琥珀色の戯言

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会社は変われる! ドコモ1000日の挑戦 ☆☆☆☆


会社は変われる! ドコモ1000日の挑戦

会社は変われる! ドコモ1000日の挑戦

内容(「BOOK」データベースより)
「ドコモ一人負け」「巨人の凋落」と酷評される厳しい状況から、2010年、顧客満足度No.1へ―いったいドコモに何が起こったのか?心を動かし、人を動かし、会社を動かすマーケティングの神髄。実際に行われた経営改革から学ぶ、長く愛されるブランドのつくり方。


 僕は15年くらいずっとドコモユーザーで、この1年はiPhoneとの「2台持ち」です。
 この本を読みながら、5年くらい前、ちょっとしたトラブルでドコモに電話したときに、「たらいまわし」にされたことを思い出しました。
 幸いなことに、最近はあまり大きなトラブルもなく、うあまりドコモのサービスを評価する機会はありませんでした。
 それでも、最近使っていた携帯の電池の減りが早くなってきたときも、すぐに交換してくれましたし、言われてみれば、接客はけっこう良くなっているような気もします。

 この「改革」が行われた理由には、携帯電話事業が置かれた状況の変化が大きく影響しているのです。

 さらに、決定的な違和感をもつにいたったのは、ユーザー目線でショップを訪れてみたときのことでした。


 当時(2007年)、僕が使っていたドコモの携帯電話は、自分でドコモショップに行って求めたものではなく、日本コカ・コーラの法人契約で手元に届けられたものでした。そこで、立場を隠し、ひとりの顧客としてショップを訪れてみることにしました。いわゆる覆面調査、というやつです。


 合計十数店を訪れてみましたが、びっくりしたのは、店内に貼られていた携帯電話の価格表でした。比較的新しい携帯電話がなんと1円と書いてあります。ところが、これは新規契約に限る、とあるのです。そして、すでにドコモを使っている人が機種変更をする場合は、2万5000円とあります。
 えっ? これはどういうことなんだろう!?
 僕は混乱してしまいました。
 そこで、ショップのスタッフに尋ねてみると、こう言われました。
「もし、ドコモの電話を持っているのであれば、一度解約したほうがいいです。その後、あらためて新規で入られたほうが安いので、こちらがお勧めです、番号は変わりますが」

 最後の「一度解約したほうがいいです」というのは、いくらなんでも……という気がするのですが、僕も長年、この「新規契約ばかり重視していて、ずっとドコモを利用していて、機種変更をしたいお客への冷たい態度」は、なんかおかしいと感じていました。
 ひどい店では、「機種変更時の価格」は表示されていないことすらありましたし。
 そもそも、「番号は変わりますが」っていう勧めかたは、「電話の命」である番号の意味を無視しているんですよね。
 一時乱立していた「携帯電話をプレゼントするふりをして新規契約を稼ぐ人たち」なんていうのも、「なんだかなあ」という感じでした。
 右肩上がりの業界には、ありがちな混沌とした時代だったのかもしれませんが……

 業界についてよく知らなかった僕は、このときはじめて携帯電話の販売の仕組みを理解したわけですが、そこで、しかし、待てよ、と思いました。
 これって、何かおかしくないか?
「お客さま起点」の発想を大事にしてきた僕が真っ先に思ったのは、端末が1円で売られていることではありません。
 ドコモを使ってくださっている、もっとも大事なお客さまが買い換えるのに2万5000円かかるのに、いままで他社の携帯電話を使っていた人がドコモに移ったら1円で買えてしまう、という点です。


 それは、ひどいではないか!?
 いったい、ほかの業界のどこに、お得意さんより一見さんを優遇するお店があるでしょうか!?
 ドコモを使っている既存のお客さまをいったい、なんだと思っているのか!?

 もちろん、これはドコモだけがそうだったのではなく、激しく新規獲得合戦をしていた携帯電話各社が、同じようなことをしていたのです。

 でも、これだけ日本人に携帯電話が行き渡ってしまえば、新規契約数が頭打ちになることは目に見えています。
 その「環境の変化」を魚谷さんは感じとり、「新規獲得を手厚くするのではなく、既存のお客さまをドコモファンにしていく」という方向に舵を切っていきます。

 この点について、魚谷さんは、こう書かれています。

 既存のお客さまを大事にしない会社に、新規のお客さまが長く継続的にとどまるはずがありません。

 新規のお客さまをとるためのコストと、既存のお客さまにお客さまでいていただくコストでは、はたしてどちらがたくさんかかるのか?

 新しいお客を獲得する「ゼロからプラス1」と、離れていく既存のお客を食い止める「マイナス1からゼロ」は、結果的には、同じなんですよね。
 後者のほうがコストがかからないのに、前者にばかり目がいってしまうのは、よくある話。


 魚谷さんたちは、「お客の目線に立って」、ドコモのサービスを改革していきます。
 それまでのドコモのサービスというのは、何かピントがずれてしまっていたんですよね。
 悪気はないんだけど、「お上からのお慈悲」みたいなサービスだった。
 そして、「上からの改革」だけではなく、現場の社員たちも「携帯電話の、いちユーザーとして」の感覚を反映していくようになりました。

 そしてもうひとつ、僕がよく覚えているのが、携帯電話を紛失したときのサービスです。「プレミアクラブ会員であれば、500円で緊急時にサービスが停止でき、ロックして他人が使えなくできます(おまかせロック)」というものです。
 いまや携帯電話は、誰にとっても紛失したらたいへんなことになる情報ツールです。だから、落としたときには、まずはロックをしたい。誰にも使われないようにしたい。そして紛失した場所を探すこと(ケータイお探しサービス)も300円でやってくれるという、一見、親切なサービスです。
 でも、ちょっと待て、という声が挙がりました。
 紛失というのは、お客さまにとって、もっとも困ったときです。その困ったときに、お金をとろうとするのが、このサービスなのです。しかも、プレミアクラブの「特典」と銘打って。
 ドコモが目指すロイヤリティ向上の目的は、まさにお客さまとドコモがパートナーとなるような世界をつくることです。それなのに、「困ったときに有料」なのです。


 いちばん困ったときこそ、手を差しのべるのが、「あるべき姿」ではないのか。
 だったら、無料化するべきではないか。
 そういう社員の方の声を聞きながら、これは、ロイヤリティ向上としては、ものすごくインパクトのある取り組みになると感じていました。これも、無料化が実現しました。

 いやほんと、こういうのって、むしろ、「なんで有料なんだ?」って思いますよね、ユーザーとしては。
 それがずっと「プレミアクラブの特典」として通用するという建前を押し通してきたのが、これまでの「殿様商売のドコモ」だったのです。
 僕はソフトバンク孫正義さんのことはそんなに好きじゃないけれど、少なくとも「ドコモ一人勝ち」が阻止されたことによって、ユーザーが受けている恩恵は、すごく大きいのではないかと思います。


「携帯電話ビジネス」に限らず、「客の視点とはどういったものなのか?」について考えるべき立場の人には、かなり役に立つ本です。
 
 ちなみに、ドコモというのは「Do Communications over the Mobile network」の略なのだそうですよ。

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