琥珀色の戯言

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火宅〜プロレスラー・橋本真也の愛と性 ☆☆☆☆


火宅?プロレスラー・橋本真也の愛と性

火宅?プロレスラー・橋本真也の愛と性

内容紹介
「結局、私はあなたにとって何だったのでしょうか」――橋本真也7回忌を迎え、前夫人が回想する修羅の日。愛し合った2人はどうして別れなければならなかったのか。そして、夫が最後に走った女性に対する真実の叫び。プロレスラー・橋本真也の熱風のような青春がここによみがえる。


 あれから6年、ですか……
 橋本真也さんの死については、なんだかつい先日の話のような、ずっと昔の話のような、そんな宙ぶらりんの感じです。

 この橋本さんの元妻・かずみさんへのインタビューをまとめた本である『火宅』を読みながら、僕は、ある大好きだった作家のことを思い出していました。
 その人は、中島らもさん。

 らもさんも、51歳の若さで、事故で亡くなられたのですが、女性関係も含め、「自由奔放な生きざま」を貫いてきた人でした。
 死後、「正妻」と「愛人」のあいだに感情のもつれがあり、正妻が「暴露本」を出してしまったことも同じ。
 そして、この2人の共通点は、なんのかんの言っても、「正妻」を頼りにしていたのだな、ということです。

――たとえばの話、身内の方からすれば「ふざけるな!」であっても、極論ですけど、都道府県に1人ずつくらい女性がいるくらいのほうが、<やっぱり人気商売の方は違うな>って思うわけだから、理想はそのくらいであってほしいですよね。


橋本かずみ:それは極端な話ですけど、あの女好きにはビックリしますよ。ただ、私はよく橋本にも言ったんだけど、「誰と付き合ってて、いまどこにいるのかがわかればいいよ」って。


――さすが「正室」は理解がある。


かずみ:でしょう?(笑)ていうのは、なにかあった時に、たとえば誰か身内が亡くなったとか、事故に遭ったとか、そういう時につながる連絡先がないと困るから。


――まっとうな意見ですね。


かずみ:当時は携帯なんてなかったですからね。だけど橋本は「お前にわかられてたら、それは『浮気』って言わない。なんでお前の手のひらで転がされてなきゃいかんのじゃ! バレないように楽しむのがいいんだろうが!」って言われて。


――どうあっても「正室」にバレずに遊びたいと。


かずみ:「子どもができちゃったとか、私の生活範囲の知っている人とでなければ、遊ぶ分には構わないから」って言ってたんですけど、「それは面白くない」って言うから、ホントイタチゴッコで(笑)。クルマのトランクから『日帰り温泉』の本が出て来た時も、「いつ誰と行くの?」みたいに言うと、「あ、いや、別に」って(笑)。

 ここまでくると、「バレてないと思っているのは、本人だけ」のような気もするんですけどね。

 僕は、「プロレスラー」という人たちに、子どものころからすごく興味があるのです。
 彼らは、厳しいトレーニングに耐え、肉体を鍛え上げており、命をかけてリングに上がるという意味では、「アスリート」なのです。
 しかしながら、その一方で、大部分のスポーツ選手とは違い、レスラーというのは、良く言えば自由奔放、悪く言えば欲望にまかせた生活をしている(というイメージがある)んですよね。
 先日読んだ、サッカー日本代表の長谷部選手の本では、若いサッカー選手たちは、「明日、所属チームの練習があるから」ということで、みんなで集まっても、レストランで「水」をオーダーしていました。
 でも、プロレスラーは、それこそ、「毎日浴びるように酒を飲んでいる」というイメージがあります。
 アンドレ・ザ・ジャイアントが、搭乗していた飛行機のアルコールをすべてひとりで飲み尽くしてしまった、というようなエピソードを、僕は子どものころに何かの本で読みました。
 あれだけの大きな身体ですから、食べる量、飲む量が多いのは当然なのでしょうが、どうみても、「健康的な生活」とはほど遠い。
 でも、だからこそ、プロレスラーは、面白い。
 そして、「プロレスラーとは、そういうものだ」というか、「私生活でも他人を驚かせてこそ、プロレスラーだ」という気概みたいなものが、彼らにはあるのでしょう。

かずみ:大地(橋本真也さんの長男。現在はプロレスラー)が2、3歳の頃だったかな。橋本が並べた『ウルトラマン』のおもちゃをいじって倒しちゃったことがあったんですけど、そしたら横からバチーン! ですよ(笑)。「パパが遊んでるんだから遊ぶなーッ!」て。


――パパが遊んでるんだから(笑)。


かずみ:思わず「ええーッ?」みたいな(笑)。だけど、ウチにいる時は、毎日『ウルトラマン』で遊んでましたからね、橋本は。その時間は彼にとって大事な時間だったんだと思いましたね。


――大事な時間だったんですね。


かずみ:だけど、自分用におもちゃを買うのが恥ずかしかったみたいで、「プレゼントにしてください」ってリボンをかけて自宅に持って来るんですよ(笑)。だから子どもたちは自分たちに買ってきてくれたと思うんだけど、実は違ってて(笑)。ある時からそれに気づいて、自分用と子ども用、両方を買うようになりましたね(笑)。


その一方で、橋本さんにはこんな一面もありました。

かずみ:前に橋本と一緒にスーパーに行ったことがあって、少し橋本と離れて、品物を選んでたんですね。そしたら「おい、お前!」って声が聞こえたから、「はい!」って思わず答えちゃったら、私とは反対のほうに向かって怒ってるんですよ。


――なにがあったんですか?


かずみ:お店のお客さんみんなが見てるし、私が恥ずかしくなっちゃって、すぐに近寄って「どうしたの?」って聞いたら、「ちょっと店員の態度が悪かったから」って。話を聞くと、橋本がお肉を買った時に、「全部挽き肉にしてくれ」って言ったら、その店員さんの態度が悪かったらしくて、「コラーッ!」て説教がはじまっちゃったみたいなんですよ。結局、すぐにその店員さんは挽き肉にして、「申し訳ありませんでした」って持って来てくれたんですけど、「ありがとな。頑張れよ」って言うと、店員さんは「ありがとうございます」って恐縮して、すごく喜んでました。


――それも計算してやってないからでしょうね。


かずみ:前もコンビニで高校生がタバコを吸ってたら、「お前ら、もっと大事なもんがあるだろう!」ってタバコを取り上げて、「いましかできないことがあるだろう。こんなことはもっと大人になってもできる」って。そしたら高校生は「はいはい」ってなり、「握手してください」「頑張ってください」ってなって、橋本が「お前らも頑張れよ」ってポンポンと肩を叩いて。


――いい話ですね。


かずみ:だから橋本には男性ファンが多かったんでしょうね。だけど、いきなり大きな声を出されると、「私?」ってなりますよね(笑)。


 この本を読んでいると、橋本真也というひとりの人間の「純粋さ」と「子どもっぽさ」そして、「男としての魅力」と「人間としてのだらしなさ」が伝わってきます。
 奥さんも、よくこんな男と一緒にやってきて、3人も子どもを育ててきたなあ、と思う一方で、「こういう男がモテるっていうのは、地味に真面目に生きていた人間にとっては、割に合わないよなあ」とも考え込んでしまいます。

 「もし自分のところにいれば、もう少し長生きできたのではないか」とかずみさんは言っています。
 たぶん、僕もそうなんじゃないかと思う。
 やっぱり、自分にとって厳しいことを言ってくれる人、とくに異性というのは、大事にしなければならないな、とも感じます。
 まあ、それはやっぱり、「難しいこと」ではあるんですけどね。


 しかし、「上には上がいる」のもまた事実。
 実は、この本を読んでいて、僕がいちばん圧倒されたのは、橋本真也さんのエピソードではなくて、この話でした。

――最終的に橋本さんの出棺に、師匠のアントニオ猪木さんは間に合ったんでしたっけ?


かずみ:そこには間に合わなくて、もう焼いてからでしたね。


――じゃ、火葬された橋本さんと最後の対面をしたわけですね。


かずみ:初七日と一周忌かな? そういうのって、そこで一緒にやっちゃうじゃないですか。だからもう遺骨の状態になってから会長(猪木)に来ていただいて。


――猪木さんは、なにか言われてました?


かずみ:「元気ですかーッ!」てお骨に向かって言われて。


――ありゃりゃりゃ。もうたまらないですね、それは。


かずみ:<元気だったら死なねぇよ>ってみんな思ったでしょうね(笑)。私、思わず目が点になってましたもん(笑)。


――そりゃそうでしょう。


かずみ:<いつでもそのフレーズなんだ。お葬式の時ぐらい違うことを言えばいいのに>って思ったし。

そりゃそうですよね。
でも、「そこまでやるのが、アントニオ猪木」なんだろうな、と僕は感心しながら、不謹慎にも笑ってしまったのです。
橋本さんは「すごい人」だけど、アントニオ猪木の「凄さ」にはかなわなかった。
「プロレスラー」っていうのは、リングの上以外でも、「プロレスラー」であることを求められるという、キツイ、そして夢がある仕事なんですよね。
身近な人たちにとっては、「つきあいきれない」だろうけど……

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