーザー、そしてネットの影響。さらにパチンコ業界が抱える構造的問題。「警察とパチンコ」「民族とパチンコ」「メディアとパチンコ」……パチンコ業界では硬派・辛口の論客として知られ、メーカー・ホールなどの講演活動も多数行い、業界人必読のWEBサイトも運営するPOKKA吉田氏が、パチンコ業界を厳しく論じる。


内容(「BOOK」データベースより)
一千万人超のファン人口を擁する国民的娯楽、パチンコ。しかしその実像は、カネと権力と犯罪と民族問題を内包する、超巨大グレー産業であった…。業界事情に精通し、パチンコを深く愛する「ぱちんこジャーナリスト」の著者が、アヤシくキワドい業界の暗部を、タブーなく明かす!パチンコファン、業界関係者のみならず、「デタラメバッシング本」に毒されたアンチパチンコ派も必読の書。


正直、この本の内容は、僕が期待していたものとはちょっと違っていました。
「業界の暗部を、タブーなく明かしている」のは事実だと思うんですよ。
関係者の名前も実名で書かれていますし、「パチンコの換金合法化」についての現状とか、スロットの「爆裂機」に関する警察とパチンコ業界の闘いも描かれています。
でもまあ、「業界人」ではないものの、以前パチンコをかなりやっていた(スロットは未経験)僕にとっても、「でもこれ、パチンコをやらない、やったことが無い人には関係ないよな」という気分になってくるんですよね。


この本のなかで、多くの「普通の人」がいちばん興味をひかれるであろうエピソードは、「押尾学が出演するパチンコ台、『カジノの帝王』の撮影が、ラスベガスで行われていた」という話かもしれません。

 そして、マルホン工業によるぱちんこ遊技機の押尾採用案件である。これは事件によって幻となったのだが、押尾の1回目の保釈金を供出したのは、事実上のマルホン工業のトップである熊取谷稔氏の関係者である。とくに400万円の保釈金が未払いだったため保釈が認められてから保釈されるまで数日間あったこともマスコミを刺激した。「押尾に金を出す者はいるのか。ひょっとして保釈金が払えなくて出てこれないかもしれない」と見ていたマスコミの注目の的になった熊取谷稔氏は、ぱちんこCR(カードリーダー)化の仕掛け人のひとりとして知る人ぞ知る人物であった。
 押尾をめぐって暗躍したぱちんこ業界人脈がマスコミのターゲットになった。結局、新聞各社は記事化せず、週刊誌などの雑誌が一部記事化しただけだが、実名報道は少なかった。フィールズは優良広告主でもあり、それ以外もぱちんこ業界を超えて政財界を股にかける大物たちである。「ペンは権力より弱い」ことに憂いを覚えた記者たちが、多く私に問い合わせをしてきたことも今思い出せば懐かしい。

まあ、この話だけでも、パチンコ業界の「暗部」みたいなものはうかがえます。
(「悪いヤツに保釈金を出したから、そいつも悪いヤツ」というような決めつけには、それはそれで注意が必要だとは思いますが)


そして、よく採り上げられる「換金問題」(パチンコ店での「換金」は違法ではないのか?)については、このような話が紹介されています。

 1961年頃に始まった大阪方式は、いくつかの社会的メリットがあった。それは「換金行為に巣食う暴力団を排除できる」ということと「雇用確保」だ。買取所の運営に福祉の考え方を導入して、当時はまだ珍しくなかった戦争未亡人など生活苦の人たちを積極的に雇用するというモデルにしたのである。この社会的メリットを有用とみた大阪府警は、この大阪方式を事実上認めた。この方式は若干の変遷を経て、現在まで大阪府で継続しており、各都道府県の「理想的な換金行為モデル」として今なおスタンダードとなっている。
 暴力団排除と福祉。要するに「良いことをしているのだから、換金は見逃せ」的なこと手法を事実上大阪府警が黙認したときから、換金問題は始まったのだ。同時にこれは「ぱちんこ業界と暴力団との決別」をも意味した。ここから先は「ぱちんこ業界のケツもちが暴力団から警察に変わる」時代となる。

 ここで驚くべきは、警察庁の組織図とぱちんこ店組合の組織図と矢印で結んだ相関関係にある部分のほとんど全てで「警察天下り」が存在するということだ。これは完全に慣習化された「指定ポスト」となっており、たとえば「専務理事」「事務局長」などが天下りポストとなっている。なお、ぱちんこ店組合でぱちんこ営業者の役員等に報酬は発生しないが(一部例外アリ)、天下りポストには当然のように報酬が発生する。

パチンコ業界は、警察と密接に結びつくことで、「安定」をはかってきました。
「パチンコ業界が警察庁の天下り先」なんていうのは、ちょっと信じたくない話なのですが、まぎれもない事実。
そして、パチンコ業界の「ギャンブルという社会的に『悪』だとされていることで稼いでいるけれど、良いこともして社会に還元しているから、大目にみてくれ」という姿勢も、ずっと変わりはないようです。
実際、格闘技系のスポーツイベントの多くが、パチンコ業界にスポンサードされていますし、最近ではアニメの「サポート」もやっているようです。

しかし、これほどの密接な関係があるパチンコと警察も、「爆裂機」により、ギャンブル依存、借金問題などが増えてくると、さすがに「なあなあ」にはできなくなってきています。
『ミリオンゴッド』を代表とする、パチスロの「4号機」は、「出るときには100万以上勝てることもあるけれど、20万以上負けることもザラにある」というギャンブル性の強い機械でした。
これが「社会問題」となると、さすがに警察も「野放し」にはできないと判断し、業界に規制を求めます。

 このときの規則改正案は、若干の修正をみて翌年の7月1日から施行となった。2004年7月1日以降に型式試験申請がされたパチスロのことを5号機と呼ぶ。
 このときは検定規則と同じ日に「風営法施行規則」の改正施行もなされている。これによって生じた事態は、


「旧規則下でのパチスロの設置が認められない」
「ただし、旧規則下でのパチスロの検定有効期限(3年間)を基準にしてその間は販売・設置も可能(経過措置)」

 というものである。
 改正規則施行が決まり、もう、結末は見えている。パチスロメーカーの暗い将来はすぐそこだ。ということで、パチスロメーカーは最後の抵抗に出る。

 経過措置は正確に言うと2007年10月をもって全ての型式において終了した。しかしそれは「2007年10月までは4号機(主に4.7号機)を製造・販売していい」ということでもある。
 そこで、ほとんどのパチスロメーカーが選択したのは「ギリギリまで4号機を製造・販売する」というものであった。

 回胴式遊技機が存在していることに感謝してほしいと思っていたかもしれない警察庁に対して日電協が突き付けたのは「規制強化しないで」というあきれたメッセージだったのである。そしてその後も経過措置終了まで4号機にしがみついたというのが、パチスロの歴史なのだ。

一般的な「サービス業」であれば、こういう問題が起こった際に、「問題があると認められた機械をあえて導入し、最後の最後まで客から搾り取る」という選択はしないでしょう。
でも、パチンコ業界では、こんな「とりあえず今が良ければいい」という場当たり的な経営を、みんな行っていたのです。


パチスロの「4号機」が規制されたと思ったら、今度は「大当たり確率低め、確率変動突入・継続率が高めで、連チャンしやすい爆裂パチンコ」が出てきます。
これもまた、「最初に当たるまで、平均で2万円以上必要だが、当たるとデカい」という性格の機械です。
もちろん、これも問題となり、警察も業界に規制を求めてきます。
そのとき、パチンコ業界がとった姿勢は、

 警察庁が日工組に対して、内規をめぐって強烈な指導を繰り返したということがはっきりわかるのは、実際の内規の変遷である。日工組は警察庁が最も強く要求する先の3点(下限確率、継続率、最低賞球数)を基本的に拒否しつづけている。しかし「拒否」だけだと、爆裂機問題よろしく検定取り消し処分や、場合によっては釘の消滅等の「強硬手段」に出られる可能性がある。それではマズイということで、指導が強まった際に「ほんの少しだけ、できるだけ本質とは関係のない部分について、内規を改定して自主規制する」という作戦に出た。
 つまり「警察庁の要求は聞かないが、こんどはこういう自主規制をしたんだから評価してよ」という立場である。もちろん本質部分の問題解決にはほど遠いから、警察庁の指導は終わらない。それが激化すればまた本質と違う部分で内規改定をする。
 それを2004年から2010年末まで「何回」繰り返したか。
 実に6年間で10回も内規を改定しているのである。こんなことは、日工組の50年の歴史上でもはじめてのことである。

こんな「小手先のごまかし」を高頻度に繰り返すことによって、なんとか警察の追及を逃れているのが現状なのですが、いくら「密接な関係がある」からといって、こんなごまかしが今後何年も続くのかどうかは甚だ疑問です。
都知事が「営業規制」を提案したように社会の目は厳しくなる一方だし、警察だって一枚岩ではなく、「パチンコ業界との癒着」を危険視する人たちも少なからずいます。
それでも、パチンコ業界は、「とりあえず問題を先送り」するばかり。
なんてノーフューチャーな業界!


そして、ひとつ書いておきたいのは、この本は「パチンコで遊んでいる人たち」のことに、ほとんど触れられていないのですよね。
それは、著者のPOKKA吉田さんが、なるべく事実だけを述べようとしていることもひとつの要因でしょうが、そもそも「パチンコ業界は、パチンコファンのことなど、『ギャンブル性の高いマシンさえ与えておけば勝手に金を落としてくれる連中』としか考えていない」からのように僕には思われます。
悲しいことに、それはまたひとつの「現実」でもあるわけで。

パチスロ業界が最後の最後まで「4号機」にこだわり続けたのも、パチンコの「爆裂機」の規制にたいしてごまかし続けているのも、最終的には「客がそういう台を好むから」ではあるのです。
「遊び程度に打っていた人」は、「そんな少額では1回も当たらない」ことに嫌気がさして店に来なくなり、全体の客数は減っていく。
にもかかわらず、店はこれまで通り(あるいはそれ以上)の利益をあげなければならないため、「出るときには出る」ことを期待させる爆裂機で、「ディープなパチンコ依存症患者」から、搾り取れるだけ搾り取ろうとしています。

「パチンコ廃絶派」の人たちがネットには多いけれど、いまのパチンコ業界のやりかたを見ていると、このままだと、放っておいても、近い将来、パチンコ業界は「立ち枯れ」してしまうのではないかと思います。
その焼け跡に、たくさんのギャンブル依存症患者の屍を残して。


ちなみに、この本では、「パチンコ業界と北朝鮮とのつながり」などにも少し触れられています。

どこの国籍が多いのか?


 これは実は難しい問題だ。正確にはなかなか知る方法がないからである。業界でよく言われるのは「南5割、日本3割、中国・台湾1割、北1割」という感じだが、これも正確な統計というわけではない。

この本を読んでいると、「北朝鮮に送金しているパチンコ業界人」は、さほど高い割合ではないようですし、その「規制」も強まってきているようです。
そういう点においては、イメージほど「ブラック」ではないのかもしれません。


この本の最後のところで、ある新書に対する批判が書かれています。

 2010年12月はじめ頃、大崎一万発から連絡をもらった。既に本書の企画構成および取材・データ集めは済んでおり、執筆作業に取り掛かっていた時期である。「変な本があるぞ」と。
 その本とは「なぜ韓国は、パチンコを全廃できたのか(若宮健著・祥伝社新書)」である。「韓国の成人娯楽室は国が壊滅させた。日本もぱちんこを禁止すべきだ」という、ぱちんこ非難に全力をあげた本である。
 この本がものすごく酷いのである。何が酷いのか。「内容」だ。ぱちんこ非難の文脈が酷いのではない。事実関係がムチャクチャな記述が多く、少なくともぱちんこ業界に関する記述はウソが満載だ。要するに「デタラメすぎる」のである。
 なんでこんな本が出版されるのか。それはこの本の著者や編集者が「ぱちんこ業界のことを全然知らないから」であろう。さらには「ぱちんこ業界の取材が難しい」からであろう。ちゃんと取材できる人物であれば、少なくとも「2003年10月から始まったミリオンゴッドの検定取消し処分」について「04年7月1日に認定取消」とは絶対に記述しない。年月日を間違え、検定を認定と間違えるこの記述は「事実誤認」というレベルではない。これは取材力の欠落を示す馬鹿である、事実確認ができない阿呆である。
 いちいち列挙するとキリがないのでウソ例示はこの1件にとどめておくが、こんなウソ記述の宝庫であるこのトンデモ本は、日本社会とぱちんこ業界との距離をしかし示唆したものであろう。すなわち「日本社会はぱちんこ業界のことを知らなすぎるので、ちゃんと取材ができなくてウソ記述が満載の本でも発行できる」ということである。

ここでPOKKA吉田さんが指摘されている「事実関係のムチャクチャさ」は、ジャーナリズム的な視点では「あってはいけないこと」だし、「こんな嘘だらけの本など、信頼できない」はずです。
でも、この部分を読んだ「パチンコ廃絶派」の人たちは、「ミリオンゴッドとかいう台の検定だか認定だかの時期が少し違うからといって、パチンコが社会悪であることには違いないだろう。揚げ足をとってパチンコを擁護するな!」と言うのではないかと僕は想像しています。
ネット上の「議論」とかでも、「相手が書いたところの局所的な事実誤認を指摘して、『こいつの言うことは、信用できない』と他の閲覧者にアピールする戦略をとる人」は、少なくありませんから。
結局のところ、「人は信じたいことを信じる」ものなのでしょう。
吉田さんが指摘されているように、パチンコ業界のことが「誤解」されているのは、業界そのものの閉鎖的な体質にも大きな問題があると思いますし。


ちょっと長いエントリになってしまいましたが、「追いつめられた状況で、あなたのお金を搾れるうちに搾り取っておこう」としている人たちと、まともに「勝負」するのが賢明かどうか、そんなことは考えるまでもなく、わかりきっているとは思うんですよ。
でも、パチンコ好きな人たちは、「お金」だけの問題じゃなくなってしまっていて、それが「やめる」ための最大の障壁なのでしょう。


昨日、車を運転しながら眺めていたら、パチンコ店は、震災直後に比べると、かなりお客さんが戻ってきているようでした(ゴールデンウイークの影響もあるのでしょうが)。
パチンコを打つ生活が「日常」になってしまっている人もいる。
パチンコ業界で働いて生計を立てている人もいる。
そんななかで、パチンコと、どう付き合っていくべきか?


※いままでパチンコ台に触れたこともない、という人は、絶対に触らないまま一生を終えたほうがいいと思います。
極端な話、みんなが「子どもに、これからパチンコを打たないようにさせる」だけで、廃絶運動なんてしなくても、50年後にはパチンコ業界は「自然消滅」するのですから。
(それはそれで、ネトゲ、ケータイゲーム廃人が取って代わるだけ、かもしれませんが……)


参考リンク:『なぜ韓国は、パチンコを全廃できたのか』感想(琥珀色の戯言)

なぜ韓国は、パチンコを全廃できたのか(祥伝社新書226)

なぜ韓国は、パチンコを全廃できたのか(祥伝社新書226)

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