琥珀色の戯言

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旅の理不尽 ☆☆☆☆


旅の理不尽 アジア悶絶編 (ちくま文庫)

旅の理不尽 アジア悶絶編 (ちくま文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
真面目なサラリーマンだった著者が、有給休暇を使い果たして旅したアジア各地の脱力系エピソード満載の爆笑体験記。若き宮田青年は、数々の失態を繰り返しながら旅の醍醐味と人生のほろ苦さを学んでゆく。誰もが経験するような旅の日常を、誰も追随できない独特の感性と文体で綴る鮮烈な処女作!エッセイスト・タマキングの底力を感じる一冊。

うーむ、やっぱり旅行記や旅エッセイは、1作目が面白い。
この『旅の理不尽』、宮田珠己さんのデビュー作で、最初は自費出版されたそうです。
献本されてきたその本を『旅行人』という雑誌の編集・発行人である蔵前仁一さんが偶然読んだのが、宮田さんの「メジャーデビュー」のきっかけになったのです。
蔵前さんも送られてくるたくさんの本を、全部読んでいるわけではないそうなのですが、「表紙の変な顔の絵が引っかかって」手にとったら面白くて一気読みしてしまったのだとか。


僕は自分が出不精にもかかわらず(だからなのかもしれませんが)、旅モノがけっこう好きで、よく読んでいます。
でも、最初の作品が面白くても、2作目、3作目になると、一気にパワーダウンしてしまう人が多いのです。
最初はまさに「等身大の体験記」「旅をして面白かったことを書きたい!」だったのに、それが「書くための旅」になり、現地での行動も「ネタのために、人がやらないことをやる」ようになってしまう。
そうなると、そのムリが読んでいるほうにも伝わってきて、つまらなくなってしまうのです。
ある旅エッセイの人は、ネタにするためなのか、あえて少林寺拳法の道場に弟子入りして、その様子をエッセイに書いていたのですが、「そこで辛い目にあった」と言われても、「そりゃそうだろ」としか言いようがなく、書いている側が「こんな特別なことやってるよ、面白いでしょ」と、にじり寄ってくればくるほど、こちらはかえって引いてしまいます。
そういうのが好きな読者も、いるのかもしれないけどさ。


この『旅の理不尽』の「はじめに」には、こんなふうに書かれています。

 さて、私は、名もない一介の素敵なサラリーマンに過ぎない。この本は、私が夏季休暇やゴールデンウィーク、年末年始休暇のほか、会社員として当然の権利である有給休暇を取得したり、その他当然じゃない権利もいろいろ取得したりして出掛けた旅の記録である。

ほんと「ちょっと好奇心が強い人が海外に行って開放されちゃうと、このくらいのことは起こるだろうなあ」と納得してしまう、でも面白い出来事ばかりなんですよ。
まあ、実際には、宮田さんほどのバイタリティを持ち続けていろんなところを旅するというのは、けっこう大変なことなのでしょうけど。
15年前に書かれたもので、いまではたぶん大部分の日本人は騙されないであろう「宝石を日本に運んで詐欺」とかに引っ掛かっているのも、ご愛嬌。
そういうのを読むと、ネットの普及もあり、日本人の外国での「リスク意識」というのは、けっこう高まっているのかな、とも考えてしまいます。


ちなみに15年前の香港には「冷たいウーロン茶」って、無かったんですね。
「お茶は温い飲み物だ」という伝統がずっと続いていて、「冷やして飲もうなんて、誰も思いつかない」そうです。
そういえば、「アイスコーヒー」がこんなに頻繁に飲まれているのも、日本だけなのだとか。


気軽に読める、なかなか楽しい旅エッセイとしてオススメ。
15年くらい前の話だと、かえって、「当時はそんな感じだったんだなあ」という発見もありますしね。

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