琥珀色の戯言

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スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則 ☆☆☆☆☆


スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン

スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン

出版社 / 著者からの内容紹介
スティーブ・ジョブズのプレゼンの魅力を解き明かす!
アップルCEOのスティーブ・ジョブズのプレゼンテーションは、なぜあれほど人々を魅了し、熱狂させるのか―。
本書は、iPhone発表時などスティーブ・ジョブズの伝説のプレゼンを紹介しながら、その秘密を詳しく解説していきます。


専門用語を使わない、ツイッターのように短い一文で製品やサービスを表わす、ポイントを3つにする、ヒーローと敵役を登場させる、ひたすら練習を積むなど、スティーブ・ジョブズのプレゼンの法則を解き明かします。
すばらしいプレゼンができるようになります!


スティーブ・ジョブズの名文句やスライドの数々を紹介!
本書では、プレゼンテーションでスティーブ・ジョブズが繰り出した名文句や魅力的なスライド、演出の数々を紹介しています。シンプルでわかりやすく、人の心をつかむスライドや言葉を一部は英語も交えて紹介しています。巻末には、本書に登場するステ
ィーブ・ジョブズのプレゼン動画を見られるURLのリストを掲載しています。ぜひ、動画も合わせてご覧ください。


[名文句の例]
「今日、アップルは電話を再発明する」
iPodはガムより小さくて軽いんだ」
iPhone 3G。速度は2倍、価格は半分」
マイクロソフトが抱えている問題はただひとつ。美的感覚がないことだ。足りないんじゃない。ないんだ」
「今までに売れたiPhoneは400万台。うれしいねえ。1日平均2万台のiPhoneが売れたことになる」


■人々を惹きつけるプレゼン 18の法則
構想はアナログでまとめる/一番大事な問いに答える/救世主的な目的意識を持つ/
ツイッターのようなヘッドラインを作る/ロードマップを描く/敵役を導入する//正義
の味方を登場させる/禅の心で伝える/数字をドレスアップする/
「びっくりするほどキレがいい」言葉を使う/ステージを共有する/
小道具を上手に使う/「うっそー!」な瞬間を演出する/存在感の出し方を身につける/
簡単そうに見せる/目的に合った服装をする台本を捨てる/楽しむ


スティーブ・ジョブズのプレゼン動画などの情報はこちら
http://ec.nikkeibp.co.jp/nsp/stevejobs/

この本、しばらく前から書店で見かけていて、気になってはいたんですよね。
でも、「景気のいいことが書いてあるけれど、あの数々の有名なプレゼンテーションは、『ジョブズだからこそ』できたわけで、そんなの凡人の僕にマネできるわけがない」と思って、スルーしていました。
僕がやるような学会でのプレゼンテーションと、アップルの新製品発表会では、プレゼンの性質が違うだろうし。
今回、この本を手にとってみたのは、自分がちょっとしたプレゼンをしなければならず、その資料集めのために書店に行ったときのことでした。
「何か」の参考にならないかな、って。


読んでみての感想。
これ、僕がいままで読んだ「プレゼンテーションの指南書」のなかで、いちばん良い本だと思います。
(残念ながら、そんなに数多く読んだわけではないのですが)
この本の良さは、「役に立つ」だけではなくて、スティーブ・ジョブズとアップルという会社の特徴が伝わってくる「読み物としての面白さ」も兼ね備えていることです。
率直に言うと、「ジョブズって、誰?」という人には、いまひとつ「伝わりにくい本」かもしれませんが。


僕がジョブズの「感動的なプレゼンテーションをはじめて知ったのは、中学生の頃にマイコン雑誌で紹介されていた、この「マッキントッシュ発表」のときでした。

この動画は日本語字幕なしなのですが、雰囲気は伝わると思います。
いまから30年近く前なので、ジョブズも若い!
そして、ここからずっと、ジョブズのプレゼンテ―ションは進化を続けているのです。


僕は人前で話すのが苦手で、プレゼンをやるのも嫌で嫌でしょうがないんですよね。
パワーポイントでスライドをつくりながら、「キーノートを使えば、ジョブズのようなプレゼンができるようになるんじゃないかな……」なんて考えてみたりもするのです。
でも、この本の著者は、僕のそんな「道具を変えれば良くなるのではないか?」という淡い期待を徹底的に打ち砕いてくれます。

 スティーブ・ジョブズはビットやバイトというデジタル世界で有名になった人だが、ストーリーを組み立てるときは紙と鉛筆という昔ながらの方法を使う。ジョブズのプレゼンテーションは劇場型で、注目を集めて人々のうわさになり、多くの人に感動を与えるように考えられている。優れた演劇や映画と同じように、対立、解決、悪役、ヒーローなどが登場する。そして、優れた映画監督と同じように、ジョブズも、「カメラ」を手にする前に(プレゼンテーションソフトを軌道する前に)筋書きの絵コンテを作る。だから、傑出したマーケティング劇が生まれるのだ。
 ジョブズは、細かなところまで気をくばる。説明に使うキャッチフレーズを書く、スライドを作る、デモの練習をするなどはもちろん、照明のあて方にまで。適当にすませるものなどない。そのジョブズが、まず、紙と鉛筆からスタートする。これは、トップクラスのプレゼンテーション・デザイナーが口を揃えて言うことでもあり、『プレゼンテーションZen』(ピアソンエデュケーション刊)の著者、ガー・レイノルズも次のように書いている。 「最初に紙と鉛筆を使い、『アナログ世界』でアイデアをざっくりまとめておくと何かが違う。そのアイデアをデジタル技術を使って提示するとき、なぜか、明快かつ創造的となり、優れたプレゼンテーションになるのだ。
 アップルのプレゼンテーションを作っている人を含め、デザインの専門家はみな、プレゼンターは考えること、スケッチすること、筋書きを作ることに時間の大半を投入すべきだと言う。

つまり、大事なのは「パワーポイントかキーノートか?」ではなくて、その前の段階である、ということなのです。
もしかしたら、「スティーブ・ジョブズも、子供時代は『紙と鉛筆』で過ごした人間」のひとりで、これからの主役、「子どもの頃から、メモ代わりにEvernoteを使っていたような人たち」は、「パソコンでストーリーを組み立て、パソコンでプレゼンテーションをつくる」ようになっていくかもしれませんが、それでも、「最初にアイデアをざっくりまとめておくこと」の重要性は変わらないのではないかと僕も思います。

 ジョブズは機能を絞り込んで整理し、製品を使いやすくする。スライドを作るときも同じ方法が使われる。「何でもスライドに書いてしまうのは、プレゼンテーターとして怠慢以外のなにものでもない」とナンシー・デュアルテは言う。ほとんどのプレゼンテーターがスライドに言葉を詰め込むのに対し、ジョブズは削って、削って、削る。
 ジョブズのプレゼンテーションは、とてもシンプルで視覚的、そして、個条書きがない。そう、個条書きがないのだ。今まで一度も、だ。パワーポイントを使った個条書きがないプレゼンテーションというのは、パワーポイントによるプレゼンテーションだと言えるのかと思うだろう。答えはイエス。それどころかおもしろくなる。大事な情報を伝える方法として個条書きは効果が小さいことが、認知機能(脳の働く仕組み)に関する最近の研究によって確認されている。常識的なプレゼンテーションは聴衆をとらえる力がとても弱いというのが、神経科学の専門家たちの見解なのだ。

これはiPod発表時のジョブズのプレゼンテーション(日本語訳付き)。
ジョブズの「伝説のプレゼンテーション」のひとつです。
日頃僕が見ている「プレゼンテーション」と比較すると、この「スライドのシンプルさ」には驚かされます。
「個条書きがない」というのは、「それがプレゼンの王道」だと信じていた僕にとっては衝撃でした。
(僕が見ているのは「学会発表のスライド」ばかりとはいえ)

 記憶に残る瞬間を演出するコツは、部屋を出た後も聴衆に覚えていてほしいことをひとつだけ、ひとつのテーマだけに絞ること。メモやスライド、記録を見返さなくても、そのひとつは聞き手が思い出せなければならない。細かいことは忘れられてしまうが、感じたことは忘れられないものだ。
 マックブック・エアについて、我々に覚えてほしかったことは何か。世界で最も薄いノートパソコン、これだけだ。詳しいことはアップルストアやウェブサイトに行けばわかる。プレゼンテーションは感動をもたらしヘッドラインに命を吹き込むことが目的。話し手と聞き手の心をつなぐのだ。
 初代iPodを発表したとき、覚えてほしいとジョブズが思ったメッセージはひとつ――1000曲をポケットに、だ。シンプルなメッセージで、プレゼンテーション、プレスリリース、アップルのウェブサイトなどで一貫して用いられた。しかし、2001年10月にジョブズが命を吹き込まなければ、これは普通のキャッチフレーズにしかならなかったはずだ。

「1000曲をポケットに」
僕はずっと前に初代iPod買ったんですけど、このプレゼンを見ていると、iPodが欲しくなってきてしまいます。
最後にジョブズがポケットから、さりげなくiPodを出してくるところは、やっているジョブズ本人もすごく楽しそう。


実際は練りに練られているのだとしても、ここに出てくるスライドそのものは、パワーポイント(あるいはキーノート)さえ使えれば、誰にでもつくれるのではないかと思います。
しかしながら、僕のプレゼンテーションとジョブズのプレゼンテーションには大きな差があります。
その「最大の理由」を、著者はこのように明かしています。

 スティーブ・ジョブズはショーマンだ。舞台を細かく作り込んでくる。動き、デモ、映像、スライド、その一つひとつがかっちりかみ合う。ジョブズは自信を持って気楽にプレゼンテーションをしているように見える。少なくとも聴衆にはそう見える。その秘けつは……何時間もの練習にある。いや、正確に言おう。1日何時間もの練習を何日も何日もするからだ。
 ビジネスウィーク誌にもこのように書かれていた。「ジョブズは、新しもの好きな人が自宅で友だちに見せびらかしているかのようにアップルの新製品を紹介する。でも実は、何時間も真剣に練習したからこそ、その何気なさが生まれるのだ」「ある小売企業の役員は、ジョブズから依頼されてマックワールドのリハーサルをしている現場に出向いたところ、ジョブズがステージから降りてきて話をするまでに何時間も待つことになったそうだ。ジョブズは自分の基調講演を強力な武器だと考えている。ウェブ検索大手、グーグルのイノベーション発表で中心的な役割を果たすメリッサ・メイヤーは、新製品のマーケティング担当者はジョブズの基調講演を現場で体験すべきだと言う。『新製品の発表でスティーブ・ジョブズの右に出る人はいませんからね。そのやり方は見ておくべきです』」
 ジョブズはどのようにしているのか? ビジネスウィーク誌の記事に答えが書かれている。何時間も真剣に練習するのだ。「一番最近、何時間も真剣に練習してプレゼンテーションの準備をしたのはいつでしたか?」と聞かれたら、「したことがない」としか答えられないのが普通だろう。ジョブズのように話したいと思うなら、プレゼンテーションの隅から隅まで練習する時間を確保することだ。

もちろん、ジョブズには「才能」があるし、アップルには「世界最高レベルのクリエイター」たちが集まっています。
ジョブズは「プレゼンテーションこそが、大事な仕事」でもあります。
正直、大部分の人は、「プレゼンのために1日何時間もの練習を何日も何日もする」なんてことは、できないし、許されないとは思うんですよ。

でも、この本を読んで、ジョブズのエッセンスを取り入れ、事前に1時間でも2時間でも練習することによって、「いままでより、もう少し相手に伝わる、そして、自分自身も楽しめるプレゼンテーション」ができるようになりそうな気がします。

この本のいちばんの素晴らしさは、「プレゼンテーションは自由なものだし、演者も楽しめるものなのだ」と教えてくれるところです。
そして、聴衆の前でプレゼンをやる機会なんて無い、という人にとっても、「他者とのコミュニケーション」の大きなヒントになってくれると思います。


最後に、これも「伝説」となっている、iPhone発表のときのジョブズのプレゼンテ―ションを御紹介しておきます。


「どうせジョブズみたいなプレゼンテーションなんて、できるわけないよ」
そう思っている人にこそ、ぜひ読んでみてもらいたい一冊です。
ジョブズのようなプレゼン」はできなくても、人前でプレゼンテーションすることに、少し前向きな気持ちになれる本だから。

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