琥珀色の戯言

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イラン人は面白すぎる! ☆☆☆


イラン人は面白すぎる! (光文社新書)

イラン人は面白すぎる! (光文社新書)

内容(「BOOK」データベースより)
日本で暮らすイラン人としていつも悲しく思うのは、イスラムに対する日本人の過剰な拒絶反応だ。過激な反政府デモや核開発疑惑などから、イランといえば「危険なテロリスト国家」というイメージが染みついてしまっている。でも、イラン人はみんな日本が大好き。そんな「片想い」を少しでも「両想い」に近づけたい、本書はそんなキューピッド的発想から生まれた。陽気なイラン人たちが織りなす数々の珍エピソードを通して、本当のイスラム文化を知っていただけるはずだ。メディアは教えてくれない、驚きのイスラム・スタンダード。


著者について
◎著者プロフィール
エマミ・シュン・サラミ
1980年イラン生まれ。東海大学中退。首都テヘランで幼少期を過ごした後、父親の都合により10歳で来日。北海道帯広市で日本での生活をスタートさせる。吉本興業のタレント養成所・NSC東京校第8期生。2004年「デスペラード」を結成。漫才コンビとしてライブやテレビなどで活動の場を広げている。
現在、TBSラジオ荒川強啓デイ・キャッチ! 」内「メキキの聞き耳」コーナーにレギュラー出演中。


僕は「イラン」という国に対して、「ガチガチの宗教国家」というイメージを持っていたのですが、この本を読むと、みんなけっこう普通の暮らしをしていて、イスラム教の教義を重んじながらも、日常生活レベルでは、けっこう「融通を利かせている」ところもあるのだなあ、と思いました。
まあ、そんなもんですよね、同じ「にんげんだもの」。

イラン人同士がこんな口ゲンカをしている光景も、よく目にした。


男1「お前のその態度はアラーの意志によるものかっ!?」

男2「その通りだ」

男1「だったら、オレはアラーの意志でお前を殴る」

男2「じゃあ、オレもアラーの意志でお前を殴り返す」


いちいちアラーいらないだろっ!!


このように、イスラム教のアラー絶対主義とイラン人特有のテキトーさが溶け合って、故植木等主演の映画『ニッポン無責任時代』(植木等のテキトーさが素晴らしい)ならぬ、<イラン無責任時代>と化している。
 たとえば、イランの親子によくある会話だと、


母「アンタ、今回のテスト50点しか取れてないじゃない、ちゃんと勉強したの?」
子「いっぱい勉強したよ。100点取れると思ったのに、アラーが50点持ち去っていったんだ」

いやほんと、アラーもいい迷惑だろうなあ、と。

その一方で、信仰を自爆テロにつなげてしまう勢力もいるんですよね……


この新書のなかでは、イランという国についての興味深いエピソードがたくさん紹介されています。日本人である僕にとっては、にわかに信じ難いものも含めて。
「豚肉を食べてはならない」という戒律があるにもかかわらず、豚肉の美味しさを知ってしまった著者とその家族の「葛藤」なんて、親しみがわいてきますし、食の戒律を意識したことのない日本人は、恵まれているよなあ、と。断食の習慣もないしね。


その一方で、イランという国とその国民が置かれている、厳しい現実についても、「日本にいて、祖国を外からみているからこそ」率直に書かれています。


読みやすく、興味深い本なんですよ、本当に。
でも、僕はこれを読んでいて、すごく気になるところがありました。
著者は、吉本興業所属の芸人ということで、この本には、

 僕もイランにいた頃は、イランにある聖地マシュハドのイマーム・レザ廟や、イスファハンイマーム広場、コム(ゴム)のファティマ寺院など多数の聖地を訪れた。
 各聖地ではスタンプラリーが行われ、5ヵ所のスタンプをもらうと金のボールペン、10ヵ所でふたこぶラクダの刺繍入りターバン、30ヵ所でペルセポリス(アケメネス朝ペルシャ帝国の都。世界遺産)の風景画入りランチョンマットがもらえる。そのため、景品目当てに行くヤツばかりで、純粋に神様に祈ろうという人はほとんどいなかったように思う。
 僕も五ヵ所回ったが、金のボールペンを持っていないのがクラスで僕ひとりになったので、あわててスタンプをもらいに行っただけというのが真相だ。

というような「ネタ」が含まれています(ネタだよね、これ)。
これくらいなら罪はない、と言いたいところなのですが、この本には、「どの話が本当で、どれがウソ(というか、著者はネタのつもりなんでしょう)なのか、全く明示されていない」のです。
「ウソのような本当の話」や「本当のようなウソ」は、芸人が舞台の上でやる分には問題になるような筋合いのものではありませんが、この本に関しては、「これは本当なんだろうか……」というのが、すごく気になるところがあって。


僕は、「イランという国について興味があるけど、あんまり堅苦しい専門書はキツイなあ」という気持ちで、この本を買いました。
新書の読者層、とくにこの本の読者には、そういう人が少なからずいるはずです。
でも、以下のような記述に、僕は困惑せざるをえません。

 男性が女性に対して犯す罪は、女性が男性に対して犯す罪に比べて半分の罰金ですむし、前述したように、死刑が執行される年齢も男が15歳以上であるのに対し、女性は9歳以上だ。近年、法律が緩和され男女平等に近づいてきてはいるが、欧米や日本などに比べると、まだまだ及ばない。
 2004年には、こんな痛ましい事件があった。当時16歳だった未婚女性のラジャビさんが51歳の男に性的暴行を受けた。男性はいうまでもなく死刑だが、被害者のラジャビさんまでも姦通罪で死刑判決を受けてしまったのだ。
 たとえ被害者とはいえ、イスラムの世界で処女が性的関係を持つことは重罪中の重罪、むしろ強姦罪より重いくらいなのである。
 他にも処女について理解に苦しむ慣習は多く、イスラム教では処女を処刑してはいけない。

ここまでは、僕も世界のメディアの報道で知っている話です。
でも、これに続いて、こんなことが書かれています。

 では、処女が殺人を犯したら、どう処罰されるのか?
 この場合、執行員の男性が女性死刑囚を姦淫し、処女を奪ってから処刑する。女性からすれば、現世に怨念でも残るであろう最期である。
 執行員側にしても、誰もがやりたくない仕事だ。嫌がる女性を無理矢理押さえつけて行為におよぶため、歯型やひっかき傷のあとが何年も消えずに残っている人も多い。

こういう話は「事実」なのかどうか、やっぱり気になります。
いくらなんでも、ここまでのことはしないのではないか……

参考リンク:Report: Iranian Militias Marry, Rape Virgin Prisoners Before Executions - Iran | Map | News - FOXNews.com
(あの悪名高いFOXNewsですけど……)
日本語だと、この記事が読みやすいと思います。


とりあえず、Googleで検索してみると、こういう記事があるのですが、他の「ソース」は見当たりません。
しかしながら、著者は10歳から日本に住んでいるわけですから、これが「事実」かどうか、あるいは、「イランでは当然のこと」なのか、現地の人間として、熟知して書いたとは、考えがたいんですよね。
ネットでも、この「元民兵の告白」以外のソースは(日本語で調べた範囲では)出てきませんし、この記事のなかでも、イラン政府は否定しているようです。


読者を惹きつけるような話を書きたかったのかもしれませんが、これはウソなら「イランに対する、ひどい冒涜」です。
伝聞で書くには、あまりにデリケートな問題なのでは……
いくら「芸人」でも、「これもネタです」っていうのは、さすがに許されない内容だと思いますし。


「面白くしよう」という気持ちは伝わってくるのですが、僕にとっては、「どこまでが本当なのかわからない、信用できない本」でもありました。
それはそれで興味深い、と言ってしまえるほど、僕はイランの基礎知識を持っていませんから、ずっと「これは本当なのか?」と悩みながら読むしかなくて。
そういう読書は、すごく疲れます。
「気軽にイランのことを知るための読書」のはずだったのに。


「笑わせる本」としては凍り付いてしまうような話が多く、「イランを紹介する本」としては信憑性に欠ける、という、すごく中途半端な一冊。
ああ、実にもったいないなあ。
でもやっぱり、「真面目に書いたら、芸人らしくない」のかなあ……

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