琥珀色の戯言

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蜩ノ記 ☆☆☆☆


蜩ノ記

蜩ノ記

内容紹介
鳴く声は、命の燃える音に似て―― 命を区切られたとき、人は何を思い、いかに生きるのか? 豊後・羽根藩の奥祐筆・檀野庄三郎は、城内で刃傷沙汰に及んだ末、からくも切腹を免れ、家老により向山村に幽閉中の元郡奉行・戸田秋谷の元へ遣わされる。秋谷は七年前、前藩主の側室と不義密通を犯した廉で、家譜編纂と十年後の切腹を命じられていた。庄三郎には編纂補助と監視、七年前の事件の真相探求の命が課される。だが、向山村に入った庄三郎は秋谷の清廉さに触れ、その無実を信じるようになり……。命を区切られた男の気高く凄絶な覚悟を穏やかな山間の風景の中に謳い上げる、感涙の時代小説!


第146回直木賞受賞作。
「十年後に切腹するまでに、家譜の編纂を終えることを義務付けられた男」と、その家族、そして、その「見届け役」を命じられた男の物語。
読み終えて、ちょっと涙が出そうになりました。
ああ、戸田秋谷、立派だなあ、カッコいいなあ。人間っていうのは、こんなふうにありたいものだなあ。


でも、その「感動」の一方で、この小説て、あまりに「みんながそれなりにいい人で、丸く収まりすぎてしまっている」ようにも思いました。
とくに敵役が、あんなことまでされても、「あいつにはかなわん」みたいに納得してしまうのであれば、もっと最初から物わかりがよくてもよさそうな気がしましたし。
檀野庄三郎にしても、もうちょっと葛藤があってもよさそうな……


いや、読む側としては、このくらい「キレイな話」のほうが、心地好いことはまちがいありません。
これが「ハッピーエンド」とも言い難いのだけれども、それなりに「すっきりする結末」です。
この小説のなかでの「秋谷の生きざま」は、まちがいなくカッコいい。
ただ、「小説」としては、秋谷が切腹を命じられる原因となった「秘密」に何の意外性もなく、「謎解き」も、偶然そこに行くことになった人が調べてくれるというのは、ちょっと物足りない印象でした。
もちろん、当時の感覚では「どえらいこと」だったのでしょうけど。

「起きてしまえば、一揆に後戻りはない。止めようとする者は殺されるだろう」
「まことでございますか」
 近著した面持ちで庄三郎は身を乗り出した。一揆を止める者が殺されるなど信じられなかった。
一揆を首謀いたす者は、百姓をまとめるため、まず同意せぬ者を弱百姓として責めたて、家をつぶす。場合によっては打ち殺すこともある。そうでもいたさねば、誰も命がけの一揆になど加わりはせぬであろう。さようなことになれば、この家にも百姓たちが押しかけてこよう。弱百姓に対して行うのと同じことをいたすかもしれぬ」

「謎解きがどうのとか、ご都合主義だとか考えずに、秋谷の『淡々としているようで、地に足がついている武士としての生きかた』を追っていくための小説」なのでしょうし、そうして読むのが、いちばん良いのではないかと思います。
その一方で、「じゃあ、秋谷の力で、何が変わったのか?何かが良くなったのか?」とか考えてしまうのも事実。
でも、変えることができなくても、なんとかいまの状態を維持し、破たんを防ぐというのも、状況によっては大事な「仕事」なのです。


設定から展開まで、「ありきたり」ではありますが、それが「ありきたりな流れ」だからこそ浸ってしまいたくなる。優れた時代小説でした。

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