琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

ドラゴン・タトゥーの女 ☆☆☆☆



あらすじ: 月刊誌「ミレニアム」で大物実業家の不正行為を暴いたジャーナリストのミカエル(ダニエル・クレイグ)。そんな彼のもとに、ある大財閥会長から40年前に起こった兄の孫娘失踪(しっそう)事件の調査依頼が舞い込む。連続猟奇殺人事件が失踪(しっそう)にかかわっていると察知したミカエルは、天才ハッカー、リスベット(ルーニー・マーラ)にリサーチ協力を求める。

参考リンク:映画『ドラゴン・タトゥーの女』オフィシャルサイト


 金曜日の夕方の回を鑑賞。
 今回はレイトショーにならない時間帯で観た+『アバター』のテレビ初回放映日だったからなのかもしれませんが、観客は僕も含めて5人でした。
 それでも、いま上映中の作品のなかで一番人気だそうですから、他の映画は、お客さんいるのだろうか……


 上映時間が2時間半を超える(158分)ということで、途中でダレてしまったり、最後のほうは疲れはててしまうのではないかと心配だったのですが、ほとんどそんなことはありませんでした。
「ほとんど」と書いたのは、原作がかなりの長編ということもあり、登場人物や背景の説明に30〜40分くらいかかり、なかなか物語が動かない前半は、やっぱりちょっと眠くなってしまったんですよね。
 しかしながら、そこで登場するリスベットさんの過激エログロシーン!
 いや、あれは目が覚めるわ。
 観客が眠りに落ちそうなタイミングで、轟音の空中戦がはじまる『スカイ・クロラ』を、ちょっと思い出してしまいました。


 僕は原作を読んだので、「あの長い話を、かなり長めとはいえ、どうやって3時間以内におさめることができるのだろう?」と疑問だったのです。
 フジテレビだったら、1クールのドラマがつくれそうなくらいのボリュームなのに。


 しかしながら、そこはさすがにデビッド・フィンチャー監督。
 原作のヴァンゲル家の人々とミカエルとのやりとりのシーンを大幅に削り、寄り道を極力減らし、いわゆる「謎解きパート」を大幅に簡略化するという英断により、キッチリ時間内に(とはいっても、配給会社はもっと短くしてほしかったでしょうけど)おさめたという感じです。
 いやほんと、原作を一生懸命読んだ僕からすると、「なんなんだこの写真をずっと眺めているだけ+突然のひらめきで解けてしまう長年の謎は……」と、やや拍子抜けしてしまうのですが、映画を観る人たちは、自分が犯人当てをしたいわけじゃないものね。
 ダラダラと「状況説明」をされるよりは、緊迫した場面の連続のほうが、楽しめる人が多いのは間違いありません。

 自分で謎を解くミステリというよりは、物語がどう展開していくかを楽しむサスペンス映画だということなのでしょう。


 この作品、本当に「良質のサスペンス映画」だと思います。
 謎解きは唐突だし、画面に激しい動きがあるわけでもないのだけれども、原作を読んでいる僕でさえ、「次はどうなるんだ?」と気になってきます。
 リスベットが何をするのかって、予測も説明もしにくいし。


 そういえば、この映画への感想で、「あんなエログロシーンが必要なの?」というのがいくつかありました。
 たぶん、ストーリーの流れとしては、あれは無くても問題ないし、むしろ無いほうが幅広い観客向けの映画にはなるのでしょう。
 ただ、単行本が出たときに読んだ、原作のスティーグ・ラーソンさんと訳者の話では、ああいう場面こそ、この物語の「隠されたテーマ」でもあるんですよね。
 「社会保障制度が充実した、住みやすい国」というイメージの北欧諸国なのですが、そういう「手厚い保護」の裏で、子供や精神障害者の後見人であることを利用して酷いことをする人間や、子どもを虐待する親がいるのです。ナチスに協力し、ユダヤ人を迫害した人々もいました。
 ところが、そういう「暗黒面」は、「福祉の国」の善良なイメージに覆い隠されて、なかなか表に出てくることがありません。
 表に出ないことによって、どんどん彼らの悪行は、エスカレートしていきます。
 『ミレニアム』は、そういうスウェーデン社会の「外面の良さに隠された問題点や閉塞感」を描いた作品でもあるのです。
 だから、一見「眠い観客を起こすためだけのような」グロテスクなシーンを、入れなければならなかった。
 あれがなければ、ただのサスペンス映画になってしまうから。


 長尺ですが、ある程度の情報処理能力とエログロへの寛容を持っている人なら、かなり楽しめる作品だと思います。
 ルーニー・マーラさんのリスベットっぷりにも、脱帽。

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