琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

僕、はまじ ☆☆☆☆


僕、はまじ

僕、はまじ

内容(「MARC」データベースより)
漫画「ちびまる子ちゃん」の本物の「はまじ」が語る爆笑ちびまる子ちゃんワールド。プールからの脱走、漫才師を目指しての上京、清水の仮装大会で牛を演じる…悲しくも楽しいエピソードが満載!


 しばらく前、『ちびまる子ちゃん』が大人気で、さくらももこさんのエッセイが大ベストセラーになった頃、数々の「関連本」が出版されていました。
 この『ぼく、はまじ』も、そのうちの一冊。

 この本の初版は2002年2月になっていますから、いまから約10年前に出版されたものになります。
 僕の記憶では、当時書店でこの本を見かけたとき、買おうなんて気持ちには全くならず、「子どもの頃の同級生が描いた漫画のキャラクターに使われて有名になったからといって、こうして本を出すなんて、厚かましいなあ、この人は何かすごいことをやったわけでもないのに」と思っていたんですよね。
 『ちびまる子ちゃん』の登場人物でも、サッカーで活躍した長谷川健太選手が本を書くのならともかく。
 しかしながら、この本、「7万部のベストセラー」になったそうですから、当時のさくらももこさん、『ちびまる子ちゃん』のブームは、本当に凄かったんですね。

 今回読んでみたのは、この本の電子書籍版が、アップルストアで「85円」だったからでした。
 もっとも、他にも85円の本はたくさんありますし、ブックオフに行けば、100円で買える本もたくさんあるのですから、「安かった」だけが理由ではなく、僕なりに「どんなことが書いてあるのか、ずっと気になっていた」のでしょう。

 さて、「有名漫画家と偶然同級生になったから、有名人になれた人」は、どんな本を書いていたのか?


 この、そんなに長くもなく、小学校〜高校〜フリーター時代までの「はまじ」の思い出が綴られている本を読みながら、僕はちょっと感動してしまいました。
 ああ、この人は、「正直者」だなあ、って。

 「はまじ」って、悪いヤツじゃないんだけど、客観的にみれば、「ダメ人間」だと言われても致し方ないでしょう。
 この本には、子どもの頃の両親の離婚から、小学校3年生のとき、担任の先生にプールの授業で理不尽な「スパルタ特訓」を行われたことをきっかけに、数カ月間にわたって不登校が続いたこと、中学校時代にブラスバンド部に入って体験したこと、高校を半年足らずで中退したこと、その後、東京に出てきて漫才師を目指すものの、夢をあっさり諦めて帰郷したことなどが淡々と語られていきます。
 人生のクライマックスは「清水駅前銀座仮装大会」。

 いやほんと、「はまじ」は、何をやっても、中途半端というか、やり遂げることができない。
 だからといって、すごく怠惰な人間であるとか、非常識であるとか、そういうわけでもないんですよね。
 部活にしても、アルバイトにしても、仕事にしても、けっこう一生懸命やっているんだけど、しばらくやっているうちに、ある日ふと、「ああ、もういいや」と燃え尽きてしまう。

通信制の厳しい勉強方法についていけなくなってしまった」
 そう言うしかなかった。
 そして学校にこなくなった人たちもこういう気持ちだったんだろうなと思う。だけど、このまま辞めていいのだろうかという気持ちもある。ここで辞めたら今までと同じことだ。物事が難しくなり、忙しくなり、そうすると僕はすべてが嫌になって逃げ出してしまうのだ。だけどそれは今までの僕の話で、今回の望星高校ではそうしないと誓ったはずだ。
 ジレンマはあった。だけど環境が僕を許してくれなかった。
 言い訳か? いや、違う。勉強は続けたい。でも時間がないんだ。それは言い訳じゃないか? 違うんだ。高校は卒業したい。でもこのままでは倒れてしまうし、交通事故を起こしてしまうかもしれない。
 僕は自問自答を繰り返した。しかし一日の睡眠時間を1、2時間にしなければレポートを提出することはできなそうだった。どうあがいても時間だけはどうにもならない。
 そして僕は三年度のときに望星高校を辞める。

 結局、「はまじ」は、この定時制高校を、一度中断しながらなんとか卒業し、新しい人生にも、少し希望(というか「希望的観測」)がみえてきたところまでで、この本は終わっています。
 「はまじ」は、いま40代半ばくらいだろうと思うのですが、このあと、どうしているのだろう?

 僕は何冊も本を読んできているのですが、これほど、「人生がうまくいっているとも、ドラマチックであるとも言いがたい、普通の人の自伝」を読んだことはないような気がします。
 「はまじ」は、僕よりも年上なんだけど、この本を読んでいると、努力家ではない僕でさえ「そこでもう一踏ん張りしろよ、はまじ……」と、つい言いたくなってしまうんですよ。

 そして、ものすごく失礼な言い方で申し訳ありませんが、この本を読んでいると、「悪人でも、全く能力が無いわけでも、努力していないわけでもないのに、人生うまくいかない人っていうのは、こんな感じなんだなあ」、ということがわかるような気がするのです。
 そこそこ努力してきて、そこで踏ん張れれば、ひとつ前に進めるはずのポイントで、「ああ、もういいや」と諦めて引き返してしまう、その繰り返し。
 「はまじ」は、どこかでその山を越えることができていたら、人生が大きく変わっていた人なのかもしれません。
 ただ、そのきっかけが、小学校3年生のときの「プールでのスパルタ特訓」にあるとするならば、体育の時間が大嫌いだった僕にとっては、他人事ではないんですよね。
 なんでも、「トラウマのせい」にしてしまうのは、好きではないけれど……


 自費出版の自伝や、WEB上の日記でも、ここまで赤裸々に「普通なのに、うまく生きていけない人」のことが書かれているものは珍しい。


 「天国に行く道を知るためには、まず地獄に行く道を知ることである」という有名な言葉があります。
 この『ぼく、はまじ』は、はまじ本人の言い分もよくわかるだけに、考えさせられる、すぐれた資料だと僕は思います。
 絶対にマネできない勝間和代さんの本を読むより、この本を読んで、「なぜ『はまじ』はうまくいかなかったのか?」を考えて、反面教師としたほうが、「普通の人」には役に立つんじゃないかなあ。
 さすがに通常価格の450円だと、ボリューム・内容としては「ちょっと高い」と思いますが、いまの「電子書籍版・85円」なら、読んでみて損はしないはずです。

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