小学校高学年のときのこと。
僕はひとりで、地元の小さな百貨店のなかの書店にいた。
とりあえず面白い本はないかな、と店内をうろうろしていたら、見知らぬ大人に声をかけられた。
「ちょっと君、ポケットの中身を見せてごらん」
僕のズボンのポケットは、四角くふくらんでいた。
その人は、たぶん、補導員だったのだろう。
僕は「ああ、めんどくさいことになってしまったなあ」
と思いつつ、少し震える手で、ポケットの中のものを取り出した。
先日、家族旅行で買った、四角い、財布。
高崎山のサルの絵がついていた。
僕も内心、膨らんだポケットを見て、これはまぎらわしいな、と感じてはいたのだけれど。
その大人は、僕が出した財布を見て、「ああ、そう」という顔をして、黙ってその場を去っていった。
万引きと間違われたのは、イヤではあったけれど、状況的にしょうがないかな、という気持ちはあったのだ。
むしろ、僕にとってショックだったのは、「他人を万引き少年よばわりして、それが間違っていたのに、『ごめんね』の一言すら言わない大人がいる」ということだった。
「相手は、所詮子ども」なのかもしれない。
少なくとも、その大人にとっては、そうだったのだろう。
僕はずっと、「子どもを子ども扱いできない」のだが、そのきっかけは、あのときのことだったのではないか、という気がしている。
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