琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

ツレがうつになりまして。 ☆☆☆☆


参考リンク(1):映画『ツレがうつになりまして。』公式サイト

あらすじ: 仕事をバリバリこなすサラリーマンの夫、通称ツレ(堺雅人)が、ある日突然、心因性うつ病だと診断される。結婚5年目でありながら、ツレの変化にまったく気付かなかった妻・晴子(宮崎あおい)は、妻としての自分を反省する一方、うつ病の原因が会社にあったことからツレに退職を迫る。会社を辞めたツレは徐々に体調を回復させていくが……。

2011年25作目の劇場鑑賞作品。

金曜日の19時前からの上映で、観客は僕も含めて3人のみでした。
予告編までは僕ひとりだけだったのですが、本編直前に2人入場してきて、ちょっと安心しました。


この映画、宮崎あおい堺雅人という『篤姫』コンビの再結成ということが話題になっているのですが、『篤姫』をほとんど観ていたなかった僕は、とくに思い入れがなかったんですよね。


そして、原作については、あまり良い印象を持っていませんでした。
「読んでみてつまらなかった」わけではなくて、「病気のパートナーをネタにしてマンガを描いて、それで大儲けするなんて、感じ悪い」というような先入観を抱いていたのです。


それならなぜ観にいったのか?
うーん、『篤姫』云々はさておき、「この二人」の主演だからというのと、ネット上での評判がけっこう良かったので、ということで。


この映画を観て、僕は、自分がこの作品に抱いていた偏見が、ちょっと恥ずかしくなりました。
劇中で、宮崎あおいさんが「私はツレのうつのことを隠していたのは、私自身に、「うつという病気は恥ずかしいという気持ちがあったから、だった」と述懐する場面があります。
僕が「パートナーの病気を作品にするなんて」と思ったのは、その病名が「うつ」であったから、という面はたしかにあったのです。
もしこれが癌だったら、そうは思わなかったはず。


この映画は、「うつ」についての映画というより、「夫婦とは何か?」について考えさせられる作品でした。
結婚式のとき、「富めるときも、貧しきときも、健やかなるときも、病めるときも……」という、定番の「誓いの言葉」がありますよね。
この映画でも、その場面が出てくるのですが、あのとき誓った気持ちを、何年、何十年と持続するのは、本当に難しいことだな、とあらためて感じます。
この『ツレがうつになりまして。』は、「穏やかな映画」です。
ものすごくドラマチックな場面や大どんでんがえしがあるわけでもない。
うつは、そう簡単には、治らない。
でも、この夫婦の関係は、続いてゆくのです。


「病気のひと」と一緒に生きるというのは、とてもつらいものです。
精神的にも、経済的にも。
いくら好きで結婚したとしても、人と人との関係は、変わっていきます。
末期のがんのように、終わりが見えている病気であれば、献身的な関係を続けていけるかもしれないけれど、「うつ」は長くつきあっていかざるをえない病気です。
この映画でも描かれていないような「何も起こらなかった日常」こそが、「うつ病」の患者と家族を消耗させていくのです。


この作品では、幸運なことに「未遂」に終わりましたが、どんなにがんばって接してきている人でも、一時の苛立ちや疲労で、最悪の事態を招いてしまうこともあります。
もしそれが、「千慮の一失」であっても、人はその「一失」をおかしてしまった自分を責めずにはいられない。


「うつは心の風邪」というけれど、そういうイメージが広まってしまってみると、「風邪にたとえるには、重すぎる病気」のように思われます。
ただ、ツレさんが働いていた会社の場面をみながら、僕はこんなことも考えていました。
こんなハードな職場で働いているのに、「うつ病」という病名がつけば「働くべきでない」ことになり、病名がない人に、どんどん仕事が回されていくのか……って。
うつ病の人」と「そうでない人」に、そんなに差があるんだろうか……
いや、「差がないように見える」からこそ、うつ病っていうのは恐ろしいのだろうけれども。


そして、「もしこの夫婦に子どもがいたら……」とか、「ハルさんの仕事が、基本的には家にいられるマンガ家じゃなかったら……」とか、想像もしてしまいます。
もし僕の家庭だったら……


世の中には、いろんな夫婦の形があるし、「二人がつかまったら、沈んでしまう板」であれば、ひとりが手を離す、という選択肢を責めるわけにはいかないはずです。
この物語は、ものすごくよかった。
僕は、観ながら自分の「いたらない夫」っぷりに反省しました。
でも、ここまで病気のパートナーに尽くせる人はそうそういないだろうし、ここまでしなくてはダメ、と言われたらつらいだろうな、とも感じました。


そんなことを感じたのは、つい最近、このエントリを読んだからなのかもしれません。
参考リンク(2):彼女、嫁に「愛してる」とメールしてみろ(ハムスター速報)


人と人、とくに夫婦・家族であれば「支え合う」べきではあります。
しかしながら、もし自分が「支えてもらうほうだったら、ここまで相手に負担をかけることを望むだろうか?」とも思うし、「支える立場だったら、支えきれるだろうか?」とも考え込んでしまいます。


本当に、良い映画ですよ。
宮崎あおいさんと堺雅人さんは、予想以上に素晴らしかった。
もうちょっとお客さんが入ってもいいのになあ、と思います。
あまりに「ありきたりの感動モノのような先入観を与えてしまう」のも問題なのでしょうか。


「軽くみえるけれど、本当はすごく重い映画」です。

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