琥珀色の戯言

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伊藤Pのモヤモヤ仕事術 ☆☆☆☆


伊藤Pのモヤモヤ仕事術 (集英社新書)

伊藤Pのモヤモヤ仕事術 (集英社新書)

内容紹介
「モヤモヤさまぁ~ず2」「やりすぎコージー」など、テレビ東京の深夜帯で数多くの野心的な番組を手がけてきた通称「伊藤P」。その企画力、仕事術はどのようにして磨かれたのか?伊藤Pの「モヤモヤ仕事術」とは!?名物プロデューサー・伊藤Pが、16年間のサラリーマン生活で培った仕事術を伝授する。
ビジネスマン、新社会人、就活生……仕事で、日常生活で、悩んでいる全ての人に捧げる究極のビジネス書的生き方本。
さまぁ~ずや大江麻理子アナ、大橋未歩アナなど、著者の同僚も寄稿。

たぶんありきたりな「有名テレビマン本」なんじゃないかな、と思いつつ購入したのですが、読んでみるとかなり楽しめました。
テレビ東京」というと、テレビ業界のなかでは、圧倒的な「弱小勢力」。
とはいっても、一流企業であり、入りたがる人も多いのでしょうが、「テレビ局に入れるのなら、絶対にテレビ東京がいい!」という人は、あまりいないはずです。
でも、この本を読んでいると、「弱者だからこそ、マイナーだからこそできること」っていうのも少なくないし、それを逆利用する生き方もあるんだな、と勇気づけられました。

 万年最下位の事実は揺るがない。だとしたら勝ち方を考えましょう、と自分を納得させていきました。会社にないものを求めてもしょうがない。じゃあどうすればいいかを考えた時、正しいかどうかはともかく、その答えを自分なりに持っていなければいけないと感じたのです。
 一番カッコいい勝ち方。それは圧勝です。
 他局の視聴率が10%台の時、テレ東だけが20%。これは非常にカッコいい。プロ野球で言えば二位と20ゲーム差つけての優勝・マラソンで言えばぶっちぎりの快走です。
 しかしバラエティに限って言えば、現在のテレ東で他局と数字が拮抗しているのは、唯一『開運!なんでも鑑定団』だけです。どう前向きに考えても、数字で圧勝するのは難しい。もしかしたら、他局が5%の時、テレ東が6%で数字を上回ることがあるかもしれません。でも万年6位の野球チームが5位になったところで胸を張れないように、ちょっと勝ったぐらいじゃカッコ良くないんです。 
 数字の上で戦っても、どうせカッコいいことにはならない。そこで僕は、あることに気がつきました。 
 勝手に勝てばいいと。
 僕は自分が作っている番組が、ぐうの音も出ないほど、完全に負けていると思ったことはありません。数字では負けても、「こんな番組、おたくらにはできないでしょ」という思いは確実にある。
 明確に視聴率で勝っていなくても、勝ったなという時はあるんです。たとえば他局はウン千万の制作費を使って視聴率が10%だったのに、テレ東の裏番組は何百万円の制作費で8%の視聴率というような場合。表に出た数字だけを追えばテレ東の敗北ですが、費用対効果は明らかに勝っている。勝者からいれば、たまったもんじゃない。 
 それにテレ東には、ファンがつきやすい局という特徴が昔からありました。僕は世間の人が「テレ東」と呼ぶ時、どこか好意的な響きを含んでいるな、と思っています。日本人特有の判官贔屓も手伝って、「方向が少しズレていて決して成績は良くないけれど、頑張っているから憎めないクラスメイト」的な感情を抱いているのではないでしょうか。
 そう考えると、数字には反映されないけれど好きな人が多い、という勝ち方だってあるわけです。好きだから見る、つまり積極視聴の勝利。それはテレ東の、ひとつの強みと言えるでしょう。

 『ガイアの夜明け』を立ち上げたプロデューサーと話していて、すごく共感したのは、「テレ東は視聴者を差別するべき」という意見でした。
 ビジネスシーンの中で起こるさまざなま事象を取り上げる経済ドキュメンタリー番組『ガイアの夜明け』は今でこそ認知されましたが、番組が始まった2002年には、「こんなビジネスに特化した内容で誰が見るんだよ?」と言われていたそうです。実際、遅い時間帯とはいえ視聴率は2〜3%台。なんとも先行き不安に見える船出でした。
 それでも内容を変えずにやり続けたのは、ひとつの信念があったからです。番組のターゲットは、ワイドショー好きな主婦層や、わんぱくな子供ではなく、一定ラインの平均年収をもらっている、ある程度裕福な人。そういう層に向かって放送して、それ以外の視聴者はまったく意識していないわけです。
 限定した層に視聴者を設定したら、もうそこからは動かない。少なくともターゲットにした層の人たちには大多数に見てほしい、その上で作りによってはそれ以外の人も巻き込みたい。そのことを意識しながら、毎回の切り口を考えていくのです。そうやって企画内容を崩さず、番組を発信していくと、「こういう面白いことをやっているぞ」とだんだん波及していきました。つまり番組はプレミアムな存在となり、先駆的な第一歩を踏み出す。
 僕は『ガイアの夜明け』を初めて見た時、「面白いことやってるなー。この番組は目線の番組だな」と思いました。たとえば会社の人事に注目し人事をテーマに一時間の番組を作るなんて、なかなかです。しかし、よそにない目線や独自の着眼点を持っているからこそ、必ず繰り返し見てくれるファンが増えて、番組が成功していく。
もし視聴率を15%獲ろうとなったら、ターゲットをそこまで絞らず、いろんな人を巻き込む考えを持ち込まないといけません。でも万人受けを狙うと、熱を持って支持してくれる固定ファンを取りこぼしてしまう危険性がある。どちらを選ぶか? 僕の番組にあるのは、もちろん「好きな人だけ見てくれればいい」という方法論です。

 テレビ東京は、やはり、「マイナーな存在」なわけです。
 でも、「マイナーだからこそ、常に15%の視聴率を求められずにすむ」という面もあります。
(もちろん、獲れればそれに越したことはないのでしょうけど)
 コアなファンだけが確実に見てくれ、支持してくれる番組というのは、他の大手キー局では、「数字が獲れない」から、存続が難しい。
 でも、「テレビ東京」であれば、要求される視聴率のハードルが低いので、挑戦し、続けることが許されるのです。

 いまはCSもたくさんの局が乱立していて、昔ほど「テレ東としての差別化」は難しくなり、むしろ「CSほどコアなターゲット寄りではダメだし、他のキー局ほどメジャー志向でもダメだし……」という、プレッシャーもあるのではないかと思いますが。

 この新書を呼んでいると、プロデューサーとしての伊藤さんの魅力が伝わってきます。

 さてなんの話をしているのかというと、プロデューサーにも「人のために死ねること」が求められると思うのです。プロデューサーは、やりたい企画が面白くなければいけませんが、それだけで務まる仕事でもありません。大事なのは、人のために死ねること……いや、死にまくれることが、プロデューサーの最低条件です。
 上司からOKを引き出すために面倒くさいけど飲みに行く。誰のために根回しをするのか? 自分の場合もあるけれど常に人のことばかり考える。会社のことも考える。時には後輩ディレクターに仕事を任せて、大きなトラブル。場合によっては彼らの後始末で謝りに行く。信じられないほど至近距離で怒鳴られることすらある。この仕事、面白いですか? 100%つまらない仕事でも、プロデューサーはそういうことが平気で出来なければいけない。それで給料をもらっているんだから、イヤな思いをするのも当然なんです。お仕事なんです。

 高校時代野球をやっていた伊藤さんは「守備は評価されていた、つなぎ役の選手」だったそうです。
 その伊藤さんが、プロデューサーの仕事は「バントみたいなもの」だと例えています。
 派手な仕事のように思われがちだけれど、実際にやっていることは、世間の「中間管理職」と変わらない。
 もっとも、テレビ業界にいながら、そういう「中間管理職としての仕事」を厭わないことこそが、伊藤さんの数々のヒット番組の原動力でもあるのです。
 この新書では、伊藤さんの「新しい企画の発想法」や「モヤモヤさまぁ~ず2」「やりすぎコージー」などの人気番組が生まれたきっかけなどが語られています。
 伊藤さんの「発想法」は、「ひらめき」というよりは、「ひとつのアイディアに対する、地道な試行錯誤」なんですね。
 そんなふうに苦労ばかりではあるけれど、伊藤さんの言葉からは、やっぱり、テレビ番組をつくる仕事には魅力があるのだな、というのが伝わってきます。

 とは言え、テレ東は開局しておよそ半世紀、ずっと最下位であり続けた局という意識は根本にあります。ビリはビリだし、小バカにされている感覚もちゃんと持っている。でも「それってすごすぎるよね!」ということ。事実は事実として素直に認めてしまえばいい。負けている中にも利点は必ずあるんです。だって負けているんだから、その先は上に上がるしかないでしょう?
 そうやって、最下位なりの勝ち方を僕は探していったのです。

 この新書には、「最下位なりの勝ち方」が詰まっています。
 「予算が少ないから」「有名タレントが使えないから」
 それは確かにハンディキャップではあります。
 でも、「最下位には、最下位の利点もたしかにある」のです。
 
 いま自分が「テレビ東京」の位置にいる、と感じている人は、一度読んでみてください。
 少なくとも、元気は出ますよ。

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