琥珀色の戯言

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ミッキーマウスはなぜ消されたか ☆☆☆


内容(「BOOK」データベースより)
一九八七年、小学生が卒業記念に描いたミッキーマウスの絵がウォルト・ディズニー社の抗議によって塗り潰された―それは一体何のためだったのか?小笠原諸島に封印されている核兵器の噂や、タイタニック号から生還した唯一の日本人生存者を巡る理不尽な謎など、世に蔓延る疑惑の真相を全十編解き明かす。書き下ろしを含む、文庫オリジナル版。

単行本発売時に一度読んでいるのですが、こちらの記事を見て、半分近くが新しい内容と差し替えられているとのことで購入。
東日本大震災の被災地レポート「封印された観光地」と「涼宮ハルヒのモデルは角川春樹?」「タイガーマスク騒動はパチンコ台の宣伝だったのか?」「『ひぐらしのなく頃に』は殺人犯を育てる悪魔のコンテンツなのか」の4編が、今回新しく収録されたものでした。

このなかでも、「封印された観光地」はやはり印象が強く、テレビでも何度も紹介されていた、民宿に乗り上げた観光船「はまゆり」についての現地でのこんなやりとりが収められています。

 この船の模様が新聞やテレビで報道されると、保存を求める声が県内外から上がった。広島大学の中田高・名誉教授ら約170人の学識経験者は、岩手県に「原爆ドームのように悲惨さを後世に伝えて欲しい」と要望書を提出。こうした動きを無視するわけにもいかず、県と釜石市で対応を協議したが、4月28日に「解体やむなし」の決定が下る。船はほぼ無傷だが、海まで移動することは不可能で再生は難しい。5月10日に2台の大型クレーンで吊り下げて地上に下ろされ、約1か月がかりで解体されることになった。

 この船に対する、見物客と被災者のみかたを、著者は次のように紹介しています。
「大震災の歴史的遺物として、保存すべきだ」という見物客たちの意見がある一方で、

 被災した地元住民の反応は複雑だ。30代の男性は「あんなのが残っていても、何の励みにもならない。保存する意味なんかない」と吐き捨てるように言う。40代の女性も「私の家もすぐそこですが、もう跡形もありません。津波が迫る中で山に逃げ込んで、ギリギリ助かりました。どうせこの土地には住めないし、家も建てられない。船を残してもいいと思うけど、旅館の上にあるのでは今にも落ちそうで危険ですよね……」と不安げだ。

 この「温度差」をみると、「歴史的遺物として」というのは、傍観者の立場からの意見なのだろうなあ、と思えてきます。
 あの「原爆ドーム」、僕は広島に住んでいたことがあるので、何度もみてきましたが、実際に原爆を体験した人にとっては、見るたびにあの時のことを思い出し、「なんであんなものを残すんだ」と感じてきたのかもしれません。
 「歴史」は、傍観者によってつくられる。


 この本のなかでの白眉は、「捏造された日本人差別」〜タイタニック生還者が美談になるまで」でした。
 これは単行本から収録されていたものなのですが、「タイタニック号に乗っていて辛くも生還した、ひとりの日本人乗客」と「彼が(女性や子供を差し置いて生き延びたことから)卑怯者として非難されてきたという歴史」について、丁寧に検証されたものです。
 著者がたどり着いた「真実」はここでは書きませんが、「報道されること」の怖さと、「報道する側」の無責任さについて考えさせられる、とてもすばらしい「調査記録」です。
 機会があれば、これだけでも、読んでいただければと思います。

 安藤さんの仕事を追っていくと「自分の目や耳や足を使って、きちんと取材をするというのは、なんて大変なことなのだろう」と考えずにはいられません。
 それがあたりまえのことだとみんな思っているけれど、本当にそれをやってしまうと、食べていくのすら難しい。


 正直、差し替えられて、新しく入れられた後半3編「涼宮ハルヒ」「タイガーマスク」「ひぐらし」については、一度読んで、「ああ、まあそうだよね」という感じだったので、単行本を買って読んだ人にとっては、「この差し替え分のために、660円+税を出す価値があるか?」というのは微妙なところです。
 でもまあ、この文庫の印税が、安藤さんの次の仕事のために役立つのなら、それはそれで悪くないかな、と僕は思っています。

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