琥珀色の戯言

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ヤクザが店にやってきた ☆☆☆


ヤクザが店にやってきた―暴力団と闘う飲食店オーナーの奮闘記 (新潮文庫)

ヤクザが店にやってきた―暴力団と闘う飲食店オーナーの奮闘記 (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
額に汗して稼いだ金で飲む―。客のそんな一夜のささやかな楽しみを守るため、一人の男が立ち上がった!ヤクザを撃退し、その営業方針を貫いて長年飲食店を経営してきた著者。「ぶっ殺してやる」と脅されながらも、熱い信念を曲げずに闘い続けるのはなぜか。ヤクザに絡まれそうになったとき、どうすればいいのか。深い洞察と手に汗握るエピソードに彩られたノンフィクションの傑作。

 僕はこの本を読んで、「暴力団お断り」のポリシーを貫いてきた著者・宮本照夫さんの気概に感心してしまいました。
 でも、その一方で、「やっぱり、水商売や夜の街とは、なるべく関わらないほうが無難だな」とも思ったんですよね。

 私の店は高級店ではなく、誰もが気楽に入れる店ばかりである。だからどの客も自分が額に汗して稼いだ金で飲む。ささやかな楽しみを求めて店に来る。客のそんな一夜の楽しみをぶち壊す権利は誰にもない。だから私はヤクザと、ヤクザでなくても「他の客に迷惑をかける客」は徹底してお断りし、それを店の営業方針にしてきた。たとえぶん殴られ足蹴にされても、警察を呼ぶことになっても、法廷闘争に訴えることになっても、そうした客は店に入れることを拒否してきた。そのために私が何をしてきたか。この本は、そんな45年間のドキュメントである。

 宮本さんは、本当に肝が据わった人で、自分の店に暴力団や迷惑な客を入れず、普通の人が安心して飲めるように、心を配ってきた人です。
 にもかかわらず、この本を読んでいると、「だからこそ、宮本さんは暴力団員と丁々発止のやりとりをしなければならないし、その関係者との(望まないものだとしても)「つき合い」もできてしまいます。
 極論すれば、「暴力団を拒絶するためには、自分も暴力団に負けないくらい捨て身にならなければならない」のです。
 そんなことができる人は、そうそういないと思います。
 そう考えると、「関わらないほうがいい」よねやっぱり。
 警察も、「民事不介入」だし、暴力団が店で因縁をつけてきたくらいでは「よくある店と客のトラブル」として、まともに取り合ってはくれません。
(いまは、暴力団への圧力が強まっているので、少し違う対応をしてくれるおかもしれませんが)


 もちろん、暴力団と闘いつづけているからこそわかる、さまざまな知識が、この本には詰まっています。

「ヤクザが逮捕されたとしても、お礼参りが怖い。刑務所を出所したら仕返しに来る。住所を変えることはできないし、引っ越したとしても執念深く追いかけてきて、何をされるか分からない」と、警察に相談しない人が多いが、これらは、勝手に想像を膨らませ、自分でそう思い込んでいるケースがほとんど。そう思い込ませるのが彼らの手口なのだ。私の経験から言って、お礼参りなんてものはまずない。あったとしても飛行機事故に遭う確率以下だと思う。45年の間、ヤクザ、不良客を百人以上警察に検挙させた私がこうしてピンピンしているのが、何よりの証拠だろう。
 やっと塀の外に出てきたのに、お礼参りなんかしてまた塀の中に戻りたくはない。出所後5年間に犯した犯罪は、すべて実刑だ。はっきり言ってお礼参りは迷信。

 しかし、この本を読んでいると、暴力団は怖いけれど、彼らに憧れたり、利用したりする「一般人」がいるからこそ、ああいう存在が成り立っているのだ、ということも考えさせられます。
 1986年の夏に、静岡県浜松市で、山口組系の暴力団一力一家の事務所立ち退きを求める住民と同暴力団が対立し、訴訟や傷害事件にまで発展する事件が起きたそうです。
 この事件は、3年もの粘り強い運動の末、組解散には至らなかったものの、組事務所の撤退は達成されました。
 しかし、宮本さんは、この「勝利」のあとに起きた、あまり報道されなかった事実を紹介しておられます。

 意外に知られていない事実がある。和解成立は昭和63年(1988)年二月。そのおよそ三年あとの平成二(1990)年11月、追放運動の先頭に立った一人が、別の暴力団員を使って、自分の経営する会社から意見の合わない役員を追放し、彼らに謝礼1千万円を支払っていたという事実が、ひょんなことから明るみに出たのである。
 住民の運動が盛り上がってきたころ、ビラまきや陳情の先頭に立っていた人物が、じつは自分の会社で暴力団を雇っていた。この事実は住民を驚かせた。同時に追放運動の成果を半減させることにもなった。つまりこの社長は、表と裏をうまく使い分けていたのである。
 逆にいえば、暴力団はいつも、こんなふうに忍び寄ってくる。これが手口なのだ。表では対立していても、裏では自分たちの存立の基盤にちゃんと食らいつく。甘い汁は決して見逃さない。
 法廷ではたしかに一力一家は負けた。街から出ていった。しかし別の組員は、その隙を狙って1千万円をひったくってしまう。要するに、だから暴力団なのである。それほどに暴力追放は難しい。

 この他にも、「暴力団立ち入り禁止」という看板を掲げていると、「本物の暴力団が来ないことから」と、暴力団まがいの横暴な行為をする「一般人」が出てくることもあったそうです。


 「みなさんも裏社会の人間に助けられたことがあるはずだ」と語った有名な司会者がいましたが、僕は、暴力団は「必要悪」なんかじゃないと思う。
 でも、この本を読んでいると、暴力団と関わると、それが「追放運動」であっても、「暴力団的なメソッド」に染まってしまうのかもしれないな、という怖さを感じずにはいられませんでした。
 そもそも、警察がこの本をテキストとして利用しているという話も、裏をかえせば、「水商売の経営者たちは、ある程度は自分でなんとかしろよ」っていう意味のようにも思われますし。

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